侵攻開始!
雨期に入る前、五月の一日、カラカラと鳴子という敵の侵入を知らせる罠がなったのはちょうど朝日が真上にさしかかる頃であった。
敵が来るとしたら、昼だと思っていたため、朝方の罠は魔獣や動物による誤報かと思われたが、数十分後の斥候の知らせで、敵国の侵入を確信したのだった。
日の出とともに森に侵入し、昼過ぎに本格的に罠のある地点へと到達するかと思っていたのだ。
夜のうちにキャンプを張り、朝駆けをしようとしたわけではないと思うので、夜通しの行軍だったのだろう。
さすがに、キャンプを張れば、夜中の少数での斥候であっても気付くのだから。
結論から言うと、ありとあらゆる罠にかかりまくっており、すでに潰走状態との知らせが二時間後に入ったのだった。
こちらは誰一人として迎撃することなく、罠のみで初波を凌いだことになる。
罠にかかった兵士からの情報と、仕掛けた罠の状態から、五人一組で動き、合計二十組で合計百人が森に侵入し、想定された東の平野を目指したとのこと。
およそ八割が罠にかかった状態、あるいは死体で発見され、残りは魔獣や動物にやられたか、逃げ帰ったと思われた。
確かに侵略はあったが、戦闘状態にはならなかったため、話し合いの結果、琴葉達はもうしばらく滞在することとなった。
あっけなく、初戦を勝利で飾ったわけだが、実際に相手から得られた情報も無い。
相手も、罠の位置や数、種類の情報だけを持ち帰ったに過ぎない。
兵約百名を犠牲にしたのが果たして釣り合いが取れるのかどうかはわからないが。
一週間がたち、死体の処理と物品の回収、罠の再構築に奔走したが、ようやく落ち着いてくると、予想よりも早く第2波がやってきた。
結果としては同じように見えた。
ただ、今回は五人組なのは同じだったが、倍の四十組も侵入し、広範囲であった。
一定間隔で横に並び距離を取って森に侵入したのではないかと思われた。
結果として、平野部のただ一点を目指していたものの、危うく罠のない領域にまで兵が到達するところだったとのことだ。
何とか、その領域には行かなかったのが本当に運が良く、結果として敵国はどこに至っても罠が仕掛けあり、安全なルートがないと誤認してくれたようだった。
そして、罠の仕込みが巧妙だったのだろう。
若干罠の量が平野部に近いところで多くなるように設置されていたため、これによって平野部を守るようにしていると思ってくれたようである。
重要な場所を守るように、そこを中心に罠を仕掛けるのは重要だが、あまりに密集させると逆に罠を疑う。
誘導するにおいて、そこらへんのサジ加減が難しいのだが、今回は上手くいったようだ。
設置した罠に引っかかる人数もやや減少しており、解除された罠もそれなりに発見された。
族長からは詳細な情報と方針が伝えられたが、これはいざというときにフラハーに状況を伝える役目がもう始まっているということだろう。
「これからは、最前線の集落は念のため前回以上に広範囲に罠を設置すること。今まで同様に罠を張りまくるということ。そして、次の侵攻でさらに人数が増えるようであれば、上からの迎撃を加えるとのことだったよ。」
のぞみが族長の小屋から戻ってきて情報を琴葉隊で共有する。
「逆に言うと、もう罠だけでは対応できない人数ってわけだな」
朝美が呟くと、のぞみは黙って頷く。
「あと、これが重要なんだけど。もし、侵攻前夜に森でキャンプを張るような者が現れた場合、ゲリラ的に夜襲を仕掛けるかもってことだよ」
のぞみは小声で皆に伝えると、アス老人は少し驚いた表情をする。
「ほほぅ。夜襲の作戦までわしらに伝えてくれるとは信頼されたものじゃなぁ」
「そうだね。ボクも驚いて、聞き返しちゃった」
といって、頬をポリポリと搔く。
「敵は情報を持ち帰ることを前提としているからか、夜中に森に入って、朝に到達。最悪、帰路は日があるうちにっていうことだろ? だから、朝方には肉体的も精神的にもヘトヘトになって罠にもかかる、と。注意力も散漫になってるからな」
朝美は自分の分析が正しいかを自問するように呟く。
「そうだね。だから、罠が張られていないギリギリのところでキャンプを張って、ある程度回復させてから侵入されるのを嫌っての夜襲だろうね」
のぞみが同意し、アスも賛同する。
「おそろくはそういう意図じゃろな」
テラガルドが疑問を口にする。
「全ての敵のキャンプを襲撃するつもりでしょうか」
のぞみとアス老人、朝美はしばらく黙り、のぞみが自信なさげに回答する。
「さすがにそれはないかなぁ。全部は無理だと思うし、犠牲はこちらもでちゃうよね。上からの迎撃の方が絶対に被害は少ないはずだから、そっちに回した方が被害は最小限だと思うんだよね」
「いくつか、あきらかに油断している部隊だけを偶然を装って襲撃して、わざと逃がすってやり方が利口かも知れないな」
朝美が思いつきで言うが、的を得ていた。
アス老人は、
「全部を叩こうとすると、こちらの戦力も知られてしまうしの。戦力の質、量ともにじゃが」
「なるほど。勉強になります」
テラガルドは、そういって頭を下げるあたり、こちらが頭を下げたくなる謙虚な姿勢で礼を述べる。
琴葉は話が難しいのもあり、一人テーブルに突っ伏して寝ている。
「まぁ。あたし達がそれをやっても良いが、声はかけられないだろうなぁ。ゆっくりとお手並み拝見としようぜ」
朝美はそう言って、席を立ち、小屋の隅のベッドに横になる。




