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無能親父は責任を負う

 イーサンが修練場を襲撃してから一週間後。


「大変です、ウィルマク様!」


 オベロン家の書斎に、そこそこ長く勤めているメイドが大慌てで駆け込んだ。


「なんだ騒がしい! 話しかけるなと言ったはずだ、私はいま忙しいのだ」

「今回ばかりはご無礼をお許しください。こちらを」


 魔術書を眺めていたウィルマクは、メイドから多数の書類を受け取って、驚愕した。


「なんだこの請求書の数は! それに金額も! 私は知らんぞ!」

「それが……以前ウィルマク様が面倒をみられていたイーサン様、いえイーサンが、王都近郊のフェルハイム修練場で大暴れしたらしく……発生した被害について修練場の管理者はもちろん、王都直轄の騎士団からもウィルマク様への書状が届いております」


 バンッ! と。

 ウィルマクは立ち上がって机を殴りつけ、メイドが目を細める。


「ふざけるな! 私はイーサンなんて名前は抹消すると言ったはずだ!」

「はい、そちらは伺っております」

「ならどうして私にところにこんなものが届く」

「修練場の管理者が、イーサンの着ていた制服から学校を特定し、アトランティアに確認をとったようです」

「アトランティア? ハッ、すでにイーサンは私とは無関係だ」

「そのことは学園に連絡なさったのですか?」

「は……?」


 ウィルマクの書斎に沈黙が訪れた。


「わ、私は言ったよな。イーサンの名前は我がオベロン家から抹消すると」

「はい。しかし、アトランティアへの連絡および退学手続きは、入学手続きをされたウィルマク様でなければ行えません」

「どうして私に言わなかった!」

「魔術の研究に忙しいから話しかけるなと命じられておりましたので」


 ウィルマクのこめかみに血管が浮かび上がる。

 怒りに任せて手を振りあげ、メイドが体を硬直させて目をとじたところ。


「どう考えてもアンタの凡ミスだろ、おっさん」


 メイドの背後に背の高い男──ヴィクターが現れたことで、ウィルマクは振り上げた手をおろす。


「……ウィルマク様、私はいまこのときをもって、オベロン家のメイドを辞めさせていただきます。いまのオベロン家にあれだけの金額を支払えるとは思えませんし、そうでなくとも、いまのオベロン家で働くことは私にとってリスクが大きすぎますので。失礼いたします」

「お、おい……!」


 ウィルマクの制止も虚しく、メイドは毅然とした態度で書斎を出ていった。


「アンタのところからは有能な奴ばっか逃げてくなァ。いまの気分はどうだ」

「……なにしにきたんだヴィクター」

「こいつを見てくれよ」


 ヴィクターは宙空に指をさし、光属性魔術で映像を浮かび上がらせた。


 映し出されているのは、異形と化したイーサンを斬るハイドの姿だ。


「こ、こいつは、入学演武のときの」

「そうだ。アンタ、ハイドって名前に聞き覚えはあるか?」

「……そういや昔、魔術のひとつも使えん無能を追放してやったことがあったな。それがどうした」

「この映像に映ってるやつな、アンタが追放したハイドなんだよ」


 淡々と話すヴィクターに、ウィルマクは再び映像に目を向けて、息を飲む。


「ば、バカな、そんなはずが……」

「残念ながら事実だ、オレがこの目で見たから間違いない。他にもハイドについて調べる過程でいろいろ見つかった」


 映像を消したヴィクターは、いくつかの書類を顕現させウィルマクに渡した。


「そいつはハイドが──正確にはハイドの師匠ってことになってるが、ギルドから受け取っている金の総額だ。いまもなお支払われ続けてる」

「こ、これは……!」

「驚いただろ。果たしてこの家が何件買えるんだろうなァ……まぁ、とにかくこれだけハイドのやつは世の中に貢献してるってこった──剣術でな」


 ヴィクターは威圧的な雰囲気でウィルマクに詰め寄る。


「言ったはずだよなァ、魔術以外の武術はゴミだと大衆に知らしめる、そのためにオレたちは手を組んだはずだ。……なのに、こんな怪物を野に放った無能はどこのどいつだ?」


 詰め寄っていたヴィクターは「来たか……」と、なにかを感じた素振りをみせた。

 黙り込むウィルマクから顔を離す。


「じゃあなおっさん、アンタが生きてたらまたどこかで会おうぜ」

「ど、どういうことだ」

「アンタに届いたその書類、日付はちゃんと確認したか?」


 ウィルマクは書類をもう一度注視した。


「なっ……! 五日前、だと……!?」

「その書類な、ここに届くはずだったものを、オレがいったん預かっておいたんだ」

「どうしてそんなことを!」

「招集に応じなかったアンタの家を、いま王都騎士団が包囲してるって言ったら?」

「…………!」


 目を見開くウィルマクに、ヴィクターは口元を快楽で歪めて、言った。


「──それって最っ高に面白いだろ」

「ヴィクター……! き、貴様ッ!」


 ウィルマクはヴィクターに手をかざし、大質量の土塊を叩きつけた。

 が、土塊はヴィクターの体表に触れる直前で、異様な金切り音をあげて消失する。


「なっ!? ば、バカな……!」

「アンタもアンタの無能養子も、その反応はワンパターンでつまんないな。『オレ様の魔術がなんで通用しないんだ』って顔はもう見飽きたっての」


 書斎の外から複数の足音が響いた。


「ほら、お客様がお見えのようだぜ。丁重にもてなしてやりなよ」


 ヴィクターは両手を上着のポケットに突っこんだまま、一瞬で姿を消した。

 次の瞬間、書斎の扉が勢いよくひらかれ、複数の魔術師が入ってくる。


「ウィルマク・オベロンだな。イーサンによる修練場襲撃の件で、お前に用がある」

「くぅっ……クソがああぁぁぁッ!」


 ウィルマクは地面に拳を叩きつけ、衝撃波を発生させた。


「無駄な抵抗はよせ!」


 魔術師のひとりが舞い上がった土煙を払う。しかし、そこにウィルマクの姿はなかった。

 書斎の床に、大きな穴が開いていた。


(……私の判断は間違っていたというのか、いや、間違っていたとすれば……)


「……ヴィクター……!」


 地中を掘り進むウィルマクは、怨嗟の声を漏らしたのだった。

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