全滅の可能性
「で、ジジイとテラガルドのおっさんが外されるように本部に進言されるのはわかったけど、なんでオバサンが隊の再編と関係してくるんだ?」
朝美は、イマイチ話のつながりがわからずに尋ねる。
「マータ先生が気に食わないものを外していくと、わしと眼鏡の嬢ちゃんしか残らん。じゃが、わしは本件で終了。嬢ちゃんは立ち位置的にアッサーラ君と被るからのぅ。結果として、どっか別の任務に回されることになるじゃろう。つまり、琴葉隊はこのオージュス連合国からの侵攻への対応から外れる可能性が高い」
朝美も、そこまではわかると、頷く。
「で、琴葉隊が先の二回にわたる侵攻を歴史的大勝を持って撃退したことに良く思わないマータ先生としては、次の侵攻の際に自ら責任者となることで、より大きな功績を残し、見返したいという思惑があるようじゃ・・・・・・」
一同は沈黙する。
「んな、馬鹿な・・・・・・」
朝美は頭を振った後に、カリカリと頭を搔く。
「そんな子供みたいなことで、フラハー国の命運があの人に委ねられるんですか?」
テラガルドも疑問を口にするが、琴葉は目を細め、呟く。
「あのオバサンならやりそう・・・・・・」
皆ため息をつく。
あまりにも理由が私的な感情によるもので、幼稚すぎる。
「なんか、コンプレックス持ってるヤツってめんどくせぇんだよなぁ・・・・・・」
朝美はなおも頭を搔く。
「朝美ちゃんはもっと、コンプレックス持った方が良いよ、勉強とか・・・・・・」
琴葉は余計なことを言って、朝美にゲンコツをもらう。
のぞみは苦笑いをする。
「えっと。実際のところ、ボクは大問題だと思います。理由は、次は本当に大規模な侵攻が予想されるから。前回の侵攻のときにすでにそれを予測していて、だからこそ避難訓練までやったわけだよね。多分、勝利は厳しい。元々三千の戦力だから、五千以上で攻め込まれたら厳しいという見解だったからこその、撤退前提・・・・・・」
皆がマジメな顔つきになる。
マータの言動には呆れるが、実際にところ本当に大問題なのだ。
「知ってると思うけど、もっとも戦争で被害が出るのは撤退戦。撤退路の確保や、タイミング、やり方をしくじると、今までのプルミエ国みたいになるのはこっちだよ?」
一同は重要性を改めて認識する。
前回、前々回とプルミエ国を壊滅させ、ほぼ殲滅させることができたわけだが、次は逆のこともあり得るわけだ。
次こそは本当に大規模な侵攻だろう。そうなると、相手の戦力を少しでも削ぐことは重要だが、それ以上に撤退の判断を誤らないことが重要となる。
何だったら、最初から戦わずに撤退するというのも手であろう。
最も防御能力が高いフェルゼン王国、ボクスネー峠での迎撃が効率的だからだ。
被害を出さないというのは大事なのだ。
マータが責任者となった場合、戦わずに撤退というのは選択しないだろうし、一定以上の戦果を求めようとがんばってしまう可能性が高い。
であれば、撤退のタイミングを逃し、全滅ということは大いにありうるだろう。
今のままの体制の方が良いのは火を見るよりも明らかだ。




