エーザスの終戦
夜襲を受けたエーザスは激高し、周囲の兵を突き飛ばす。
朝美の槍を右肩に受け、致命傷とは言えないまでも戦闘不能となっていた。
日の出を前に、アインハイツ将軍より伝令があり、応急処置を済ませた後は、生き残った兵とともに帰還するように指示があったためである。
「離せ。私はまだ戦える。ここでおめおめと国に帰っては、身代わりになって死んでいった者達に申し訳がたたん」
そう言って暴れるも、周囲の兵が説得し、取り押さえる。
「エーザス様、その傷では無理です。今は安静に・・・・・・」
となだめるのだが、一向におさまらない。
「戦えないまでも、指揮は執れる。このまま帰るわけにはいかんのだ」
どうしても納得しないエーザスだったが、これにはワケがある。
四回目の侵攻時、ほぼ先頭を進んでいた部隊であったが、罠や迎撃によって、ついにはエーザス一人になってしまった。
先行していたため、最も敵国奥地に取り残されることになったのだ。
そこで、数時間後、やはり一人だけ生き残った兵と行動を共にすることになる。
ともにキャンプを張り、名前もお互いに知らぬまま、生還を誓う。
その兵には婚約者がおり、帰国したら結婚する予定だったようだった。
エーザスには伴侶がおらず、実家に親と犬がいるのみである。
他愛のない身の上話をしている際に、年端もいかない小さい少女に襲撃を受ける。
今となっては年格好から兵であったのかすらもわからないが、結果として、独り身の自分が生き残り、結婚を間近にした男が死んでいった。
自分は相手の情けで生き残り、震え上がって帰ってきた。
泣きながら、ただがむしゃらに走り続け、帰路につく。
平野を発見した功績を称えられ、勲章をもらったが、自身の手柄でないことは自分が一番わかっている。
絶体気を緩めない。
ほんの一瞬の油断が命を落とすことにつながることを学び、自分の生存は数多くの犠牲の上で成り立っていることを知る。
死んでいった者達のために、できることをしなければいけないし、もう自分の目の前で犠牲者を出すのは嫌だった。
わずか数ヶ月ではあるが、がむしゃらに訓練し、勉強し、経験を重ねて、五度目の侵攻のときも生き延びる。
歴史的敗北と言われたが、エーザス自身は部隊から犠牲を出さず、敵も数人討ち取った。
多少なりとも強くなったと錯覚していた。
ただの一兵卒から総軍の副官にまで任命され、重要な先導部隊も任された。
目的地までたどり着いていたので、八割方は役目を果たしたとアインハイツ将軍からは賛辞の言葉を贈られたが、自身納得のいくものではない。
アールッシュ兵長、エルドス兵長からも労いの言葉、賛辞の言葉が直接告げられ、感謝も述べられたが、悔しさで涙があふれ止まらなかった。
フラハー国は最初から、ある程度で夜襲は撤退するつもりだったのだろうが、自分の奮闘で夜襲を退け、撤退させたことと高評価を受け、後続の部隊を守った英雄として後軍に伝わっているが、そんなことはないのは自分が承知している。
決して本意ではないだろうが、あのドルディッヒ王も「お前が盾となって戦ってくれたお陰で、俺のところまで敵が来なかったのだ。良くやった」と言ってくれる。
普段の態度から決してそんな褒める言葉を部下にかける王ではないのだ。
むしろ、「仕えない奴め。大事な俺の手駒を無駄死にさせやがって」といつものような調子で言われた方がまだ良かったと手を握りしめ、自分への怒りを滲ませる。
弓兵が三百、工兵が百、輜重隊が百、騎馬も百、各兵種毎に指揮官が付いていたが、守られるようにアインハイツ将軍のところにいた部隊が代わりに先頭に来る。
予定通りではあるが、本来であれば、自分の部隊である軽装歩兵も五百以上の生存者を維持してそこにいるはずだったのだ。
結局、七百で入り、自分含め、三十名の生存者しか眼前にいない。
悔しさにあふれていたが、担架で担がれ、鉄の盾で上からの攻撃を守られながら、来た道を運ばれる。
道中すれ違う兵からは惜しみない称賛の言葉と拍手、敬礼などがエーザスの心の傷を深めていくのであった。
エーザスの第二次プルミエ国はここで終幕となった。




