誰にも言って欲しくないことはある。
男はまさに水の魔法の「操」によって、頭部を水球で覆われて窒息状態となったということだ。
「さて、ある程度状況を理解できたところで、尋問タイムと行こうか」
赤い髪の少女は悪魔じみた微笑みとともに男に話しかける。
しかし、先ほどから無言の怒りに満ちあふれた一番小さい少女が薙刀を持って男に近づいていく。
明らかに殺気立っており、制止がなければそのまま殺してしまいそうなほどだ。
「あんた、わたしのこと、ぺったんこって言ったよね?」
そう言いながら、無表情で一歩ずつ男に近づく。
「ひっ・・・・・・ひぃ。た、助けて。ごめんなさぃ」
男は心底怯えた表情で少女を見上げる。
「なんで、のぞみちゃんに抱きついた?」
そういって、薙刀の石突きで男の腹を突く。
「ぐえぇ・・・・・・」
男は口を半開きにしてよだれを流し悶絶する。
「おいおい、琴葉。殺すなよ、もうこいつしかいないんだから」
そう言って赤い髪の少女が諫めるが、聞こえていないかのように、再度問いかける。
「のぞみちゃんが巨乳だから?」
二度目の石突きが男のみぞおちを突く。
「ぐごぉぉぉお・・・・・・」
今度は胃液と思われる消化液を吐く。
「なんで、わたしじゃなくて、のぞみちゃんに抱きつくの? わたしの胸が小さいから? ねぇ、ねぇ!」
ガツガツと小突く。
「いやいやいや。そうじゃねぇよ。琴葉。落ち着けって」
赤い髪の少女が羽交い締めで諫める。
「びえぇぇん。男と人ってみんなそうなんだ! 胸しか見てないんだ! うえええぇぇぇぇん」
押さえられてもう届かなくなった石突きを地面にカツカツと当てながらポロポロと泣き出す少女を、赤い髪の少女が引きずりながら男から距離をとる。
少し離れたところで、赤い髪の少女が泣いている少女の頭を撫でながら、必死に説明する中、呆れながら眼鏡の少女は男に向き合った。
「あぁ、なんていうか。すみません。悪い子じゃないんですが、ちょっと思い込みが激しい子なんです。琴葉ちゃんは」
男にとっては恐怖以外の何物でも無かったようで、一歩間違うと死ぬということだけでなく、理解できない理不尽なことで死ぬということが実感できたようだった。
「でも、女の子の胸のことを言うのはダメだよ。マナー違反! ・・・・・・特に、琴葉ちゃんには」
できれば最初に言って欲しかったと心底思う男だったが、出会ったときに「胸が小さいのはコンプレックスだから言わないでね」と忠告するヤツはいない。
「何でも知ってることは喋ります。なので、命だけは・・・・・・」
そういって、涙目で訴える男に少なからぬ同情を感じるのだった。