師匠と弟子の日常
ヴィクターの襲撃により、武神祭は延期になった。
この一件で魔神の存在が公になり、教育改革から保護者対応、他の機関との連携などなど、学園長や教頭先生を筆頭にアトランティアは大忙しのようだ。
ルチノや教頭先生が所属するプロヴィデンスも裏でいろいろと動いているらしい。詳細はなにも聞いてないからわからないけど、ルチノからは時が来たら頼らせてもらうねと言われている。
イーサンとウィルマクには契約魔術が執行された。
契約魔術とは契約主と主従の関係を結び、従者は主の命令に逆らえなくなる魔術──ひとによっては奴隷化魔術と呼ばれる場合もある魔術である。
修練場の問題を解決したのが俺だからと、ふたりの主になることを提案されたが関わりたくなかったので秒で断った。結果、修練場の管理者が主となって契約してくれている。
そんな、事件の尾を引きつつも、日課である朝練に顔をだした俺は。
「──本当にすまなかった!」
修練場の真ん中で、担任教師から土下座を見せつけられていた。
どういうこと? とエルシーとクラウディアに視線を向けたが、ふたりは首を横に振るばかりだ。
「私が愚かだったばかりに君にはたくさんの迷惑をかけた。もちろん責任をとって教師は辞任させていただくが、それだけで君への謝罪に足るとは思っていない。私はどう罪を償うべきなのだろうか」
「……とりあえず、ものすごい目立ってるので顔をあげてくれませんか」
ハッとマーリル先生は顔をあげ、周囲を見回してからまた俺に小さく頭を下げた。
この感じ、クラウディアのときもあったなぁ。
「す、すまない。私はまた君に迷惑を……」
「それはもういいですから。あと教師もやめなくていいです。俺はそんなこと望んでないですし」
「な、なら他に私はなにをすべきか」
「これからも生徒の支えになってあげてください。あと剣術の講師が足りていないので、マーリル先生にもぜひ剣術を学んで講師になっていただけたら助かります。ですよね、師匠」
修練場の陰から様子を見守っていた師匠に声をかける。
優しい師匠のことだ、たぶん娘を心配して見に来たのだろう。
師匠は観念したように姿を見せた。
「……そこで別にワシに振らんでも」
「マーリル先生には、師匠が剣術を教えたほうがいいかと思いまして」
息を飲んだ師匠と先生が顔を見合わせる。
「……その、お願いしてもいいかな……お父さん」
「……っ、ああ、ああ……!」
師匠が嬉しそうに顔をほころばせている。
それがなんだか嬉しくて、同時に、ほんの少しだけうらやましく思った。
「一件落着ってところかしら」
「……そうだな」
「ハイドくん、わたしはいつでもハイドくんの家族になる準備できてますので」
「えええエルシー! いきなりなに言ってんのあんた!? は、ハイド、その、わ、私も……」
「うわっ……こんなところで発情するなんて、やはり金髪さんには恥も品性もないようですね」
「年がら年中頭わいてるあんたに言われたくないわよ」
「は?」
「あ?」
「ふたりとも成長しないな……」
いつもの弟子ふたりを適当になだめて、俺たちは朝練を始める。
雲ひとつない青空に、剣を重ねあう音が溶けていった。
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