第24話 始まりの終わり
「──ぐはっ!!?」
令嬢にあるまじき豪快な雄叫びと共に目を覚ましたら、普通にベッドに寝かされていて驚いた。
あれ、私、『土塊と岩窟亭』でサリュミエルの占星術を受けていたはずなのに。
「ここは……?」
あの不思議な世界から落っこちたのに、私は自室のベッドで眠っていて、窓から見える空は既に薄く藍色を帯びている。
一体何がどうなってこうなっているのか。むしろ今までの全部夢オチとか?アルキバの館に行ったのも、魔導装飾も、亜人街でノームやドヴェルグといった妖精に会ったことも、エルフの占星師とやらに運命を見てもらったことも──
「黒魔女とか呪いとか別の前世とか、今さらそんな──」
「……ヴァイオレット、大丈夫?」
まさかそんなわけもなかった。
眠っていた私の側にずっとついていたらしく、心配そうな顔をするトーマが、熱はないかと私の額に手を当ててくる。
くわえさせられた体温計の無機質な味にじわじわと現実を感じながら、私はふてくされた表情になった。そうね、夢オチは流石にないって私もわかってたわよ。
「熱はないわ。それより……」
ぷっと体温計を吐き出して今の状況を訊ねると、トーマは、アルキバが私をここまで連れてきてくれたこと、ソフィアには私は魔法の練習をしに町外れの草原に出向いていて、魔力を使いすぎて昏倒してしまった、と誤魔化していることを教えてくれた。
実際、こんな時間まで私が眠っていたのは魔力の使いすぎだととっくに帰ったアルキバが言っていたらしいが、エルフの占星術とは読まれる方も魔力を消費するものだったのだろうか?最初に言っといてほしいわそういうのは。
「何はともあれ助かったわ、ありがとう。無許可で亜人街に行くなんて、ソフィアにバレたら事だもの」
「……ソフィアにバレなきゃいいってわけじゃない」
私の発言を聞いて、心配そうにしていたトーマの表情が一気に険しくなる。
……あっ、そういえば怒らせてたんだった。
そこからはもうこんこんとお説教タイムである。
一生ぶんの「はい」「ごめんなさい」「もうしません」を言ったわよホントに。ソフィアみたいに「貴族の自覚が~」とか言ってこないだけマシだけど、口振りといい威圧感と言い、あんなに可愛かったトーマが年々ソフィアに似てきているのが恐ろしい。このままお説教スキルが上がったら二人目のソフィアが出来上がっちゃうわ。
泣きが入ってきた辺りで私が起きたことに気づいたアーサーがやって来て、「そのくらいで勘弁してあげたら?」と嗜めてくれなければどうなっていたことか。
「ヴァイオレットも反省してるよ。ね」
「う、うん。ごめんね、二人とも……」
「……アーサーは甘すぎる」
「そうかなー」
ヘラヘラと笑ってみせるアーサー。
眉をひそめるトーマと受け流すアーサーは、私がいない間に随分とその距離を縮めたようである。昨日と比べてタメ口で会話するのが随分と自然になったもの。何だろう、二人で私を捜してる内に交流が深まったのかしら。
ゲームで見たような二人の掛け合いが見られるのは、元プレイヤーとしては何だか嬉しい。会話の内容が子育ての方針について言い争う父母みたいになってるのはちょっと納得行かないけど。寛大で放任主義なお父さんと心配性で口うるさいお母さんって感じ。……あれっその場合私二人の子供?悪役令嬢なのに?
