表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/41

雷姫は負けたくない

 俺はクラウディアの提案を了承した。

 場所を学園長室から貸切状態の武闘館へ移し、学園長の許可のもと、壇上に聖域が展開される。


 イーサンと戦った入学演武のときと同じ魔術だ。この中でなら、たとえ本気で戦ってもケガをしない。


 聖域に入ったクラウディアが、双剣神薙(かんなぎ)を構えた。

 まだ剣術を学んで一ヵ月も経っていないのに、以前よりも構えが様になっている。いい感じだ。


「驚いた、クラウディアさんも剣術を使うんだね」

「私もルチノが剣を出したときは驚いたわ。あんたとは一度戦ってみたかったのよね」

「そうなんだ、それはまたどうして?」


 レイピアを構えたルチノさんが無邪気に微笑む。

 彼女の構えも堂に入るものだった。少なくとも、一朝一夕で身につけたレベルではない。


「あんた、授業で一度も本気を出したことないでしょ」

「…………」

「別に答えなくていいわ──嫌でも本気を出させてあげるからッ!」


 最初に仕掛けたのはクラウディアだ。

 雷魔術によって強化された脚力で、ルチノさんを双剣の間合いに捉える。


「悪いけど一瞬で終わらせるわ。ハイド流双剣術──【千羽鴉(せんばがらす)!】」


 激しい金属音が連続で鳴り響く。

 華麗に舞いながらも怒涛の剣撃を浴びせるクラウディアの剣術は、見ていて気持ちがいい。


 でも、剣術の練度は、ルチノさんのほうが上だ。

 クラウディアの双剣は、ルチノさんの剣捌きに阻まれている。


「あんまりこういうこと言いたくないんだけど、クラウディアさん」


 ルチノさんは涼しい顔をしたまま、クラウディアの剣撃を左腕で受けた。

 なるほど、土属性魔術でつくった籠手か。


「その程度でハイドくんの名前を語るの、やめたほうがいいと思うよ」


 目を見開いたクラウディアを、風属性魔術を纏ったレイピアの一突きが吹き飛ばす。


 剣術だけじゃない。土と風、ふたつの属性の魔術もかなりのものだ。

 ルチノさんは、一年生にしては戦闘慣れしすぎている。


「くっ……!」


 クラウディアはギリギリのところでルチノさんの猛攻を躱し、防ぎ続けている。

 けど完全じゃない。魔法障壁は半分からゼロへと徐々に削られている。


 一方で、ルチノさんの魔法障壁はほとんど満タンの状態だ。

 クラウディアの剣術はおろか、雷魔術も通用していない。


 剣術も魔術も、ハッキリ言ってルチノさんが遥かに上回っていた。

 普通の生徒の範疇を超えている。


『それをオヌシが言うんか』


 師匠の声が聞こえた気がした。

 それよりも、これ以上は──


「ねえ、ハイドくん。君に直接相手をお願いするってのはダメかな」

「……っ! 待ちなさいよ、私はまだ負けてない!」

「そんなボロボロなのに私に勝つつもりなの?」

「ボロボロかどうかは、関係ない!」


 疲弊しきった体で繰り出す剣撃がルチノさんに届くはずもなく、横っ腹を蹴とばされたクラウディアは横転する。


 転がったクラウディアを見下ろしながら、ルチノさんは温度のない声を発した。


「一応言っておくけど、私弱い者いじめは趣味じゃないんだ。クラウディアさんだってわざわざ傷つく必要ないと思うよ。これは体じゃなくて心の話ね」

「私は、弱くなんか、ない……!」


 なおも立ち上がるクラウディアを、ルチノさんは目を細めて見つめる。


「……負けん気が強いのは結構なことだと思うけどさ──」


 ルチノさんがため息をつきながら、細剣を構えた。

 彼女を纏う空気が変わる。


「──本当によかったね。ここが聖域の中で!」


 突進。

 勝負を終わらせんとする烈風の如き刺突は──クラウディアに届くことはなかった。


 クラウディアの全身が青白く発光する。

 雷鳴と共に彼女の中心から発せられた衝撃波が、ルチノさんの攻めを躊躇させる。


「だから言ったでしょ、私は弱くなんかないって。だって」


 体中に電気を帯びたクラウディアは、少しだけ俺のほうを見て、桜色の唇をひらいた。


「私の師匠が、私を強いって言ってくれたから──!」

「──えっ、消えた……!? があぁっ!」


 クラウディアの双剣が、初めてルチノさんを捉えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お読みいただきありがとうございます!
少しでも面白いと思っていただけましたら

↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して応援いただけると嬉しいです!

執筆のモチベーションがアップしますので、ぜひよろしくお願いします!


― 新着の感想 ―
[一言] ルチノが疾風ならば、クラウディアは雷光。 風と雷、どちらが速いのかな? って所ですかね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