追跡者との対峙
後方より突然、風速にして五メートルくらいの一陣の風が少女に吹き付ける。
少しよろめくが、走り続けた少女には心地よさ以外の何物でも無かった。
それを合図にしたかのように、少女は次なる行動に移っていく。
背中に背負っていた水袋を前に抱え、開けた地の一番奥に陣取ると、おそらく追っ手が来るであろう方向に向きなおる。
そして木を背にしてその方向を凝視する。
「きゃあっ!」
少女はわざとらしいが、やや大きい声を出し、木を背にしたままその場にうずくまる。
かなり近くまで来ていたのだろう。
少女の声があろうがなかろうが、この場所に行き着いたと思われるが、男達が開けた地へとたどり着く。
追っ手は今回は声を上げることもなく、開けた地へと侵入してくる。
少女が予想していたとおり、男性三名。
一人は弓矢を携え、やや後方に、残りの二人は剣を構えている。
おそらくは明らかに年配の大柄な男がリーダーなのだろう。
中央に位置し、小声で左右の男に指示らしきものを出している。
共通して言えることは、全員が共通の鎧を纏っていることだ。
具体的な所属は不明だが、左胸の連合国を表わす紋章が全てを物語っていた。
この森の管轄はカンナグァ連邦。
そこに西側のオージュス連合国の鎧を纏った兵士がいる。
それも、決して仲の良くない国の兵士が、だ。
加えて言うなれば、近々攻め込んでくるのではないかという噂もあったくらいだから、これは戦争の前触れに他ならない。
場合によっては、既に始まっているのかも知れない。
少女は情勢を鑑みながら分析する。
「その鎧、紋章・・・・・・。オージュス連合国の兵士さんがボクたちの国に勝手に入ってきてどういうことっ!」
少女は臆することなく、大声で問いかける。
リーダーとおぼしき兵は一通りあたりを見渡し、少女が一人であることや罠がなさそうなことを確認すると、後ろに控える弓手の兵に指示を出す。
その間も少女を必ず視界から外れないようにしているところに、油断のなさが伺える。
兵士としても有能なのであろう。
「一応、いつでも射てるように構えておけ」
そういうと、自身も剣を構えながら、少女に歩み寄る。
「フフフフフ。さぁ? どういうことだろうなぁ? ボクっ娘嬢ちゃん」
ニヤニヤしながら少女に歩み寄る。
「それよりも、この国のことをおじちゃん達に教えてくれないかなぁ? 色々と、ね」
だいぶ警戒心が薄れたのか、比較的無防備に少女に近づいていく。
リーダー格の男は本当に指揮官クラスなのだろう。
少女の質問には明確に答えず、無駄に情報を出さない。
そして、開けた地の中央付近にまできて歩みを止めると、再び少女に話しかけた。
「お嬢ちゃんが知っている限りで良いから、この国のことを教えてもらおうか」
開けた地の中央からは、近づいてこないところをみると、ある一定の警戒心は解いていないのであろう。
剣を突きつけながら、にやけた顔をしていたかと思うと、急に真顔になって、再度少女に問う。
「どんな小さいことでも良い。人口、村の場所、生活様式、何でも良い。知ってることは全て吐け」
圧をかけるように一歩だけ歩み寄る。
木を背にした少女は後ろに下がることはできず、やや身を固めるようにして、にらみ返す。
しばらくの沈黙の後、少女は大声で返答する。
「残念だったね。この国は国民であるボクたちですら、実態がわからないようになってるんだよ。」
指揮官は小さいため息をつく。
「知ってるさ。だからこそ聞いてるんだがなぁ」