ふたりの弟子は訝しむ
「ルチノ・フラペルと申します。本日はよろしくお願いいたします」
陽だまりのような微笑みを浮かべた女子生徒、ルチノさんは丁寧に頭を下げた。
エルシーが冷たい声で小さくつぶやく。
「彼女、可愛いですね。落としましょう」
「どういう判断基準なんだ。それだとエルシーも落とす必要があるぞ」
「えっ、そ、それって……」
クラウディアがゴホンとわざとらしく咳払いすると、エルシーは彼女を一瞥した、だけで済んだ。よかった、さすがにいまはケンカしないみたいだ。
続けて学園長が「かけたまえ」とルチノさんに声をかける。
ルチノさんは特に緊張した様子もなく、落ち着いて椅子に腰かけた。
「ではまず、どうしてハイドくんのパーティーに入ろうと思ったんですか?」
「武神祭で優秀な成績を収めたいからというのはもちろんありますが、率直に申し上げますと、ハイドさんの強さに惹かれたんです」
翡翠色の瞳を輝かせるルチノさんに対して、エルシーは懐疑的な青い目を向けたままだ。
「そういうのいいですから、あなたの本音を聞かせてくれませんか?」
「え? いまのも本音だったんですけど」
「わたしの目は誤魔化せませんよ。あなたは武神祭の話が出る前から、ずっとハイドくんを意識していた。そこの金髪さんと同じように、ハイドくんに下心を持って近づく害虫はすぐにわかります」
「いちいち私を引きあいに出すな」
「下心ってところは否定しないんですね」
「あんたって朝起きても鏡見ないの? もしかして家にない?」
「は?」
「あ?」
「ふたりとも……ルチノさんが困ってるだろ」
ついでに言うと俺も反応に困る。
ルチノさんは目を丸くしていたが、やがて小さく笑みをこぼした。
「そうですね、では包み隠さずお話ししましょうか」
「そのとってつけたような丁寧口調もやめてください。クラスにいるときはそんな話し方ではないですよね」
「……エルシーさんって、結構私のこと見てくれてるんだね」
「当然です。ハイドくんの甘い汁を吸いたがる虫は後を絶ちませんから」
「その言い方はなんかやめてくれ」
「──じゃあさ、私もハイドくんの甘い汁を吸いにきたって言ったら?」
ちょっとなに言ってるのこのひと。
おかげでエルシーもクラウディアもすごい顔をしている。
教頭先生は「こ、これは……」と楽しそうにしていた。
学園長は「ルチノ君もなかなか良い筋肉をしているぞ」といま必要のない情報をくれた。
「なんてね、冗談だよ。私はそうだなぁ……武神祭でハイドくんの力になって、ハイドくんの可愛い妹分にでもなれたら嬉しい、かな」
「はははハイドくんっ、この女は危険です、危険すぎます」
「わ、私もそう思うわ」
「たしかに、そうかもしれないな」
主にエルシーを無駄に焚きつけるって意味で。
「ハイドくんもわかってくれましたか。自分のことを可愛い妹なんて言う女は信用できません。落としましょう」
「えっ、そういう意味だったのか?」
「他にもあります。この女は絶対になにか企んでいます」
「企んでるだなんてひどいなぁ。……ねえ、ハイドくん」
ルチノさんは右手に細身の剣──レイピアを顕現させ、軽く素振りをしてみせた。
「ハイドくんたちは武神祭で剣術を広めたいんだよね。だったら私はその力になれると思うよ。私はハイドくんと互いに助け合えるような関係になれたらって思ってる、どうかな」
──良い太刀筋だ。
まさかアトランティアに剣術を学んでいる同志がいるとは思ってもみなかったな。
「俺としても即戦力になってくれるならありがたい限りです。もっと剣術を見せてもらってもいいですか?」
「もちろんだよ」
「ハイド、その件なんだけど」
クラウディアは立ち上がって、両手に双剣神薙を顕現させた。
「私が彼女と手合わせしてもいいかしら」




