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ふざける麗奈を窘め、悠太は涼夏の部屋を後にした。彼女もそのあとをついていく。
廊下に出て隣の部屋が涼夏の母、蓮の部屋だ。
部屋の前に立つと麗奈が悠太の肩を叩いた。
『お姉さんが先に入るから君は待ってて』
涼夏と違って蓮は大人の色気の漂う未亡人だ。性格や行動は涼夏が似ているから、もしかしたら蓮さんもセクシーな、格好で寝ているかもしれない。
そう思った麗奈は自分が先に入って中を確認することにした。
「分かった」
悠太が返答すると彼女は遠慮なく扉を開けて中に入り、大きめのベッドに一人で寝ている彼女を視界に映した。
麗奈の考えていた事は残念だが当たっていた。
掛け布団は蹴り飛ばされ、ズボンや上は最初から着ていた形跡もなく、下着姿のままベッドの端っこで丸くなって眠る蓮がいた。
(これは悠太には見せられない。同じ女性の私でもドキドキする)
「麗奈どうだあ?」
彼女が未亡人の艶姿に見とれていると、部屋の外で待機指示を出していた悠太が部屋の中に入ってこようとしていた。
それを見た彼女は命令に背いた悠太に苛立ちを感じ、手の平に念を込めると、硬球の野球ボールを発現させると、苛立ち紛れに振りかぶって野球ボールを彼の顔面に向けて放り投げた。
放たれた野球ボールは弧を描かず、真っ直ぐ悠太の顔に吸い寄せられる弾丸のようだった。
悠太の頬に野球ボールが直撃すると、バッチーーン!!と音が鳴り響き、悠太は廊下へと弾き出されて行った。
戻ってこないことを確認すると、麗奈は、蓮に向き直ると、1歩1歩足を前に出し彼女の眠るベッドへと近寄っていく。
部屋に入った瞬間から感じていた麗奈の鼻腔を擽っていた催淫効果すら感じそうな彼女の匂いが近づく度により濃くなっていき、彼女の下腹部に違和感が生まれた。
麗奈は蓮の隣まで後1メートルという所で足を止めた。
(これ以上は耐えられない。もうここに置いていこう)
麗奈が手の平を上に向け、念を込めようと頭でプレゼントを考えた。
ただ、目の前のサキュバスのような未亡人が何を欲しがっているか、麗奈は分からず、そんな彼女の集中力を削ぐように自身の内側から溢れ出そうになる性的興奮に身悶えた。
(もう何でもいい。出てきて)
麗奈の手が発光し、光が収まると手の上に乗っていたのは手の平サイズの電動マッサージ器だった。
違う。これは私が欲しかったからじゃない。麗奈は顔が熱くなり、顔が羞恥に赤くなっているのを感じながら、電動マッサージ器を蓮の枕元に投げると、その場を後にした。
廊下の空気は冬らしく冷えていて彼女の火照った熱を覚ましていく。
(危なかった。普段は母性しか感じないのに寝てるとえろいなんて卑怯。悠太を外に出して正解だった。あれ?悠太は?)
水分量が増し、うるうると潤んだ瞳で目線を下に向けると、悠太が仰向けに倒れて気絶していた。
(………………)
麗奈がゴクリと息を飲み、大事にしている少年の首元に向かって両手を伸ばした。
悠太のサンタコスのボタンを片手で触れると、もう一方の手で襟を掴んでボタンを外そうと手を動かす。
ボタンが外れようかと言うところでトナカイコスのポケットに閉まっておいたスマホが震え、麗奈は我に返った。
私は今何をしようしていた……?目の前の少年の寝顔を見た麗奈は胸の中にチクリとした罪悪感を抱えた。
冷静に戻った頭で、スマホに送られてきたメッセージを確認した。
『聖夜の夜を性夜に変えるつもり?お触りは厳禁よ。ここだけで30分も使ってるけど間に合うの?間に合わなかったら厳しい罰だよ、そこでいやらしい事してる場合じゃないよ?』
見られてる事を悟った麗奈は廊下の窓へと視線を映すが窓の外には待機していたトナカイぐらいしか居らず、他に生き物の気配はない。
制限時間は後1時間半。まだノルマには程遠い。
こんな魔法見たいな事を易々と実現させるような人達、そもそも1人なのか複数なのか、はたまた人間かすら怪しい者が言う厳しい罰だ。
きっとろくな物じゃないと想像した麗奈は、目の前で眠る少年を抱き上げると、ソリに乗り込んで、時間内に回り切る為、夜空へとソリを走らせた。