ガラス越しの恋人
そこには、キミがいる。
でも、逢うことは出来ない。
厳しい家庭で、キミは大切に育てられているから。
キミは外に出ても、徹底的に監視される。
キミと再び逢った暁には、ボクが排除の対象となるだろう。
電話にだって、メールにだって、監視の目は行き届いている。
今、キミがもたれている、そのガラスは防音らしく、いくら叫んでもキミには届かない。
ボクから見たら、半透明のガラスなのに、キミからは、こちらが見えないみたいだ。
こちら側から、キミが見られるのが、唯一の救いだ。
キミがガラスに最大限、近付かなければ見えない。
しっかり鮮明には見えず、ずっとボヤけている。
でも、キミが動きを見せてくれるだけで、すごく嬉しい。
半年前、目を盗んでキミと逢ったが、すぐに見つかり、キミは連れていかれた。
キミは監視員に引き戻されているとき、ボクに向かってこう言ってくれた。
「こいびと」
それが最後の、視線と視線がぶつかった瞬間だった。