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魔女がドレスを着る時は  作者: くろえ
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残酷な真実

魔力の酷使で息が苦しい。大魔女は大きく息を吐いた。

疲れた体に鞭打ち放った「水晶の檻」。

捕らえた敵は茫然自失。六角柱の柱の中で、ティナを見上げて固まっていた。

「・・・説明が必要ね。

なぜ、アンタの思惑通り(いにしえ)の魔女が蘇らなかったのか。」

大魔女は静かに語り出す。

これから聞かせる話の内容を思うと、さすがに心が痛みを覚えた。

それでも言って聞かせてやるのは、せめてもの 慈悲 のつもりだった。


「どんなに魔力があったとしても 魂 がなければどうしようのないの。

他人の身体に魔力を注いだところで、決して生き返りなんて起きないのよ!

だいたい、死者を蘇らせる魔法なんて今も昔もどこにもないわ。最初から無理だったのよ!」


(・・・嘘だ・・・!)

影の魔道士が頭を抱えて狼狽える。

(嘘だ!そんな事があるものか!)

「いいえ、嘘じゃない。その目で今、見たはずよ。」

(戯言を!!!)

頑として聞き入れようとしない。

影の魔道士が怒気も露わに大魔女を睨み、狂ったように叫び出す!


(我を見よ!()()()()()生きておる我を!

魔力でこの姿を保ちながら数百年の時を彷徨い、今日この時まで生き続けてきたのだ!!!

偉大なる(いにしえ)の魔女様に、それができぬはずはない!

あの方ならば我のように、魔力のみでも復活できるし生きて行けるに違いない!!!)


「・・・そう。

貴方、自分に 魂が無い ってわかってたのね。」

大魔女は悲しげにつぶやいた。

影の魔道士には魂が無い。しかし強大な魔力を持っている。

だから(いにしえ)の魔女も、分割された魔力を一つに戻す、それだけで復活できると信じ込んだ。

むしろ、絶大な魔力を持つ魔女だからこそ、それが可能だと思ったのだろう。

最後の真実を告げなければならない。

大魔女は憐れみを込めて語りだした。


「それは、貴方が最初から

 命ある存在ではない からよ。

驚くべき事だけど、なぜこんな事になったのかは想像が付くわ。

かつて(いにしえ)の魔女の側に仕え、恋情を抱いた魔道士が居たんでしょう。彼がこの世を去る時に、残していった 残留思念 。それが 貴方 !

とても強い思念だわ。永い年月の中で本人同様の自我を持ち、それを保ち続けるための強大な魔力まで得たのだから。

でも、この思念は 愛 ではない。

  執 着 。 

ただひたすら求めるだけの 欲望よ!」


(・・・執、着・・・?)

再び愕然となる影の魔道士に、ティナも必死で呼びかける。


「貴方は『(いにしえ)の魔女様は生涯人々を救い続けた』と言いましたよね?

ならば、彼女がこの世に魔力を残したのはやっぱり 人のため 。

後世の人々が大きな困難に見舞われた時の救いになるよう、魔力を残して逝かれたんだと思うんです。

だから宝物庫から盗んだドレスや指輪、ティアラは、貴方の手元から消えたんだわ。

お姉様もおっしゃってました。『(いにしえ)の魔女が身につけていた物には特別な気が宿ってる。』と。

それが 残留思念 というものならば、生前彼女がしていたように、ご衣装も困っている人達の元へ飛んで行ったんじゃないでしょうか?

封印が解かれてないから魔法なんて使えない。それでも、助けてあげたいって思ってしまう。

貴方の「本体」が好きだった人も、そういう女性だったんじゃないですか?

わかってください、お願いです。(いにしえ)の魔女様は、生き返る事なんて望んでいない。

ただ、人の幸せを願っていらっしゃっただけなんです!」


(・・・。)

影の魔道士は再び項垂れた。

宙を漂うティナがふわりと地面に降りる。

熱さは感じてないようだ。オズオズと「水晶の檻」へと近づいてくる。

この残留思念には命を奪われるところだった。

それでも、助けてあげたいと思ってしまう。

ティナはそういう娘だった。


「・・・!?

ティナ、下がって!!!」


不意に感じた不穏な気配!

大魔女は鋭く叫ぶと、妹の元へ走ろうとした。

しかし次の瞬間、凄まじい力が全身を打ち、大きく後ろへはね飛ばされた!

 封印魔法の反転 である!

影の魔道士を捕らえた「水晶の檻」がひび割れ、粉々に砕けて破られた!!!


バーーーン!!!


「きゃあっ!?」

大魔女は岩壁に叩きつけられ地面に落ちた!

意識が飛びそうな苦痛の中、悍ましい絶叫が聞こえてきた!


(魔女魔女魔女(いにしえ)の魔女俺だけの物だ誰にも渡さん

どこだどこに居る(いにしえ)の魔女おぉおーーーっっっ!!!)


天を仰いでの咆哮が洞窟内の天井を揺らす。

崩れた岩がガラガラと上から無数に降ってきた!


(そういうのを 執着 だって言ってんのよ!

なんて奴なの!暴走させるほどの魔力がまだ残ってたなんて!)


痛みに耐えて身を起こす。

恐ろしい光景が目に飛び込んできた。

影の魔道士が洞窟内をもの凄い勢いで飛び回っている。肉身なき身体から妖気を放ち、狂ったように喚きながら。

禍々しい妖気があちこちの岩壁に激突するたび、洞窟内が大きく揺れる。岩が崩れて溶岩が溢れ、地面が傾き裂けていく。

大魔女は何とか立ち上がり、魔法を放とうと右手を構えた。

「水晶の檻」では破られる。光弾を放ち仕留め落とさなければ、この暴走は止らない。

しかし影の魔道士の動きが恐ろしく速い。まったく狙いが定まらない!

(このままじゃ、山が・・・!)

噴火してしまう。この凄まじい振動に否が応でも刺激されて!

・・・その時だった!



パキーーーン!!!



突然、飛び回る影の魔道士を、眩しい光が絡め取った!

光は次第に綺麗な円形となり、複雑な文様が書き込まれた 魔法陣 へと変化する。

見た事がある魔法陣に息を飲む。

誰の仕業かは考えなくてもすぐにわかった。

安堵と歓喜に震える心で、大魔女はその人の名を呼んだ。


(・・・ オ ス カ ー !!!)


北の大国で生み出された、最上無二の 封印魔法 。

かつて人生最大の危機に見舞われた大魔女を見事に救ったその魔法は、捕らえた者を絶対逃がさず半永久的に縛り続ける。


(お"お"お"ぉぉ!!?)


影の魔道士が苦しみ叫ぶ。

光り輝く魔法陣は、もがき暴れる残留思念を完璧をもって封じ込めた。

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