ホルツホックからの依頼達成
午前中の最初は腕立て伏せ、ランニングなどの体力向上をしていたため、朝美だけ参加し、ついで素振りや型、射撃や乗馬の基礎訓練はアス老人以外が全員参加をした。
戦闘体系に応じて各隊にそれぞれ分かれて参加したのだが、士官学校の時のそれと似ており、体力の衰えは感じるものの、何とかこなすことができた。
魔法使いがいないこともあって、軽装歩兵は女子率はゼロに近く、朝美のモデル体型の容姿も相まって、終始和やかに進んでいた。
やはり華があると男性は頑張るようだ。
がさつな性格も群の中では気にするものもいない。
多少は女子が散見されるも、比率としては少ない弓兵においても琴葉はやはり人気を得ていた。
もとより、中身はともかく、顔立ちは整っており、美少女であることは確かである。
運良く、武道の流派の関係で、琴葉の嗜む弓道と呼ばれるものは、射場に入ったときから徒に喋ってはいけないしきたりがある。
つまり、余計な失言をしない分、まだ誰も本質がわかっていないようであった。
百四十八㎝と小柄ながら、男性成人が扱うよりも遙かに大きい弓はこのあたりでは見かけないのであろう。
物珍しさと感嘆を持って見られ、その威力もすぐに認められるものであった。
各々がコミュニケーションを図りながら、たった一日で軍に溶け込んでいく。
あっという間に一日が過ぎ、三日目の訓練の午前中を持って、およそ半数が本来の持ち場へと戻っていくのであった。
戦場に残ったのは騎兵を除く二千人であった。
琴葉達は五人がまとまって、日中は左右の森の巡回をし、たまに夜に哨戒業務を行なうなどして、地形の把握に努めた。
途中、何度か魔獣との戦闘はあったが、敵兵はさすがに見かけず、その痕跡すら見当たらない。
夜中にばったりと遭遇する人はフラハー国の哨戒業務の兵なので、むしろ人の気配が安心材料にすらなっていた。
琴葉達が哨戒業務を行なっている中、戦場では模擬戦や夜襲対策など、様々な想定をしながら訓練を行なっていたが、特段罠を仕掛けることはしておらず、無策での正面衝突というのは本気のようだ。
しかも、騎馬兵は今回は用いるつもりがないのか、完全に撤収している。
まぁ、それでも十分に勝利は揺るがないだろうが。
数日が経った頃、ホルツホックの使者より、キャンプ地へと情報がもたらされる。
四度目の敵が来た、と。
兵力はおよそ千人。
明らかに中央突破を図るため、最短での東進をしているとのこと。
編成は変わらず、五人一組だが、人数が増えたことによって、隊の間隔が狭く、同工程を歩きやすいことから、罠はあまり被害を与えていないようだった。
帰路のことも考えてのことだろう。
ゆっくりでも着実に解除しながら進んでいるようだ。
森の中盤にさしかかる頃、上からの迎撃を開始するとのことだった。
かくして、さらに数日が経った頃、何組かの兵士が平野部へと近づいてきたが、順次琴葉達は襲撃していったのだった。
初期の頃に生還させるのも何だから、ある程度襲撃した後、二、三組生還させることになっていた。
本当は一組でも良いのだが、たった一組だと信用して貰えない可能性もある上に、帰り道に死なれて生還できない可能性もあるからだ。
何組目かの隊を平野部に近いところで襲撃しようと、森で息を潜める。
この組は生かす予定となっていた。
ちょうど、キャンプを張っていた組と遭遇するも、まだ敵はこちらに気付いていないようだ。
相手は二人。
すでに残りの五人は死んだのだろう。
周囲に潜んでいる気配はない。
のぞみと朝美、琴葉とアスとテラガルドの二組に分かれ、木々の隙間から様子を伺う。
兵は焚き火を前に、談笑している。
「この戦いが終わったら、式を挙げることになってるんだ」
そう言って、真顔で話し、同僚の兵も茶々を入れながら、にこやかに薪を放り込んでいる。
「俺はしばらく独り身でいいや。まぁ、休暇をもらって実家の犬と遊ぶくらいだな」
そういって、干し肉を食いちぎっている。
しばらく沈黙があり、どちらからともなく、
「絶対に生きて帰ろうな・・・・・・俺たち」
「ああ。絶対に」
そういって、再び黙りこくる。
(朝美ちゃん、どうしよう。この会話、死亡フラグってやつだよ。生かす予定だったけど、ここで殺さなきゃダメかなぁ?)
のぞみが冗談とも本気とも取れないような声で朝美に問う。
しかし、そう思っていた矢先に、結婚予定の男が倒れる。
「くっ!リア充爆発しろぉ~。わたしなんて、まだ付き合ったこともないのに、結婚だなんてっ!」
すでに暴走していた琴葉だったが、無造作に残された敵兵に歩み寄る。
何が起きたのかをようやく理解した生き残りの兵は、かろうじて剣の柄に手をかけて立ち上がろうとするが、震えている。
「あんたは生かしてあげる。とっとと帰りなさい。ワンコが待ってるのよね?」
と言って、男が静かに立ち去るまで弓矢を向け続けるのだった。
「実家に、帰りを待つワンコがいるんじゃ、見逃すしかないよね?」
そう微笑んで振り返るのだが、朝美のげんこつが頭上に落ちたのであった。
平野部に戻り、哨戒業務を続行させようとしていたが、ここで異常に気付く。
兵士の数がおよそ千人くらいに減っていたのであった。
聞くと、平野部の状態を見せるに当たって、相手に戦力を誤認させるために砦に帰したとのことだった。
これで、平野部を見られても、罠がなく、およそ千の兵がいるという情報が相手に伝わるであろう。
哨戒業務を森ではなく、平野部で行なうことに切り替え、日夜巡回していく。
結果として、二、三組の隊に情報を持って帰らせることに成功した。
日中に森の陰から平野部を伺う敵兵を見ない振りし、わざとらしく、情報をまき散らす。
「国中の兵士をかき集めて、ここで待ち構えてるけど、本当に敵兵なんか来るのかよ」
「ボクたちは、ホルツホックのような罠を仕掛けたり、上から矢を放つなんて姑息な真似をせず、正々堂々と正面から駆逐するだけだよ」
「にしても、全戦力の千人の兵を集結させるほどのことかねぇ」
などと、あからさますぎるほどの会話を聞かせる。
後は、目が合ったときに、追いかけるフリをするだけだ。
「て、敵だぁ~。この平野を見たものは生きて帰すな~」
といって、当たらないようにナイフや矢を射る。
場合によっては、一人くらいは殺してしまった方が信憑性があるので、たまに本当にあてるのだが。
そうやって、生け捕った兵からは、やはり五度目が本番だということが判明したのだった。
「わがプルミエ国は五千の兵がいる。今までのは被害を覚悟の調査に過ぎん。たかだか千の兵で勝ち誇っているお前らに勝ち目はないのだ」
と尋問の末に重要な情報を得て、その兵は最後を迎えるのだった。
これにてホルツホックからの依頼は達成したことになる。