寛大な父ことアーサーが、私の顔を見てニッコリ笑う。
「大丈夫?」と優しく訊ねられて頷いた。アーサーのこういうところ、年の離れた妹がいるお兄ちゃんって感じするわ。
「起き上がれるようなら、晩御飯食べに行こう。ソフィアさんが心配してたよ」
「あ……うん、ありがとう、アーサー」
……ひとまず、亜人街でのことは情報量が過多すぎて、今は一度考えを整理する時間が必要だ。諸々考えるのは別に後でも構わないんだし。
そう思ってベッドから出ようとした時、チャリ、と首もとで微かに金属の擦れる音が擦れた。
ハッとして胸元に手を当てる。
「ヴァイオレット?」
トーマとアーサーが、動きを止めた私を見た。
これって、まさか。
心臓が高鳴るのと同時に、細い鎖の先で、私を選んでくれた黒瑪瑙がじんわりと温度を持ったような気がした。
眠っていて、お礼も言えなかったけれど──ラーズスヴィズは、仕事を果たしてくれたのだ。それもペンダントという、私がお願いした通り、服の下に隠せるような形で。これなら身に着けていても、闇の魔導装飾を持っていることを周囲に気付かれずに済む。
「……ううん、何でもないわ」
ちゃんとお礼を言いに行きたいけれど、人間嫌いのあのドヴェルグはそれをあまり喜ばないかもしれない。
私はちょっと微笑むと、これから一生を共にする石の温もりを感じながら、二人の後に続いた。
▽▽▽
アーサーが王都に帰る日は、思ったよりすぐにやって来た。
「少しは楽しめた?」
「うん、とても。お料理とても美味しかったです、ソフィアさん」
「いっ、いいいいえ、そんな、王子殿下に褒めて頂くような腕前では……!」
アーサーに微笑まれたソフィアが恐縮の悲鳴をあげる。
褒められてるんだから素直に受け取ったらいいのに。
数日間だけの滞在だったけれど、彼がここでの生活を楽しかったと言ってくれたことは普通に嬉しい。
あれだけ死亡フラグだ何だと言いつつ、顔を見て言葉を交わして、親しくなってしまうとやっぱりお別れを少し寂しく感じてしまう辺り、私は絆されやすい人間なのかもしれなかった。
トーマの件で気が咎めたとはいえ、未来のことを考えずに友人宣言なんてしてしまったし。婚約者と友人ってどっちが親密度高いのかしら……。
馬車に乗るアーサーと、見送る私。
三年前とは逆だ。私がお別れの挨拶をしようと馬車へ近づくと、窓から顔を出したアーサーはちょっぴり寂しそうな顔で笑う。
「……実は、これから魔法の訓練や王族としての勉強が本格的になっていく予定なんだ。だから次に君と会えるのは、たぶん、マギカメイアに入学する時になると思う」
「そうなの?」
「うん、ちょっと寂しいけど」
それで急遽会いに来てみたんだ、と子供らしい顔をするアーサーを見ると、何とも言えない気持ちになってしまった。
突然やって来たのはそういう理由があったのか。私の顔なんか見たって仕方ないだろうに、幼いながら婚約者を大切にするいい男である。流石天然ならぬ計算タラシ。
アーサーが忙しくなるなら、私の方から王都に出向けば解決する問題のような気もするけど、しかしここで気軽に「行く」と言うわけにもいかない。
別に死亡フラグだから会いたくないとかそういうわけではなく、私は基本、誕生日とかそういう特別な日でもなければ、お父様に呼ばれない限り王都を訪れてはいけないことになっているのだ。明確にそう命令されたわけではないが、何せ私は産まれたときから、クインズヴェリ家でただ一人、田舎の別邸で育てられた娘なのである。隠しておきたい恥部ですみません。
「いいよ、無理しなくて」
考え込んでしまった私の顔を見て、アーサーがあはは、と朗らかに笑った。
「親善大使として外国に行かされることも多いみたいだから、来てもらっても会えるかわからないし。手紙はきちんと書くから、今まで通り返事をくれれば十分だよ」
「外国……」
