武神祭が始まる
希望者を募って剣術を教え始めてから、早三週間が経過した。
講師不足はいまのところ生徒たちで教えあうことや、俺が高速で多人数の面倒を見ることで対応してるけど、これも剣術が公に広まるまでの辛抱だろう。
そうして迎えた武神祭初日。
俺たちアトランティアの生徒は、数多くの観客が集まる王都闘技場へとやってきていた。
魔術による複数の空砲が、武神祭の開幕を告げる。
続けて一年生二年生三年生、それぞれの学年を代表する生徒が手をビシっと真上に挙げた。
「宣誓! 私たち、アトランティアの生徒は!」
三年生代表のエリック生徒会長が、さすがは会長というべき堂々たる姿で声を張る。
「強く優しく美しく、誇り高き魔術師として!」
二年生代表の男子生徒が会長に続く。
「我が師匠を信じ愛し守り抜くため、全身全霊で戦うことを、いま!」
一年生代表のエルシーが、透明感のある声を会場に響かせる。
「「「ここに宣言します!!!」」」
直後、ワアァァーーーーと歓声が闘技場のあちこちに飛び交った。
「ねえハイド、エルシーってば思いっきり私情入ってなかった?」
「周りは気にしてないんだ。俺たちも気にしないでおこう」
「──レディースエーンジェントルメーンッ!」
司会進行を務める──入学演武のときと同じ教師が、授業中からは想像もつかないハイテンションで観客に呼びかける。
「本日は栄えある王立アトランティア魔術学園武神祭にお集まりいただき、誠にありがとうございます! さっそくですが、第一種目であるダンジョンスコアアタックについてご説明させていただきましょう。
ルールはいたって簡単。選手である生徒の皆さんには、アトランティアが所有するダンジョンに潜り、制限時間のなかでより強く多くのモンスターを倒していただきます。
倒したモンスターによってポイントが加算され、もっとも高いポイントを獲得したパーティーには豪華景品をプレゼント! どのパーティーが何位になるのか、観客の皆さまもお手元の魔法石を使ってぜひ予想してみてください。見事予想を的中させた方には、賭け金とオッズに応じてアトランティアより支払わせていただきます!」
選手宣誓を終えたエルシーが戻ってきたところで、俺たちの足元に魔法陣が浮かび上がる。
ダンジョンに転移させるための魔術だ。
「それではカウントダウンまいりましょう……3、2、1──スタート!」
俺、エルシー、クラウディア、ルチノの四人パーティーは、すぐさまダンジョンへと飛ばされた。
あくまで競技用に調整されたためか、普段クエストで潜るダンジョンよりも明るい。灯をともす必要がないくらいだ。
ダンジョン全体に施された魔術によって、俺の視界の端には現在のポイント──0が表示されている。
「よし、三人とも。せっかくなら一位を目指そう!」
「当然よ! あ、でもハイドはあんまり戦わないでね、すぐに終わっちゃいそうだから」
「こんな子ども騙しな遊びは、ハイドくんが参加するのに相応しくありません。私に任せてください」
「えぇ……」
乗り気になっていた俺をよそに、三人はバットやスライムなどの小型モンスターをバッタバッタと薙ぎ倒していく。
視界の端のポイントが次々と増えて1000を超える。くっ、俺だって楽しみたいのに……!
──こうなったら。
「ふぅ、もうこの辺にモンスターはいないようね、みんな先に行きましょ……ん?」
異変に気づいたクラウディアがジト目を俺に向けてくる。
「ハイド……この20000ポイントってどこから湧いてきたのかしら」
「さ、さあ……クラウディアたちが優秀だからじゃないか?」
「さっきハイドくん壁に向かって剣術使ってたよね」
「ちょっ、ルチノ、お前裏切ったな! 人生の大先輩のくせに!」
「ははははははハイドくん! それは言わない約束だよっ!?」
「…………」
「金髪さん、一緒にあの泥棒猫型モンスターを倒しましょう。10000ポイントは保証します」
いつもの調子でぎゃあぎゃあとダンジョンを進んでいく。
──その途中で、異様な光景に出くわした。
ダンジョンの通路で、剣を握った複数の生徒が倒れていたのだ。




