セーラーウィッチ
琴葉が、仲良くなったホルツホック国の子供達数人と木上で何やら話し合っており、朝美はその真剣な表情に引かれ、近づいていく。
一見、近くの木であっても、ロープや架け橋の位置によって、遠回りしなければいけないのがまだ馴れない。
「おぅ。琴葉、何やってんだ?」
片手をあげて、琴葉に向かって話しかける。
「あ、朝美ちゃん、良いところに!朝美ちゃんも一緒に、セーラーウィッチごっこしよ!」
琴葉がにこやかに提案してくるが、あきれ顔で答える。
「やらねぇよ。まったく。お前、いくつだよ。それに今は戦争前だぞ」
「え~・・・・・・。初等部のときは一緒によくセーラーウィッチごっこして遊んだじゃん。」
口をとがらせてすねるが、
「あほか!確かに遊んだけど、まだ小さいときのことじゃねぇか。全く恥ずかしい過去を思い出させるなよ」
と、子供のことの遊びをおおっぴらに話されて、少し恥ずかしい朝美だったが、
「あのときは、三人とも大きくなったらセーラーウィッチになろうって夢を語り合っていたのに・・・・・・もう朝美ちゃんは夢を諦めちゃったの?」
と琴葉は真顔で返すのであった。
顔を真っ赤にして、そんなことを言っていた幼少期を恥じる朝美であったが、
「諦めたって言うよりも、大人になって普通変わるだろうが!」
と真面目に返答している段階で、もう負けみたいなものである。
「そうやって、自分の気持ちにウソをついて、汚い大人になっていくんだね」
などと琴葉がオーバーに悲しがってみせるが、朝美はアホらしいと去ろうとする。
踵を返すと、琴葉の声が聞こえた。
「ゴメンね。朝美ちゃんは忙しくて、一緒に遊んでられないみたいだから、おねえちゃんと遊ぼう! 戦争が始まると、しばらくは遊べないからねっ」
少し申し訳なさそうな声が、朝美を冷静にさせる。
(そうか。あたしたちがニーベンストランドで無邪気に遊んでいた頃は、ちょうどあれぐらいの年齢だったな。あたしたちは最大の都市で育ってるから、平和そのもので、遊びほうけてたけど。あの子達は違うんだよな。物心ついたときから、戦争と隣り合わせで・・・・・・。明日生きてる保障はねぇ。)
横目でチラッとだけ振り返って子供達のうれしさと残念さが入り交じった表情を見る。
「あ、やっぱり、仕事は後でいいや。あたしも混ぜてくれよ」
といって、はにかみながら琴葉たちのもとへと木を飛び移って行くのだった。
ぶっきらぼうで、男勝りな朝美であったが、もとより子供は嫌いではない。
ちょっと怖がられ、苦手なのは確かだが、根本的には面倒見の良いお姉さんなのだ。
琴葉は満面の笑みを浮かべて、
「え、ほんと! 仕方ないなぁ。でも、セーラーフラムはわたしだからね!」
と言って、抱きついてくる。
(おいおい、子供達に選ばせてやれよ!)
と心の中でつっこむと、琴葉に少しだけ感謝するのであった。
その日は夕方日が暮れるまで木上で追いかけっこしながら子供達と遊んだのだが、地上との勝手の違いに四苦八苦しながら、疲れ知らずの子供の相手は心地よい疲労感を与えるには十分であった。
のぞみほどではないが、運動が苦手で、体力も無い琴葉が、器用に木上を飛び回っており、日中の子供達との遊びがそうさせていることに朝美は気付いたのはしばらくしてだった。
(こりゃあ、言い訓練になるな。それに子供達の運動能力から、戦闘力の解析にもなるし。動き方を学ぶには言い手本だ。)
夕方、たくさん遊んで、子供達と族長の木の前で別れを告げる。
「じゃあ、またね~」
「また、遊んであげるよ、赤い髪のおねえちゃん」
口々にお礼と憎まれ口を言って、手を振って散り散りに各々の小屋へと帰っていく。
子供達の中で、一番年長と思われる子供が、朝美に向かって、何か言いたげにモジモジしている。
朝美はにこやかに、子供の頭に手を置き、
「ん。どうした?」
と尋ねる。
「セーラーウィッチごっこは、もう私の年ではやらないから、ちょっと恥ずかしかったけど。やってみると楽しかった。馬鹿にしてゴメンナサイ」
そういって、ぺこりと頭を下げた。
「ははは。なんだ、そんなことか。気にするなよ」
そういって朝美も笑う。
(よかった。てっきり、帰る家がないとか、ダークな展開かと思ったぜ)
色々と想像したのであろうが、安心して微笑む。
「うん。ありがとっ。赤い髪のお姉ちゃんがセーラーウィッチごっこして遊びたいから子供達を集めておけって琴葉ちゃんが言ったときは、皆でお姉さんのこと馬鹿にしてたの。だから一言謝りたくて・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・(琴葉のやつ、ぶっ殺す)」
周囲を見渡すが、琴葉はもういない。
知らないうちにセーラーウィッチごっこの発案者にされた朝美であったが、今回は言い訓練とリフレッシュになったのだろう。
小屋に戻るうちに怒りを静めたのだった。
ちなみに、セーラーウィッチはセーラ服をまとった美少女五人組が、魔法を駆使しながら魔族と戦う少女向けの小説、およびそれをもとにした漫画であり、数十年前からあり、数年毎にリメイクされている。
そのため、全世代に通じる作品である。
セーラーウィッチは風火地水それぞれに対応しており、魔法は使えるが、リーダの少女は魔法が使えないため、使えない者もファンに取り込むことを可能にしているだけでなく、差別の撤廃にもつながっている。