「楽しそうじゃない?エルフの国やマーメイドの国なんて」
…………そりゃ、私的にはめちゃくちゃ楽しそうというのが本音だけれど。むしろ私が行ってみたいけどそんなの。
人当たりがよく、半獣人のような亜人にも偏見を持たないアーサーは適任だと思う一方で、まだ十歳の子供が一人、親善大使としての責務を負い、自分の他に人間すらいない国に行かされるなんて、恐ろしく大変なことだと思う。アーサーがいかに優秀でも、不安を覚えないはずはない。
「……寂しいのではない?」
訊ねると、アーサーはほんの僅かに目を見張って──
そしてやっぱり、いつも通り穏やかな、けれど偽物ではない微笑みを口に浮かべた。
「君の手紙があれば大丈夫」
囁くようにそう言って、翠の瞳が優しく細められる。
「…………そんなに面白いことが書けている自信はないのだけれど……」
「いや、中々に面白いよ」
何故か即答された。
そんな抱腹絶倒な内容になってたかしら。前回送った手紙の内容は確か、庭のマンドラゴラが数匹脱走したから、トーマと一緒にありとあらゆる手を使った捕獲作戦を決行したことくらいしか書いてなかったと思うけど。
それから、魔法の鍛錬についても、語らなければならない変化がある。
ローウェン先生との氷魔法のレッスンとは別に、ラーズスヴィズの魔導装飾を使って、私は本格的にアルキバに闇の魔術の指導を受けることになった。
指導と言っても、ひたすらアルキバに対して眠りの魔法をかけ続けるというだけのものだけれど。しかもアルキバは自分の魔力を使って抵抗するから、ちっとも眠らせることが出来ない。魔法関係ないところじゃ相変わらずぐーすか眠ってるくせに。
不思議なことには、トーマも随分と『転身』の練習に身が入っているということ。
以前もちょくちょくテオドラに練習に付き合ってもらったりしてたみたいだけれど、ここ最近は髄分熱心になって、今では難なく狼の姿と獣人の姿を切り替えられるみたい。別にいいけど、何かきっかけがあったのかと聞いてみても何故か濁されるのがよくわからなかった。
「アルキバ、トーマに何か言った?」
「次までに……これも、読んでおけ……」
「アルキバ」
相変わらずアルキバの耳は都合の悪いことは聞こえないようになってるし。
あと毎回課題と言わんばかりにありとあらゆる書物を読ませてくるの結構ヘビーよ。面白いからいいけど。
――そんな風にして、歳月は穏やかに過ぎる。
安全地帯であるアルタベリーの、私が生まれ育った屋敷にいられる時間のタイムリミットが、刻一刻と迫ってくる。
今はエルフの国にいるというアーサーから手紙を貰い、その返事を書いて。
背がどんどん伸びて、すっかり美人に成長したトーマが町の女の子に告白されたり、それを聞いたソフィアが母親のように喜んだり、トーマとは兄妹のような悪友のような、不思議な関係のテオドラが拗ねてしまったり。
他の人と比べればまだまだだけれど、アルキバの指導のおかげもあってか、ローウェン先生に氷魔法を褒めてもらえるようになったり。
時間の軸はゲーム本編開始時へと、着々と近づいていく。
「……イザベル」
私──ヴァイオレットの前の人だっていう黒魔女。
アルキバやテオドラと出会ってから何度目かの雪の日、吸血鬼の館の暖炉の前で、私はふとその名前を口にした。
どんなに書物を調べても、歴史に消された黒魔女である彼女の情報は見当たらなかった。
ただ、聖女アルストロメリアに浄化された“邪悪”の一部として、名前だけが小さく載っていた本はあったけれど、そのくらいのものだ。人類史は脆弱で役に立たない、といつかサリュミエルは言っていた。それはつまり、こうして人の都合で消されたりするものがあるからなのかもしれない。
だから、隣の肘掛け椅子で船を漕いでいる吸血鬼の彼なら──アルキバなら、もしかしたら彼女について何か知っているんじゃないかと期待したのだ。
