防衛作戦会議-後編
口火を切ったのは、意外にも琴葉であった。
「ねぇ、ねぇ。この周辺で最後に大きな戦争があったのっていつ?」
のぞみは、「こ、琴葉ちゃん、起きてたの?」と失礼なことを口に出してしまい、琴葉は口をとがらせる。
「小競り合いは常時行なわれているけど、数百人以上、ざっくりと千人以上のきちんとした編隊が組まれた戦争は七~八年くらい前で、その時は森でのゲリラ迎撃で対応したみたいだよ。ボクらが考えたような平野での戦闘は過去にもあったけど、十年以上前みたい」
のぞみは知ってる範囲の知識を披露する。
琴葉は右手の人差し指を下唇の下につけて、しばらく真面目に思案する。
少女の真面目に考えるときのいつものポーズである。
しばし、うーんと唸っていたが、
「迎撃は森で何度かやって、こちらも戦闘経験を積みたいよね。それに、相手の軍の編成や学習能力も知りたいし。何よりも、過去に大規模戦闘を経験したことのある歴戦の老将軍みたいのが出てきたら、こちらの方が弱いんじゃないかなぁ」
などと、至極真っ当なことを言ってのけた。
いつもなら確実に茶化す朝美だが、真顔で続く。
「確かに。小競り合いならいつもやってるし、魔獣との戦いは日常生活の中でやってるが、軍での戦闘はまるで違う。情報や地理でこっちが優位に立っていると思い込んでいたが、歴戦の将軍みたいのがいると、それは話が変わってくるな。あたしたちも、数千人規模の戦闘は経験したことないしな。士官学校で模擬戦はやったけど」
こういうときに滅多に口出しをしない、テラガルドも続く。
「こちらに戦史の書物があって、のぞみさんが知っているように、敵国側にも過去の歴史の中で蓄積された知識があるでしょうからね。過去に、どう攻めて、どう撃退されたのか、あるいは、成功したのかの方法が残されているかも知れませんね」
カンナグァ連邦も少なくとも西側からの侵攻でニーベンストランドにまで到達されたことはなく、その明確な存在すら知られていない。
東の海からの侵攻や北からの異民族はあったようだが、この数十年はないはずだ。
しかし、カンナグァ連邦も中央から東部に入る山間部あたりまで侵略されたことはあったらしい。
つまりは、意図的に引入れたということがない限り、攻略要素があったということだ。
「知らない以上は想像を張り巡らせるしかないよね・・・・・・。相手側にとっての攻略要素は常に考え続けるにしても、戦闘経験や今の情報収集、特に敵将の情報については対応しないといけないよね」
のぞみは意見をまとめると、静かに目を閉じた。
最初から答えを知っていたかのように、アス老人は口を開く。
「ほっほっほ・・・・・・まさか、琴葉嬢ちゃんがそこに着眼できるとはおもわなんだが、なかなか有意義な会議じゃったな」
にこやかに笑うと、話を続けた。
「結論から言うと、少なくともプルミエ国のみでいうと、歴戦の老将なんてものはおそらくおらん。そこは心配せんでもええじゃろう。ただ、当時兵卒だった者が今どういう地位にいるかまではわからんがのぅ。」
のぞみは疑問を素直にぶつける。
「アスさんは何かご存じなのですか?」
「まぁ、前回の戦争のときに参加してるからの。今回と同じく非戦闘員としてじゃが。その時は森での防衛に徹したのじゃが、作戦内容は、たった一つだったのじゃ」
そこまでいうと、琴葉は、
「ま、まさか・・・・・・」
と言って黙りこくる。
先ほどの的を射た問題提起があって、一瞬騙されそうになったが、実は何も思い付いていないことに気付いた朝美は、
「琴葉、ぜってぇわかってないだろ、お前」
とあきれ顔でつっこむ。
てへへ、と言ってる時点で図星だったことが明白だったが、緊張感をほぐすには十分だった。
改めて、のぞみが口を挟む。
「徹底した指揮官潰し、ですか?」
アスは、無言で頷く。
「たまたま、強力な魔族と、魔獣の集団の襲来があっての。フラハー国の後詰めが期待できなくなっていたのじゃ。戦力的に圧倒的に不足していたので、雑兵は完全に無視して、指揮官だけを狙い撃つ戦いをしたのじゃ。上からの狙撃でな。だから、それなりの指揮官はみなその時に失っておるはずじゃ。早期に国に引きこもった臆病者は除いてな」
そういって、忘れておったわいと笑っていた。
「逆を言うと、指揮官を狙った狙撃作戦は相手も知ってるってことだな」
朝美は言うと、わかっているのかどうか不明だが、琴葉もそれっぽく頷く。
「では、決まりだね。ボクらは相手の規模に応じて都度迎撃を行い、何回か戦闘経験を積むと同時に、相手の情報を収集する。もちろん、こちらの情報はなるべく与えないように注意しよう。ある程度規模が大きくなった時点で、平野部の存在を相手に見せる。そこで、相手が大規模な軍編成をしたところで、平野部で迎え撃つ。フラハー国には協力を仰ぐ時間は十分にあるはず。協力が得られない場合は、森での迎撃に徹しよう。二番煎じだけど、大将のみを狙撃するってのをもう一度やってみても損はないと思うし」
皆が頷き、同意が得られると、その日はお開きとなった。




