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劣等剣士は見極める

 放課後。

 俺とクラウディアとエルシーの三人は、学園長室の長机に横並びに座っていた。


 俺の両サイドにクラウディアとエルシー、さらにエルシーの隣にはゴウラン学園長が、クラウディアの隣にはアンジェルム教頭先生が、それぞれ真剣な表情で目の前の男子生徒をじっくり見ている。


「ほ、本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました……!」


 男子生徒は上擦った声でそう言って、椅子から立ち上がって礼をし、最後にまた上擦った声で「失礼しました!」と再び礼を添えて学園長室を後にした。


 そう、俺たちはいま、武神祭(ぶしんさい)のパーティー最後のひとりを決める面接を、なぜか学園長室で、しかも学園長付きで行っているのだ。


『──話は聞かせてもらったぞハイド殿! 微力ながら私とアンジェルムも協力させてもらおう!』

『ちょっとハイド! どうしてあなたと八賢者の学園長が……って思ったけど、ハイドだものね』


 ──というわけで、勢いに押されていまこうなっているんだけど、さっきの男子明らかに緊張してたな。

 他人の視線に押しつぶされないよう、精一杯虚勢を張っている感じだった。


「やる前から自分に剣術は無理って決めつけているのはどうかと思うわ」

 クラウディアが毅然とした態度で意見を話した。


「ダメですね。ハイドくんに対する忠誠心が足りません」

 エルシーがどこで見抜いたのかわからない点を指摘した。


「ハッキリ言って彼は軟弱だな。あの筋肉では剣を扱うのも苦労するだろう」

 ゴウラン学園長が腕を組んで頷いた。ここは魔術学園ですしね。


「わたくしは皆さんの自主性におまかせします」

 アンジェルム教頭先生は聞こえのいい丸投げ体勢だった。どうしてここにいるんだ?


「ハイドさんの取り合いは面白そ──いえ、とても興味深いと思いまして」


 心の声を読まないでください。

 あとそれごまかす気ないですよね。


「ハイドはどうなの?」「ハイドくんはどう思いますか?」「ハイド殿はどうだ?」


 俺に意見を求める三人の声が重なる。


「知ってのとおり、武神祭で俺たちのパーティーは剣術を使ってもらうことになる。剣術そのものへの意欲や適性もそうだけど、剣術を使うってだけで必然的に多くのひとの目にさらされるだろう。

 そう考えると、さっきの彼に今回の役目を強いるのは、酷かもしれないとは思う」


 思ったことを伝えると、エルシーが柔らかい表情で微笑んだ。


「やっぱり、ハイドくんは優しいですね」

「優しい、かな……」


 脳裏に元父親の、ウィルマクの罵声が思い起こされる。


『このマナなしがッ! ハイド、貴様はもう追放だ!』

『二度と顔を見せるな痴れ者めッ!』


「俺も五年前に、魔術が使えないからって魔術師一家を追放されたからさ。選ばれなかった、必要とされなかったときの悲しみはよく知ってるつもりだ。だから優しいというか、なるべく聞こえのいい断り文句を探しただけなのかもしれないな」


 思わず苦笑がこぼれてしまう。

 ってこんな話、聞かされても反応に困るよな。余計なことを言ってしまったかもしれん。


「は? ハイドくんを追放、ですか……? バカなんですか死にたいんですか?」

「ハイド……あなたにそんな過去があったなんて……」

「ハイド殿。その魔術師一家はいったいどこなんだ。我が校の威信をかけて、貴殿の追放を取り消させよう」


 歴史ある威信をたかが一生徒にかけないでください。


「も、もう過ぎた話ですし、いまさら戻りたいとは思ってないので大丈夫です」


 ウィルマクには感謝までいかないにせよ、追放されたことで俺は運よく師匠に出会えたのだ。

 だから、いまはこれで良かったと思っている。


「いまの俺には家族が……師匠がいますから」

「わ、わたしも、ハイドくんの家族に……」

「はーい次の方どうぞー」


 照れるエルシーの台詞にクラウディアが被せる形で、次の面接が始まった。


「失礼します」


 ぺこりとお辞儀をして入ってきたのは、栗色ストレートボブに翡翠色の瞳の女子生徒だ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「会長、ハイド・オーランドの資料、集めてまいりました」

「ご苦労」


 生徒会室にて。

 アトランティアの生徒会長エリック・アペルは、ハイドについての資料を受け取った


「こ、これは……!? 魔術の実技成績がすべてゼロじゃないか……これで退学にならないなんて、ハイド君はもしや有名貴族の息子……しかし、オーランド家なんて聞いたことがないな」

「こちらがハイド・オーランドの体力測定の結果です」

「ああ」


 資料を受け取って、エリックは驚愕の声をあげた。


「きゅ、九千五百点……! な、なんなんだこの反復横跳びの点数は! 測定用の魔法線でも改ざんしたのか。いや待て、それなら魔術の実技成績がゼロという説明がつかない。そもそも他の種目はすべて平均並みの成績は出ているし、どうして反復横跳びだけ……」


 エリックは頭を抱えた。


 それもそうだろう。

 反復横跳び専用魔術など、アトランティアに併設された魔術図書館の本にも書かれていない。


「ハイド君の得意不得意を見極めるつもりだったが、これじゃあ強いか弱いかもわからないぞ……」

「会長自ら調査をされてみては?」

「それだ!」


 ビッと役員に指をさしたエリックは、勢いよく生徒会室を飛びだしていった。

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