「ねえ、イザベルって人のこと、知ってる?」
「……唐突だな」
「ラーズスヴィズの知り合いの黒魔女なのよね」
私は服の下に隠した魔導装飾の鎖を引っ張り出した。
繊細な装飾の施された、銀の土台に埋め込まれた黒い石。必要経費は払うと言ったのだが、結局、アルキバに贈られる形になってしまった私だけの相棒だ。
これを作ったドヴェルグに話が聞ければ早い気もするが、一人であの亜人街に行くのは現実的に難しい。アルキバにこっそりお願いするにしても、トーマにバレると後が怖い。
膝を抱えた私が向き直ると、アルキバは頬杖をつきながら黒曜石の瞳で私を見下ろした。
出会って数年が経っても、こうやって足元に座ってこの人を見上げ、この人に見下ろされるのは変わらない。
「大したことは……知らん。お前のように……強い、闇の魔力を……持っていた魔女だ」
「どうして死んだの?」
「…………さぁな。人間同士の……いさかいに、巻き込まれた……のか……」
あの時、サリュミエルは確か、“前世であるイザベルの行い故に”ヴァイオレットも死神に狙われているのだと言っていた。
アルキバは詳しくは知らないようだが、やはり人を呪い殺すような邪悪な魔女だったのだろうか。聖女に浄化されるって、魔物と同じ扱いを受けているくらいだからそうかもしれない。
運命を予言されて以来、自分なりに“私”について、いろいろ考えてみた。
結局私の存在というのは、イザベルという黒魔女の魂を持つ悪役令嬢、ヴァイオレット・クインズヴェリに、“私”という現代日本人の記憶を持った自我が宿っている──と考えるのが妥当な気がする。
正解が何なのかなんてわからないが、少なくともこの世界では、魂と呼ばれるものは、自我や人格とはあまり関係ないのだろう。
しかし、生まれ変わる前もヒロインの敵役なんてそんな因果のあるキャラクターなら、ゲームでセコい嫌がらせするばかりじゃなくて、もうちょっと大事な役をくれてもよかったのに。
──“本当に?”
あの声の主についても、結局、正体が何なのかはわからなかったし。
(……何だか頭が煮詰まりそうだわ)
けど、わからないことが多いのは前から同じだ。
ヴァイオレットというキャラクターの前世が聖女と張り合った悪党だろうが何だろうが、今生の私がやることは変わらない。
今世ではヒロインと張り合わず、死亡フラグと関わり合いにならず、無事学校を卒業し、婚約を破棄してもらって。
やがてはこのアルタベリーに帰ってきて、不眠症に効く魔法具でも売って細々と暮らす。ささやかと言うには贅沢すぎる、それが私の望みなのだから。
「……私、上手くやれるかしら」
マギカメイア入学準備の手紙はもう既に届いている。
降りしきる雪が解け、若葉が芽吹けば、もうこの安全地帯に引きこもってはいられない。
トーマやアーサーのことは信頼しているが、それでも、学園に赴いたが最後、死の危険はそこら中に転がっているのだと思うと、やはり気が塞ぐ。
上手くやれなければ──
「何弱気なこと言ってんのよ!!」
バターン、と騒がしく扉を開けて部屋に入ってきたのはテオドラだ。彼女の容姿は出会った頃とちっとも変わっていないから、十三の頃にはその背丈を追い越してしまった。
彼女の後ろには、お盆に湯気の立つマグカップを乗せたトーマの姿もある。
「らしくないわね、家を出て遠くの学校に行くから不安になってるの?」
「そー…あー、うん、そうかも」
「ヴァイオレット、温かいココアを持ってきた」
テオドラがずかずかと部屋に入ってきて、火かき棒を使って暖炉の火を調節する。
ひざまずき、私にマグカップを握らせたトーマが私に目線を合わせて言った。
「ヴァイオレットは僕が守るから、大丈夫」
今や私より頭ひとつ大きくなった彼。
銀色の髪も赤い瞳も、黒い犬耳と尻尾も、もうすっかりゲームで見たままの姿だ。数多のプレイヤーを射止めた甘いマスクに無事育ってもらって、私としては嬉しいような複雑なような。
