生徒会長は調子に乗る
「か、会長が……!」
「なんだこれ! 壁と一体化する魔術か!?」
廊下の壁にめり込んだ会長に、野次馬が集まってきていた。
「フッ……これはまた照れ屋で奥ゆかしい一年生だ」
何事もなかったかのように壁から這い出てきた会長を、エルシーが光を失った碧眼で見据える。
考えがポジティブ過ぎるのか、大剣で殴られた衝撃で頭がおかしくなったのか、いずれにせよ会長の死期はすぐそこにあった。
エルシーは顕現させた大剣ツヴァイハンダーを引きずりながら、ゆっくりと会長に向かって歩いていく。これはマズい、衆人環視のなかで殺人事件は見過ごせないぞ。
「エルシー!」
大剣を引きずるエルシーの左手を、俺はとっさにつかんでいた。
その瞬間、エルシーの碧眼に光が戻る。
「……っ! は、ハイドくん……急にわたしの手を握るなんて……周りが見てますよ……」
「そうだな。だからこうしたんだ」
「つ、つまり、わたしとハイドくんの仲は公認ということですか……!」
「いつまでも色ボケてんじゃないわよ」
俺とエルシーのあいだにクラウディアが割り込み、ふたりはむぅぅと軽く睨みあった。
よかった。エルシーからさっきまでの剣呑な雰囲気が消えている。
「そこの君、急に女性の手を握るなんて、マナーがなってないな」
特大ブーメラン刺さってますよ。
エルシーにもう一発くらい殴ってもらってもよかったかも……いや、それだと死んでそうだったし、俺の行動は間違ってないはずだ。
「まぁそれはともかく……エルシーさん。君の返事を聞かせてくれないか? 武神祭で僕とパーティーを組むかどうか。ああ、照れる必要はないよ」
「ほらエルシー。聞かれてるわよ、きちんと『はい喜んで』って答えてあげたら」
「虫と会話なんてできるわけないじゃないですか。金髪さんが代わりに断っておいてください」
「あんたが嫌味にツッコんでこないなんて……これは相当ね、って誰が虫と会話できるって?」
またふたりがいつもの世界に入ってしまったので、俺は代わりに会長に答えた。
「会長。悪いんですけど、エルシーは俺とパーティーを組むので、他を当たってもらえませんか」
「……ほう?」
会長は芝居がかった所作で眼鏡をくいっと上げた。
「いいだろう。ならば僕と君、どちらがエルシーさんのパーティーメンバーとして相応しいか、正々堂々決着をつけようじゃないか」
「……あの、俺の話聞いてましたか?」
「勝負は一週間後、場所は放課後の武闘館で行う。もし君が逃げたら、そのときは僕の不戦勝とさせてもらうよ」
「だから俺の話を」
「最後に、君の名前を聞かせてくれないか」
いや名前とかどうでもいいんで俺の話を聞いてください。
なんて、言わないほうがいいよなぁ。一応上級生だし、生徒会長らしいし。
「……ハイド・オーランドです」
「ハイド君か。いい名前だな」
会長はザッと芝居がかった様子で踵を返し。
「君との勝負を楽しみにしているよ。ハイド君」
そう言い残して、一年A組の教室を去ってしまった。
クラスの男子が「うおおお会長とハイドの勝負とか激熱すぎ!」「ハイドの剣術がまた見れるなんて!」と盛り上がり、女子は「きゃああエルシーちゃんの取り合いよ!」「小説みたい~!」などと黄色い声をあげている。
「ごめんエルシー、ちゃんと断れなくて」
「仕方ないですよ。いくらハイドくんでも虫と会話はできないと思いますし、あの虫の言っていたことは全部無視していただいて……いえ、ちょっと待ってください。
このままの流れですと、ハイドくんはあの虫と一週間後、武闘館で勝負するんですよね……わたしのために、わたしを賭けて」
「ま、まぁそうなる、のか?」
「ぜひやりましょう」
エルシーの顔が急に活気づいた。そして顔が近い、って思ったところでクラウディアがエルシーを引きはがした。
「わたし、ハイドくんの剣術が見たいです」
「普段練習で見せてるだろ」
「実際に戦っているところを見たいんですよ」
「あ、それは私も見たい。体の使い方とか勉強になるし。凄すぎて勉強にならないこともあるけど」
弟子にそこまで言われては、師匠として断るわけにもいかないだろう。
俺が「わかった」と返事をすると、ふたりは花のような笑顔をみせた。
そんななかで。
栗色ストレートボブの女子生徒が、俺に向かって控えめに質問した。
「ところで、武神祭のパーティーのことなんだけど、結局ハイドくんはあとひとり誰を選ぶの?」
「「「「「…………………………」」」」」
会長の乱入でうやむやになりかけた本題に、クラスは再び喧騒に包まれるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
王立アトランティア魔術学園、現生徒会長のエリック・アペルは、生徒会室に戻るやいなや他の役員らに指示を出した。
「ハイド・オーランドという一年生について情報を集めてくれ」
役員らは「なんでまた急に?」という顔を隠さなかったが、エリックと話すより調べたほうが早いと思ったのか、各々迅速に行動を開始した。
「悪いねハイド君。エルシーさんは……この僕がもらっていくよ」




