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魔女がドレスを着る時は  作者: くろえ
2/17

結婚式と契約の儀式

「はぁ? 儀式???」


紅茶のカップを手にした大魔女は、素っ頓狂な声を上げた。

ティナやオスカーもキョトンと顔を見合わせる。

「そうだよ。『誓約の儀式』さ。」

先の大魔女が興奮気味に胸を張る。糖蜜パイを頬張る彼女はなぜかとっても楽しげだった。


「遙か昔、強大な魔力で人々を護り導き世界の基礎をお築きになった『(いにしえ)の魔女』様。

その方の御霊に、伴侶と一緒にこの国を護り行く決意を報告をする、大事大事な儀式だよ。

この間説明したでしょう?忘れたとは言わせないよ!」


大魔女はバツが悪そうに顔をしかめる。すっかり忘れてしまっていたのだ。

「わ、忘れてなんかないわよ。でもここ最近忙しくって・・・。」

「嘘お言い!面倒がってるだけだろうに。

お前達ときたら、まともな結婚式も挙げないままなんだから。」

言い訳する娘をピシャリと黙らせ、母がさらに胸を張る。

「とにかく、儀式はちゃんとやってもらうよ!

この国は(いにしえ)の魔女様がお築きになった、由緒正しき国なんだ! 

しかもその女王たる大魔女は、(いにしえ)の魔女様直系の末裔!

そういう意味でも疎かにしていい儀式じゃないんだからね!国を治める者の義務なんだよ!」

「はいはい、わかったわよ。もー。」

並々ならぬ母の勢いに大魔女は折れた。

「・・・あの、お姉様?」

このやり取りを黙って見ていたティナがオズオズ、口を挟む。

「儀式も大事ですけど、結婚式、しないんですか?」

「しないわよ、そんなの。」

大魔女の返事はにべもない。

「民への通知は新聞の号外で済ませたし、本当に忙しくて時間が無いし。

オスカー、この後少し時間取れる? さっさと儀式やっちゃいたいんだけど。」

「空けようと思えば何とかなるけど・・・。

その儀式ってのは空き時間でサクッと出来ちまうモンなのか?」

呆気にとられるオスカーの表情に、大魔女はついクスリと笑う。

「特に騒ぎ立てるほどでもない簡単な儀式なのよ。

(いにしえ)の魔女の物だと言われている衣装や装飾品を身につけて、伴侶と一緒に『誓約の呪文』を唱えるだけ。ほんの2,30分くらいかしら?」

「へー。家臣や国民を呼び集めなくても?」

「必要ないわ。見世物じゃあるまいし。」


「いい加減におし!

ホントに可愛くない娘だねお前は!!!」


娘の言動に母が切れた。

糖蜜パイを手にしたまま血相変えて喚き出す。

「『誓約の儀式』を片手間で済ますだなんて!

(いにしえ)の魔女様への聖なる誓いをいったいなんだと思ってんだい!?

お前達の結婚式だって国中の人が楽しみにしてたってのに、号外一本で片付けて!

一国の女王の婚姻だよ?!国家行事だったに決まってるじゃないか!」

「だーかーら!

ホントにいろいろ忙しいんだってば!」

「お黙り!見世物になるのもある意味では女王の義務なんだよ!

そんな事もわからないのかい?!まったくもう、お前ときたら!!!」

このやり取りに、オスカーとティナが顔を見合わせこっそり笑う。

似た物親子の気が置けない激しい応酬。

大魔女が暮すこの城は、オスカーが来る前から賑やかだった。


「・・・まぁ良いわ。

お前の事だから、どーせ駄々こねると思ってた。」


「・・・え???」

急に、いきり立ってた母が退いた。

コレはコレで恐ろしい。大魔女はティナと困惑した顔を見合わせた。


---(-_-;)---(-_-;)---(-_-;)---


元々、世継ぎの魔女として期待されていたのは長女である1番目の魔女。

彼女が小間物屋の息子に恋をした時は大変だった。当時大魔女だった母親が、世継ぎの魔女を逃すまいとあの手この手で妨害したのだ。

他の姉妹達も同様だった。3~12番目の魔女の恋にも、母は散々ケチをつけた。

顔つきが気に入らない、優柔不断だ、甲斐性が無い、女癖が悪そうだ等々。

娘を想う母心だろうが迷惑な事この上ない。

一番被害を被ったのは、まだほんの子供だった末娘。

姉妹の中で一番高い魔力を宿した13番目の魔女・ティナは、勝手に世継ぎの魔女にされ、意思や気持ちをまったく無視され大魔女にされるところだった。

それらを全部やり込めたのが、当時2番目の魔女と呼ばれた今の大魔女・ミシュリーである。

だから彼女達は知っていた。

この母親は、決して悪い人ではない。

しかしとても残念な事に、非常に厄介な性分だった。


---(;-_-)---(;-_-)---(;-_-)---


「お・・・お母様?今度は一体、何したの?」

問いただす声は震えていた。

戦々恐々の2人の娘。それを見回す母親が、さらに大きく胸を張る。

とうとうふんぞり返ってしまった彼女は、得意絶頂で宣言した!


