劣等剣士は対峙する
「大丈夫か!」
俺たちは倒れている生徒たちに駆け寄った。
外傷はほとんどない。が、全員マナを失いかけている状態だ。
このまま放置しておけば形が保てなくなり、マナ還りを起こしてしまう。
「アルディナク流剣術──【回帰刃!】」
俺はクラウディアにも使った回復剣術を生徒たちにかけた。
彼らに宿るわずかに残ったマナが活性化し、なんとか一命をとりとめる。
「……ああ、ハイドか」
「どうした、なにがあった」
「……わからない、モンスターを倒していたら、急に体の力が抜けて……っ、他のみんなは!」
「安心してくれ、全員無事だ」
男子生徒はエルシーたちの近くにいた自分のパーティーメンバーを見て、安堵する。
「よかった……助けてくれてありがとう」
「…………」
「ハイドくん、どうかしましたか?」
俺は倒れていた生徒全員に目を通し、違和感を覚えた。いつの間にか視界の端のポイントも消えている。
モンスターの仕業じゃない。この感じ……イーサンに仕込まれていた変な魔術を見た感覚と同じだ。
イーサンのときと違って、彼らになにか埋め込まれている痕跡は見当たらない。
ただ、イーサンに魔術を仕込んだ奴が関わっているのは間違いないだろう。
「エルシー、クラウディア、ルチノ」
俺が目配せをすると、三人はこくりと頷いた。
「俺たちはこのままダンジョンを進む。そっちは安全なところに避難してくれ」
生徒たちは頷き、制服から転移石を取りだした。
あらかじめセッティングされた場所──闘技場に転移する魔術が仕込まれた石である。使えば第一種目は棄権とみなされるが、いまはそれどころじゃないことはわかってくれているようだ。
「くれぐれも気をつけろよ」
「ああ、ありがとう」
生徒たちと別れてダンジョンを進む。
中央に祭壇が置かれた広場のような場所へ出ると、見覚えのある白衣が視界に映った。
「……君たちか」
「あっ、マーリル先生のクラスの!」
マーリル先生と、その隣には前に先生と仲良くしていた女子生徒がいた。
「どうして先生がここに?」
「外からダンジョンの様子を見ていたら、生徒たちが何者かに襲撃を受けて倒れる様子が映しだされてな。残念だが武神祭は一時中止だ」
「マーリル先生! わたしたちはそこの転移門から避難すればいいんですよね?」
「…………」
女子生徒が祭壇のすぐ横にある転移門を指さした。
「なんだかよくわからないけど、先生のクラスのみんなも一緒に帰ろ? ここから先は生徒の出る幕じゃないって、マーリル先生も言ってた──」
俺は祭壇横の、闘技場なんかに通じていない転移門を断ち斬った。
女子生徒が目を丸くしているその隙に。
「クラウディア!」
「任せてッ!」
クラウディアの雷魔術が女子生徒を貫く──わけもなく、彼女の体表面に触れた瞬間、金切り音をあげて霧散した。
「……帰るって、火山の噴火口にでも俺たちを落とすつもりだったのか、魔神。それとも、ヴィクターって呼んだほうがいいか」
「…………ふふふ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」
女子生徒は黒い粒子に包まれ姿形を変えていき、やがて背の高い男が現れた。
「そこまで話を聞いてやがったのか。やるなァ、ハイド」
「話はルチノから全部聞かせてもらった。俺たちに何の用だ」
「俺たち? 違うね、オレが用があるのはアンタだけだ」
「だったらどうして他のひとを巻き込む」
「……自覚がないってのもどうかと思うなァ。アンタと殺りあうにはいろいろと準備がいるんだよ」
姿を消したヴィクターがマーリル先生の背後に回る。
「ほらセンセー。剣術を広める悪党どもを倒すチャンスだ」
「…………私は」
俺たちの背後から足音が聞こえてきた。
ルチノと事前に打ちあわせた通り、プロヴィデンスの武術部隊が駆けつけたのだ。
「ハイド!」「きゃうんっ!」「ハイド様!」
なぜか黒龍丸を連れた師匠と、住み込みメイドのシャロットも一緒だった。
「どうして師匠がここに、それにシャロットまで」
「魔術が効かん相手が出たんじゃろ。場所は教頭先生が教えてくれたんじゃ」
「アルディナク様とハイド様になにかあれば、オーランド家メイドの名折れですので」
「きゃんきゃん!」
「……あーあ。センセーがとろいせいで集まってきちまったよ」
俺は魔剣白金をヴィクターに差し向ける。
「もう逃げられないぞヴィクター」
「ひゅー、そういういかにもらしいセリフ……虫唾が走るねぇ……!」
ヴィクター目を見開くと、周囲にいくつもの魔法陣が顕現した。
俺が魔法陣を斬るよりも先に、次々とモンスターが召喚される。
そのなかで。
ひときわ大きい──二本の角を生やしたデーモンのようなモンスターを見て、師匠とマーリル先生が息を飲んでいた。
「あ、あやつは……!」
「師匠、あのモンスターを知ってるんですか」
「……忘れるはずがない」
師匠の剣を握る腕に、力がこもる。
「ワシと娘から、妻を奪ったモンスターだ──」




