作戦行動の概略説明
侵攻する部隊六千、プルミエ国に残って防衛する部隊五百、ヴィータ国の警護に回る部隊千、後から出発する輜重隊に分かれて整列すると、壮観な景色を形成する。
一万には及ばないが、これほどの兵が一箇所に集まることは中々にある機会ではない。
数十年に一度かも知れない。
侵攻する部隊の兵数だけでも六千である。
援軍とはいえ、それだけの数を指揮したことのある将軍など、数える程度であろう。
その歴代の将軍に名を連ねることになることを想像し、アインハイツ将軍は歓喜に震えるとともに気を引き締める。
部隊が整列し終えると、兵はそのまま待機し、指揮官や政務官、外交官など、各国を代表する面々が王宮の広間に集まる。
全員が集まりきる前がチャンスとばかりに、アインハイツ将軍は黒騎士の元へ歩み寄り、話しかける。
「お久しぶりです。ひまわりの庭園以来ですかな。お変わりないようで何よりです」
黒騎士もまた向きをただし応える。
「ありがとうございます。此度は私は輜重隊を率いることになりました。本来は侵攻にも加わりたかったのですが、いかんせん人手不足ということが現状でして。シーハーフ国からお預かりした貴重な物資を運用するのも大事な役目。私が自ら申し出た次第です」
そう言われて、アインハイツ将軍は納得するものがあった。
ただの輜重隊であれば、どこぞの一兵卒がやれば良い。
指揮官がやるものでもないが、この大軍であれば兵站は非常に重要なため指揮官が立つのもうなずける。
黒騎士宰相と謳われるものがやるのは解せないと思っていたのだ。
だが、よく考えれば、派兵の代わりにシーハーフは物資を提供したのであって、この物資は派兵と同格。
しかも、他国からの預かり物である。
であれば、ただの物資という意味合い以上の価値があると判断するビーゼス国の考えも納得がいくものであった。
「これはこれは、アインハイツ将軍。いつもうちの黒騎士が懇意にさせていただいているようで感謝する。私も弟とともに先日までシーハーフでバラン王国にいたので、黒騎士宰相に任せきりになってしまったが、無事に進行の準備ができたことで安心しております」
そういって、横にいたキミュケール第一王子も会話に加わる。
「これは、王子。シーハーフからはいつお戻りで? あちらはもう大丈夫なのですかな?」
といって、アインハイツ将軍は姿勢を正す。
「実は数日前というギリギリの強行日程でしたよ。あちらはまだ不穏な空気があったため、弟のタクソケールに任せて私だけ戻ってまいりました」
その後、キミュケールは話をした後、他の国の方へと順に話しかけていく。
正式な話があるまでは、社交の場となっていたので、一国の王子であり、今回のビーゼスを代表するものとしては大変なのだろう。
終始、アインハイツ将軍の近くにアールッシュがいたため、アインハイツ将軍も黒騎士と話ができず、その場は断念したのであった。
黒騎士もまた順に挨拶を済ませていく。
全員が集まり、最後のドルディッヒ王が到着すると、場が静まる。
アインハイツ将軍は王の横に駆けつけ、大声で作戦の説明を始める。
「お集まりの方々、プルミエ国将軍、アインハイツと申します。すでにご存じの方がほとんどとお見受けする。侵攻前とあって自己紹介は省かせていただき、早速作戦についてご説明させていただきたい」
そういって、集まった面々をみると、淡々と説明をしていく。
「まず、我が軍のエーザスが先頭に立ち、森へと侵入する。かのものは我が副官であり、前回の侵攻時にも帯同しているため、森も十分に熟知しているため、適任と言えよう。」
エーザスが一歩前に出て、手を上げ、一礼して下がる。
「次いで、近衛兵団の一つ、アールッシュが続き、ドルディッヒ王、同じく近衛兵団のエルドスが進みます」
同様にアールッシュとエルドスが前に出る。
アールッシュの時に、その褐色の肌ゆえにざわめきが起きるが、ドルディッヒ王がそれを制するように口を挟む。
「この者は異国の出自ではあるが、幼少の頃より俺の友人として一緒に育った者だ。最も信頼するものである。近衛兵でありながら、勇猛果敢であり、俺の前を行かせるのにこれ以上安心できる者はおらん」
そういって、場を鎮める。
これは、想定内のことだったため、何度もこのスピーチを練習させていたのだ。
場が一度静まるのを確認すると、アインハイツは続け、
「ついで、ヴィータ国の弓兵、その後に私、アインハイツが続き、ウィッセン国の重装歩兵が最後に森に侵入。頃合いを見計らって、ビーゼスの輜重隊がお入りください」
アインハイツ将軍は言い終わると、再度一同を見渡す。
皆、侵攻順については思うところがあるのであろうが、色々と事情があることを察し、大きな異論はでなかった。
援軍の手前、王が最後に侵攻するのもどうかという話や、王の後に他国の弓兵を配するのはどうかなど、様々な意見が出て会議は荒れたのだが、最終的にこうなったのだ。
アインハイツ将軍としては、ドルディッヒの側に自分の部隊を置きたかったのであるが、他国への監視、統率を理由にアールッシュから強い反対意見が出たため、やむなく従ったのだ。
アールッシュに疑いを持たれてからというもの、アインハイツ将軍は思うとおりに行動ができず、ことごとく邪魔された形になっていた。
アールッシュの目を感じることも多く、目立った行動もできず、事態の悪化を恐れ、消極的な準備期間となってしまった。
「戦場では、我がプルミエ国が主力となって戦闘を行ないます。基本的には援軍の方は後方への警戒、伏兵への備えに徹していただき、弓矢隊においては牽制と攻撃支援、追撃をお願い致します。現場においては各国の判断で退却していただいても結構です」
そういうと、若干どよめきが起こるがすぐに治まる。
自由に退却しても良いと言われても、我先に逃げ出すわけにも行かないし、敗戦の言い訳に使われてもたまったものではない。
被害は自己責任という意味合いの方が大きいだろう。
「戦場でのことは着いてみないと細かいことはわかりませんが、相手は千数百。殲滅を第一とし、奥に存在すると思われる拠点の制圧までを目標とします」
一通りの戦略を伝えると、その場は散会となり、部隊のあった場所へと戻る。