マギカメイアに入学する貴族は従者を一人伴ってよいことになっているから、私は彼を連れていくことになるんだろう。ルート排除のために置いてくことも考えなかった訳じゃないが、作法も完璧、従者として申し分のない成長を果たした彼を、傷つけずに此処に置いていける理由が私には思いつかない。
「コウモリ娘の言うことは気にしなくていい」
「ありがとう、トーマ」
「何よ別に、私だって、困ったことがあったらいつだって呼んでいいんだから!」
「呼びはしないけど、ありがとうテオドラ」
手練れの魔導師ばかりだろう学舎にどうやって来るつもりなのか。
しかし、意地っ張りな彼女が、私達がいなくなることをとても寂しがっているのは知っている。だからマンドラゴラの世話を頼む名目でちょくちょく屋敷に来てもらって、ソフィアとお茶をする時間をとってもらえればと思っていた。ソフィアもきっと寂しくなるだろうから、ちょうどいい。
私の嗜めるような笑顔が癪に障ったのか、テオドラが唇を尖らせた。
「私じゃ頼りにならないっての?……手に負えないようなら、アルキバ様にお願いするから」
「学校中大パニックになるわよ」
吸血鬼なんて呼んだ日には。
モンスターペアレントっていうか、ガチでモンスターじゃんそんなの。どう考えても退学待ったなしなんですけど。というか、テオドラならともかく、私が困ったからってアルキバがわざわざ顔出そうとするかしら。
どんなリアクションをしていることやらと見上げたアルキバは、何でもないような顔をして暖炉の火を見つめていた。やがてのんびりとその口が開く。
「…………構わない。マギカメイアの……教師連中には、顔が利く。不当な扱いを受けた時……は、文を寄越すといい」
と思ったら衝撃的なことを言うし。
王立の魔法学校に顔が利く吸血鬼なんて居ていいはずがないでしょ。言っちゃ何だが、この国では吸血鬼とバレただけでまともな生活は出来ないし、下手すれば即刻駆除対象になりかねないのに。
「いい加減貴方って一体何者なの?」
「アルキバ様は世界一偉大な闇の魔法使いよ」
眉をひそめる私に、何故かテオドラが誇らしげに答える。
訊きたいのはそういうことじゃないんだけど。『吸血鬼名鑑』とか『歴史上最も恐ろしい魔法犯罪』とか、いろいろ調べてみたけど、どの書物にも彼の名前は載っていなかった。
「今は…………弟子を持つ、師だ」
ぽん、と火に当たって尚冷えきった手を何気なく頭の上に置かれて、驚いて動けなくなる。
アルキバに頭を撫でられるなんてことは初めてだった。というか、今生では人に頭を撫でられること自体初めてだったかもしれない。母は私が産まれてすぐに死んだし、父は私を嫌ってるし、ソフィアは使用人だし。
「……お前には才能がある。よく……学んで来るといい」
弟子という認識をしてもらえていたのか。
アルキバは嘘を言わない。頭を撫でられたのが嬉しかったのか、飾り気のない言葉が誇らしかったのか。もしかしたらそのどちらもかも。
じんわりと、温かいものが胸に広がっていくような気がした。
「……世界一偉大な闇の魔法使いの弟子だもの。不肖の、がつかないように頑張るわ」
そう言って、隣に居てくれるトーマに少し微笑みかける。
暖炉の火が彼の銀色の髪に反射してチラチラと光っている。私にとって死を導くという凶星の一つである半獣人の少年。
頭では危険があるとわかっていても、家族のようなトーマが一緒に居てくれるのは嬉しい。
これまでの日々は、結局のところ前哨戦に過ぎない。
大人気乙女ゲーム『ユグドラシル・ハーツ』のストーリーは、悪役令嬢としての私の人生は、マギカメイア入学のその日から始まるのだから。
ヒロインを初めとした、どんな脅威がそこに待っているのかわからないけれど。
──何があろうと、生き残ってみせるわ。




