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ソリで次の場所に向かっている最中で起こされた悠太は幼馴染の家で起きたことを覚えていなかった。
正確には、幼馴染の母の部屋に足を踏み入れた時から記憶が無い。
「なんか頬が痛いんだけど麗奈知ってる?」
鈍痛と熱を持つ頬を摩りながら隣で薄着の自分を抱きしめ暖めてくれる麗奈に問いかけた。
『思いっきり転んでドアノブに顔ぶつけて気絶してたよ:(;゛゜'ω゜'):』
「マジか……どんなぶつけ方したら顔ぶつけたくらいで気絶するんだよ……」
悠太の頭の中は疑問符でいっぱいだったが、隣に居る女性には絶大な信頼を置いているので疑いもしなかった。
その女性の目はおどおどとあっち見たりこっちみたり忙しなく動いているのだが……。
「よし、雪兄の家に突入だ!涼夏と違ってマメだから鍵が閉まってるんじゃないか……?」
ズボラな幼馴染と違って、兄的存在の桜雪人は発言にデリカシーが無い割にマメな男だ。
悠太達が乗ったソリが窓辺に近づくと、悠太が鍵をチェックした。
「閉まってるじゃん!!どうする?割る?」
悠太が冗談を言っていると窓の鍵がひとりでに下へスライドして開いた。
「……ほんと、夢じゃねえんだよな。まあいっか、雪兄へのプレゼントは俺決めてるからサクッと置いてくるわ」
窓を開け、部屋の中へ一気に飛び降りた。
先程まで悠太の家で食事を楽しんでいた雪人は部屋の中心に敷いた布団で寝ていた。
その中でも一際目に着いたのが、机の横に飾られたコルクボード。そこにピン留めされた写真には、悠太を含め、彼と昔から付き合いのある人達と撮った写真が所狭しと貼られている。
その中には悠太の亡くなった姉、葉月の姿も。写真を見た悠太は昔を思い出して懐かしい気持ちになった。
「いけね、思い出に浸ってる場合じゃねえ。さっさと置いてくか」
時間制限付きのミッションをクリアするため、無駄な思考を振り払ってキッチン用具のセットをドンドンと発現し、雪人の布団の横に置いていく。
クリスマスプレゼントが1つだとは決まっていない。
どうせ湯水のように湧いて出てくるんだ。そう考えた悠太は思いつく限りのプレゼントを置いて出ていった。
『おかえり。早かったね(o´艸`)』
麗奈に出迎えられ、悠太は麗奈の手を借りてソリに飛び乗った。
「雪兄と言えばキッチン用具だろ!へへっ、いっぱい置いてきてやったぜ」
悠太はイタズラっ子のように笑った。
『半端な物置いてきたら雪人さん逆に怒らない?:(;゛゜'ω゜'):』
一流の料理人である雪人にそこら辺で売ってるような物を渡しても失礼になる。麗奈はこれを危惧して悠太に問いかけた。
「大丈夫だ!高級なもので思いつく限りの調理器具を置いてきた!多分喜ぶぞ!」
満面の笑みで言う悠太の頭を麗奈がよくやったと撫でる。
『次は琥珀の部屋だね。急いでいこ』
麗奈が文章を打ち終わって悠太に見せた時また、差出人不明のメールが届いた。
「お、次のメールか、貸してくれ」
悠太が麗奈の手からスマホを借りてメールを開いて中身を確認する。
「何何?雪人にプレゼント渡しすぎ。少し疲れるから高い物をいっぱい出すのはやめて欲しいかも……だってよ」
能力を使えば使うほど、犯人達は精神力か何かを消費するようだ。
悠太は悪そうな笑顔で麗奈と顔を見合せた。
「どうせ無理難題を吹っかけられたんだ。楽しくやろうぜ!」
『私達に弱点を見せたのが運の尽きだね(o´艸`)厳しい罰を与えられないくらい皆を幸せにして回ろ(*´ω`*)』
「おう!その前に、麗奈。少しいいか?」
悠太が手の平を彼女の口に近づけ、念を込めると手が発光し、光が収まる。
「声、出してみ」
悠太の言葉に、麗奈は恐る恐る口を開く。
「あーー………………悠太!凄い!!!声出てる!」
ハスキーな声で、試しに発音した麗奈は声が出た事に飛び跳ねて喜んだ。彼女を見た悠太も勿論歓喜した。
「まだあるぞ」
スっと麗奈の顔に触れ、念を込めるとまた発光して、光が収まると、声同様に顔を柔らかくして微笑む麗奈の顔が現れた。
麗奈のトラウマが治った訳では無いが、2人は涙を流して喜んだ。
これが今日限りの魔法だと、悠太は頭の片隅で理解している。
だけど、今この瞬間だけでも、この奇跡を悠太は麗奈と共に喜んだ。