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カンナグァ戦記  作者: 樹 琴葉
第一部 第一次プルミエ侵攻
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戦闘終了

 王が自陣に戻る素振りを見せたことと、横陣が完全に瓦解したため、一度双方仕切り直しとなった。


ちょうど、王が戻ってきたときに、砦から援軍が到着する。


のぞみと朝美は援軍をみて驚愕する。


「人数的には負けているので、後詰めの予備隊と弓兵、工兵のみ追加で五百ほど砦から呼び寄せた」


確かに王はそういっていたが、戦力にはならないもの達だ。


女や子供、老人が装備などもほとんどなく普段着かのような見た目で到着したのだ。


冗談でも何でも無く、竹槍や農耕具などを手にしている。


朝美は真意がわからなかったようで、指をさし、口をパクパクさせながらのぞみの方を見る。


「かなり、大胆な手を使ってきたね。フラハー王も」


のぞみも心底驚いているが、真意は理解したのであろう。


「相手に、もうこれ以上の戦力はないと思わせるためにここまでやるとはのぉ。最初から千人でおよそ二千を相手にするつもりだったようじゃな。援軍などと言いおって・・・・・・」


そういって、アス老人も驚いている。


「よく考えたら、戦闘開始から三十分ちょうど。本当は数時間の道のりですが、相手は三十分くらいの位置に砦などの拠点があると勘違いしたかも知れませんね」


のぞみがその深謀遠慮に敬意を抱く。


王は琴葉隊をみかけると、笑顔で手を挙げ、近づいてくるが、先の戦闘を遠目で見ていた朝美は少しだけ身構えて緊張する。


(あんな戦い方をするヤツ初めて見た。全然上司にしたくねぇよ)


