討伐報告と魔獣への対応
翌朝、会議室に主だったメンバーが集合すると、昨日の魔族について、のぞみが報告をする。
「昨日接敵した魔族について報告します。ボクらが会ったのは、二体の魔族。種族はオークで、一般的なオークと思われました。片方は流暢に言語を使用していたのと、お手製の石斧を用いていたので、多少知能が高いと思われましたが、図鑑との称号の結果、ジェネラルとかではなかったようです」
(あれで、オークの平均的なヤツか。オークジェネラルとかってクラスはどんだけだよ)
と心の中で呟き、のぞみの説明を聞く。
「テラガルドさんの投石には無傷で、大斧の一撃でも致命傷は与えられませんでした。逆に、オークの一撃は鉄の大盾を陥没させ、テラガルドさんの身体を吹き飛ばすほど・・・・・・」
そう説明すると、控えていたテラガルドが、投げつけたのと同等の岩、実際に陥没した鉄の大盾をテーブルに置く。
参加していた指揮官達からは言葉にならない声が聞こえる。
「ただ、動きのスピード自体は有能な人間と同レベルで、ボクは無理だけど、朝美ちゃんが躱し続けることができる程度でした」
そこまでいうと、アンダールは軽口を叩く。
「ははは。朝美殿が躱し続けられるといっても、すでに朝美殿と我々にそれなりの差があるので、想像できませんよ。ただ、こりゃあ、どうやったらこんなになるんですかね?」
と言って、鉄の大盾を手でカンカンと叩く。
「多分、それほど難しい話じゃないと思うぜ。多分、上位五パーセントくらいの兵なら、落ち着いてさえいれば回避可能だと思うな」
朝美はそういって、アンダールに「お前は無理だけど」といって、お腹の脂肪をつまんでタプタプしている。
「朝美さんの仰るとおりかと。多分、体重が三百キログラム以上あるのだと思います。体格は私の一回り大きいほどでしたが、その重さゆえ、動きはそれほど機敏ではないように思います。無論、斬撃はそれなりの速度ですが」
と、テラガルドが補足する。
これは、地面の足跡の沈み具合から、アス老人が推測した重量である。
「最終的に討伐はできましたが、最終的には魔法で倒すことができました」
のぞみは結論を伝えると、一同は沈黙する。
沈黙を破ったのはフラハー王で、
「なるほど。やはり魔法使いの方でしたか。いや、秘匿事項だったと思われるのですが、感謝する」
そういって、頭を下げる。
「いや、遅かれ速かれ魔法の使用はプルミエ侵攻時にも行なおうと思っていたことじゃ。別に隠そうとしていたわけではない。それよりは、魔法を使わんと倒せないという事実を知ってもらいたかっただけじゃ」
そういって、アス老人はのぞみの肩に手をやる。
のぞみとしては、それなりの覚悟を持って情報開示したのと、今まで隠していたことの後ろめたさ、偏見への恐れなど、様々な感情があったのだろう。
「オークは接近パワー型の魔族なので、魔族全部がそうとは限りませんが・・・・・・人間が物理ダメージを与えるのはほぼ不可能と考えていた方が良いと思います」
のぞみは人差し指で眼鏡を擦り上げると、真顔で指揮官達を順繰りに見渡す。
「たぶん、火の魔法使い以外は厳しいんじゃねぇのかなぁ。ま、出会ったら逃げるのがベストだ」
そういって、朝美も両手を挙げてお手上げポーズをしている。
「たしか、前回マギー村の魔法使いが退治してくれたときも火の魔法使いだったと記憶している。我々が倒したときは、落とし穴を掘って、はまったオークを上から火計で燃やしたんだ」
フラハー王は今思い出したかのように言う。
「そういうことは、先に言っとけよ!」
朝美がツッコむが、王は爽やかに笑って、
「ははは。いや、すまない。オークということを女性陣に隠すことに集中していて、情報をはぐらかしていたんだが、大事なことまで伝え忘れていたよ」
と頭を搔いている。
「鉤付きのロープを一斉に投げて、二十人くらいの兵士で包囲、束縛した上で強制的に罠にはめるか、魔法でトドメを刺すって感じじゃろうなぁ」
アス老人は具体的な施策を提案する。
他に案も出ず、消極的な肯定で皆がバラバラに頷く。
「あ、ちなみにこれが戦利品だよ」
そういって、テラガルドから宝石を受け取ると、琴葉がテーブルの上に二つの大きい宝石を並べる。
強さを比例しているのか、片方が明らかに大きい。
「で、でかいっすね。自分、こんなでかいの初めて見ました」
そういってスパツェロは目を丸くしている。
皆、同じ意見だったのか、身を乗り出して宝石を見ており、代わる代わる手に取って眺める。
実際、琴葉達も博物館で見たもの以外は、過去に見たもので一番大きいものだった。
「元々目撃情報はオーク二体だったわけだから、あとは、魔獣だな。こっちは三体と思われるが、鹿みたいな魔獣だったそうだ。それぞれ角の形が若干異なっていたようだから、別個体で間違いないだろう」
フラハー王は改めて、魔獣の情報を共有し、今後の対策を議題に乗せる。
「何か具体的な対応や希望はあるのでしょうか?」
そうやってのぞみがフラハー王に尋ねると、
「希望、という言葉を使うということは、逆に琴葉隊としては希望があるということですかな?」
とにこやかに聞き返す。
珍しく言葉尻を捉えた尋ね方に一同はやや驚くが、それ以上にのぞみが何か訴えたい顔をしていたのであろう。
指揮官達もやわらかい笑みを浮かべている。
元来のぞみは弱気であり、オドオドしている。
内気で引っ込み思案であり、人見知りも激しく、ネガティブなため、指揮官や軍師というのは性格的には不向きなのだ。
当然、会議で中心になって話すことも苦手であるが、その真面目な性格と豊富な知識、学力に裏打ちされた能力と立場から今まではリーダーシップを発揮してきた。
今回の発言で、初めてといっても良いような、前のめりで自発的な表情をしたため、客観性というよりも、主体性、決意を感じた王が少しからかったのである。
「できれば、ボクたちだけに任せて欲しいんです」
そう、うつむき加減にのぞみは訴える。
「ほう。異論はないですが、理由をお聞きしても?」
王は微笑みながら、やさしく尋ねる。
「今回、ボクは魔族との戦いで無力さを実感しました。魔法を使うことを情報秘匿のために避け、誤魔化しながらやってきましたが、やり方が間違っていたことに気付いたんです。魔法を使えば、最後は勝てる。どこか、そんな感じに考えていたんだと思います。でも、今の魔法を使っても勝てない相手がいる。それに気付きました。今のままじゃダメだとボクは思う。せめて、魔法をもっと使った戦い方を覚えないと。今までとは違ったやり方で」
朝美はにっこりと笑って、のぞみの肩に手を置く。
「あたしも同意見だ。もうちょっと実践の中で魔法を使った戦闘力を磨きてぇ」
フラハー王は予め答えは決まっていたのだろうが、うなずく。
「こちらこそお願いしたい。被害を最小限に魔獣討伐ができるのは琴葉隊の皆様だけだ。よろしくお願いします」
そういって、頭を下げる。
「ただし、三日たって、遭遇しなかった場合は、一度捜索と討伐を諦め、プルミエ国の侵攻に集中しましょう」
フラハー王のその言葉で、朝からの会議は一度終了し、訓練と準備に戻るのだった。




