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魔女がドレスを着る時は  作者: くろえ
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追跡開始!

この国の宝物庫は、城の敷地内に建てられた小さな塔。

強固な結界が張り巡らされたこの塔に入れる者は限られている。

大魔女と、彼女が許した数名の高位魔道士達のみ。

それ以外の者は塔に近づく事すらかなわない。

そのはずだった。


「見事と言うより他にないわね。

結界はまったく破られてない。なのにアッサリ侵入されてる。」


大魔女は塔を一目見て舌打ちした。

結界を解かなければ決して開かないはずの入口扉が大きく開いている。

警備兵達は塔の周辺で倒れていた。全員意識がなく、駆け付けた治癒魔道士達に介抱されている。

「よくもやってくれたわね!

この国の民に手傷を負わせた罪は重いわよ!」

「兵士の皆さんは軽傷だそうです。

不幸中の幸いですけど、いったい誰がこんな事を?」

不安そうなティナのつぶやきに、オスカーが小さく頷いた。

「盗まれた物も腑に落ちないな。

儀式用の衣装一式、しかも大昔の物なんだろ?

他に金目の物はたくさんあったってのに。なんでそんな物盗んだんだ?」

たしかに、妙な話だった。

宝物庫には美術品や宝石類が有り余るほどあったはず。しかしそれらの金目の物にはまったく手が付けられてなく、衣装一式入れられていた行李のみがこじ開けられているのだという。

(いにしえ)の魔女の衣装ってのは、盗人がわざわざ選んで持ってくほど大それた物なのか?」

大魔女は首を横に振る。


「いいえ。(いにしえ)の魔女が着てたってだけ。

ただのドレスと、指輪とティアラ。

それに『大魔女の首飾り』を合わせて一式の、古式ゆかしき『正装』よ。」


大魔女は首にかけてる首飾りにそっと触れた。

色とりどりの魔石をふんだんに使った首飾り。午後の日差しにキラキラと神秘的な輝きを放っていた。

「この『大魔女の首飾り』には持ち主を護る魔法が掛けられてるの。

使用されてる魔石も魔力発動の手助けをするだけ。だから一緒に仕舞ったりせずに、歴代の大魔女が王冠の代わりに身につけてたのよ。

でも、他の物は何の力もない骨董品よ。」

「じゃぁ、尚更だ。なんのために盗んだんだ?」

「 謎、ね。今のところは。」

ティナがけが人の介抱を手伝い始めた。

その姿にちょっと微笑み、大魔女は金のローブを翻す。


「オスカー、力を貸して!

私の魔力で盗人を追うわ!このままじゃ済まさない!絶対とっ捕まえてやる!!!」


オスカーがニヤリと微笑した。

胸に手を当て、仰々しく腰を折り勿体ぶった礼をする。


「仰せのままに、大魔女様!

可愛い妻の願いとあらば、何なりと!」


大魔女の頬に朱が差した。

結婚してまだ日が浅いせいか、まだ 妻 と呼ばれる事に慣れていない。

ついでに 可愛い♡ とも言われ慣れないが、今はそんな事どうでもいい。

それどころじゃない。照れと動揺を無理に堪えて、大魔女はニッコリ微笑んだ。


「それじゃお願い♡ 大事な役目よ、がんばって♪

当面、大魔女の夫として公務を代行してちょうだい!

午後から予算会議があるの。来客予定は5組あるわ。

守護魔道士会議もあるし、今日中にまとめる法案も4つくらいはあったかしら?

経済白書は執務室の机で山になってるから、全部しっかり見といてね?

そうそう、エコールの街の小学校!

あれ、任せちゃってもいいかしら?立派な学校、建ててあげてね♡ 

ヨロシク、頼れるダンナ様♡♡♡

・・・行くわよ、ティナ!

けが人は治癒魔道士に任せておきなさい!」


呆気に取られるオスカーを残し、ティナと一緒に宝物の塔を後にする。

自室に帰る道すがら、大魔女は少々不安になった。


(まったくあの男の口はどーなってんのかしら?

恥ずかしい事をポンポンと!しかも人前で言うからどーしていいかわかんないわ!

そりゃアタシだって嬉しいわよ?アイツに可愛い♡とか言われたら。

でも言い方ちょっと慣れてない?軽いとゆーか、こなれてるっていうか・・・。

まさか今まで、他の女に散々言ってきたんじゃないでしょうね?!

そうだったら許さないわ!後でガッチリ聞きただしてやる!!!)


「・・・あの、お姉様?

お言葉、口から漏れてますが・・・。」

「!? き、気のせい!きっと空耳よっっっ!!!」

「そ、そうですね、スミマセン。」

ティナの控えめな気遣いが痛い。

自室へ向かう大魔女の足が速くなった。


---♡---(*^_^*)---♡---


駆け込む勢いで自室に戻り、魔力を秘めて輝く水晶玉と向き合う。

息を切らしてついてきたティナが聞いてきた。

「どうやって泥棒を追うんです?

結界を掻い潜って塔に入ってみせたんですよ?魔力が高い証拠です。

きっと高位魔法が使えるんだわ、追跡魔法なんてかわされてしまいます。」

「そうね、賊は手練れだわ。

なんせ、この城全体に掛けたアタシの防御魔法まで掻い潜ったんですものね。」

「お姉様の魔法を?!」

ティナは口に手を当て愕然となった。

「大魔女の魔法を見切ってみせるとはおみそれしたわ。相手に不足はなくってよ!」

慄くティナとは対照的に、大魔女はむしろ超然と笑う。

そして水晶玉に右手をかざし、短い呪文を呟いた。

「追跡魔法の呪文ですね?」

「そうよ。でも追うのは賊の気配じゃない。」

水晶玉の光が弱まり、何かがぼんやり映り始めた。


「追跡するのは盗んだ輩の行方じゃなくて、盗まれた骨董品の方。

仮にも(いにしえ)の魔女が身につけていた代物よ。魔力なんてなくても特別な『気』が宿ってる。

それを追うの。賊がまだ手放してなけりゃ、そいつの居場所はすぐにわかるわ。」


朧な影が揺らめく水晶玉をから顔を上げ、大魔女は妹に微笑み掛けた。

「もっとも、アタシは(いにしえ)の魔女の衣装なんてどうだっていいんだけどね。

むしろアレがなくなっちゃえば、儀式なんてしなくて良くなるかしら?」

「そんな。ダメです、お姉様。」

「あら、盗むほど欲しかったんならあげちゃってもいいくらいよ。

あんな時代遅れの服やアクセサリーがなんの役に立つかはわかんないけどね。」

そうこうしている内に、水晶玉の影が明確な形を取り始めた。

映し出されたのは、人ではない何か。

ピンと尖った耳を持ち、鋭い爪と長い尾を持つ、悪く言えば毛むくじゃら、よく言うならばモフモフの・・・???


「・・・ ネコ ???」


『にゃぁ。』

水晶玉の中で、子猫が鳴いた。

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