「さぁお前達、感謝おし!

この母がしっかり準備しておいたからね!♪

今回執り行う『誓約の儀式』は、魔法の水晶玉を使って国民全員に公開するよ!

国中の街という街に、お前達2人の晴れ姿を空いっぱいに映すんだ!

日取りも決めてあるし御触れも出してる。近隣諸国の要人も招くから晩餐会も開かなきゃね!

お前が晩餐会で着るドレスは、この母が作ってあげようねぇ♡

任せておおき、今のお前によく似合う豪華なドレスを仕立ててあげる!♪

その日は素晴らしい日になるよ!

楽しみだねぇ、ワクワクするよ♪♪♪」


「・・・。」

ほんの暫しの沈黙後。

発狂寸前の大魔女が金切り声で絶叫した!


「ちょっとーーー!!!

何してくれてんのよお母様っ!?」

「何って、『誓約の儀式』の準備さ。

お前に任せてたらどうなるかわかったモンじゃない。案の定、適当に済まちまおうとするし。」

「だからって、事を運ぶのに大魔女であるアタシをすっ飛ばす?!

儀式を魔法の水晶玉で国中に公開?

日取りも決めた、御触れも出した??

しかもその後要人招いて晩餐会???

一っっっ言も聞いてないわよ、そんな事!」

「お前に言わなくたって皆が協力してくれてるよ!

大臣家臣総出で大張り切りだし、国中どこの街でもその日は祭日として祝うそうだ。

みんなお前達の結婚を祝いたかったんだねぇ!こうなりゃ『契約の儀式』がお前達の結婚式みたいなモンだ。さぁ、この母に感謝おし!

・・・準備、数日前から始まってたんだよ? お前、ちっとも気付かなかったの???」

「だから、忙しかったのよっっっ!!!」


再び始まる似た者親子の口喧嘩。

ティナが隣のソファで苦笑するオスカーを見て微笑んだ。

「知ってらっしゃいましたね? お義兄様。」

「もちろん♪ 俺も大魔女の夫として、忙しくあちこち駆けずり回ってるからね。

お袋さんや城の連中が、何か企んでるのは推して知れたよ。」

オスカーが片目をつむって悪戯っぽく笑う。

「何しようとしてるのかまでは知らなかったけどね。

ティナも見たいだろ?

綺麗なドレス着た大魔女・ミシュリーの艶姿♡」

「はい♡」

耳を覆いたくなるほど騒々しい、昼下がりの大魔女の私室。

その入口扉がノックされ、大臣が入ってきたのはその時だった。


「失礼いたします。大魔女様。」

「大・臣っっっ!アンタ、アタシに断りもなくお母様の悪巧みに手を貸して!!!」

「悪巧みとはなんだい、失敬な!!!

あぁ、大臣や。『儀式』の事ではいろいろ手間を掛けたね♪」

いきなり噛みつく大魔女を抑え、母が大臣に微笑みかける。

仕事熱心でとにかくマジメ、忠実で時間に厳しいこの寡黙な大臣は、母のお気に入りの家臣だった。

「日が迫ってるけど、準備は捗ってるかい?

そうそう、城の宝物庫にある (いにしえ)の魔女様のご衣装 !アレももう出しておかなきゃいけないねぇ。

懐かしい事!アタシも大魔女になった時には、アレを着て儀式に臨んだモンさ。

ティナや、お前にも後で見せてあげよう。

そりゃぁ美しいご衣装なんだから。」

「・・・。」

寡黙な大臣は深々と頭を下げた。

威儀を正した佇まいからは想像する事もできないが、実はこの時、彼は非常に狼狽えていた。


「申し訳ございません、大魔女様。

城の宝物庫に 賊 が入りました。

(いにしえ)の魔女』様のご衣装一式、盗 ま れ ま し て ございます・・・。」


「・・・。」

全員、呆気にとられる中。

大魔女の母親は、卒倒した。

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