そう思いながらも、味方で良かったと安堵するのであった。


「あ、王様お疲れ! はい、タオル」


といって、琴葉が返り血を拭うタオルを渡し、


「戦い見てたよ!さすが最強の戦士、やるじゃん!」


とか言って無邪気にバンバンと背中を叩いている。


王は戦闘前のいつものような口ぶりで


「いえいえ、とんでもないことです。歴代の王に比べたら私はまだまだですよ。思ったよりも被害を与えることは出来ませんでしたし」


と言っているが、それはやりすぎて相手の戦意が喪失したからに他ならない。


王は横陣千二百のうち、半数の六百を討ち取るつもりだったようだが、実際に四百名の兵を倒すに留まった。


といっても、十分すぎる戦果であり、残った兵の士気はもはやないはずだ。


潰走していないのは森があり、退路がないことと、後ろに円形陣があって味方の監視があるに過ぎない。





 王は一通り水分補給を済ますと、再び敵陣を見る。


「円形陣の中に、アインハイツと思われる将がいた。ちょうど中央の焚き火が二つある位置に」


そう呟く。


琴葉が反応し、


「うーん。火の魔法使いである可能性があるね。直接触れられないように気をつけた方が良いかもよ」


と真顔でアドバイスを送る。


「確かに。であれば、油なんかの引火物も気をつけた方が良いかも知れねぇな。あるいは、風の魔法使いもセットでいると、結構やばいかも」


と朝美も追加で助言する。


王は微笑むと、


「とりあえず、相手の陣形を見て、再度こちらから攻撃する。琴葉殿には先ほど頼んだことをお願いしたい」


そう言って、琴葉に向けて頭を下げる。


先ほどの戦闘を見た後では、そのギャップに何とも言えない感情が起こるが、琴葉はいつも通りである。





 相手は中央に重装歩兵、両サイドに歩兵を置く横陣を構築し、重装歩兵の後ろに弓兵を配置している。


さらに奥にかがり火が二つあり、その間に指揮官と思われる男と、護衛数人が配置していた。


基本的には横陣であるが、自らは動くつもりがないのであろう。


奥の弓兵は迎撃用であり、突っ込んできた兵に矢の雨を降らせる作戦に違いない。


手前は重装歩兵が展開しているため、これを突破しないと、弓矢は止まらない可能性がある。


スピードを生かして接近すれば、混戦状態に持って行くことができ、弓矢が打てない状況になるが、騎馬隊がいない今、それは困難であろう。





 王は相手の布陣が完成するのを見届けると、すぐに陣を整え、再び戦場へとかけだしていく。


中央の先陣は先ほどと同じく王が行く。


その両サイドをやや遅れて重装歩兵が固めるは先ほどと同じである。


続いて、軽装歩兵が王の直後に続く。


ぱっと見た感じは先ほどと同じ鋒矢陣形で、兵科も同じように見受けられる。


このまま突撃すると、先頭集団は弓矢の洗礼を受ける。


盾で防ぐことも不可能ではないが、足止めされるし、もたついていると、正面の重装歩兵が突撃してきた際に後手に回ることになる。


まだ接敵には時間があったが、ここで琴葉が動く。





「味方、目標地点に到達を確認。作戦開始っ」


そういうと、鏑矢と呼ばれる、伝令用の音が鳴る矢を左右の森に向けて一本ずつ放った。


「ぽぅううぅん」


「ぽぅううぅん」


なんか、拍子抜けするような軽い音ではあるが、確かに音を発しながら、矢が森の方向へと発せられた。


通常は決して届くような距離でもないのだが、琴葉の大弓は飛距離が異なる。


音だけ伝えれば良いという点では今回は絶対条件ではないのであるが、それでも確実性をとるのであればとの役目である。


敵も当然、音を聞いており、左右の森に向けて放たれたため、何らかの合図であると察したようであった。


想像はしていたのだが、森からの伏兵を確信し、横陣の両翼の軽装歩兵をそれぞれ横に隊列変更をし、森側に前進させる。


横一列に近かった陣形はコの字型に近くなり、前進した分、角も接していないような|_|のような陣形へと変化していく。


隊列変更が終わる頃を見計らって、王は立ち止まり、代わりに重装歩兵が左右に分かれて走り出す。


瞬く間に重装歩兵部隊は向きを森へと変えた軽装歩兵に襲いかかる。


完全に側面を突かれた軽装歩兵は兵科の差もあり、蹂躙されていく。


森への意識もあり、完全に混乱状態である。


その間、王を先頭に、軽装歩兵が弓矢の届かない位置で直立不動で待機しており、目の前の重装歩兵と奥の弓矢隊は完全に釘付けとなっていた。


動くに動けず、ただ両サイドの軽装歩兵が蹂躙されているのを黙ってみていることしかできず、壊滅状態となっていた。


一部は来た側の森へと敗走するものいたが、多くは中央の弓矢隊付近に逃げていくのであった。


展開した軽装歩兵は先にされたのと同じく、ことごとく討ち取られていく。


逃げたものは又襲ってくる可能性があるので、いかにキチンと殺すかというのが防衛戦では大事である。


国力、戦力を削ぐとはそういうことである。


「生きて帰すな」


それが次の侵攻を阻止することにつながるのだ。


四百名ずついた両翼の軽装歩兵は最終的に百名ずつの生存者しかおらず、六百名が殲滅。生存者合計二百名も、半数の百名は森の逃亡していた。


先程と併せて千人が殲滅し、百名が戦線離脱。戦闘不能に陥ったものも百名いるため、実質戦力は六百名となっていた。


軽装歩兵、重装歩兵、弓兵と同数くらいが残っていたが、兵数で圧倒的に勝っていた戦況がわずか一時間でここまでひっくり返されるとは思ってもみなかった。





 王は、重装歩兵が完全に制圧、潰走に追い込んだことを確認すると、取り囲むようにして少しずつ間を詰めていく。


ただ、あくまでも主攻は重装歩兵である。


中央の王はエサであり、正面の重装歩兵、弓矢隊の気を自身に集めさせているに過ぎない。


本陣から弓矢隊百名が参加し、琴葉隊が軽装歩兵百名で待機する。


正確には援軍と呼べない援軍もいるが。





 この弓矢隊の動きでプルミエ側は敗北を悟ったのか、撤退のドラがなる。


敵の指揮官が重装歩兵の側近と潰走してきた軽装歩兵に囲まれて撤退をいの一番に行なうと、全軍が森に向けて退却し始める。


それを機に王の怒号が走る。


「一兵たりとも逃がすな。捕まえて殺せ!」


そういうと、全軍で挟撃、潰走する敵の背に容赦ない追撃を実施するのであった。


森に入って十メートルくらいまでは追走したが、すぐに本陣へと引き返し、戦闘終了となったのである。

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