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匙の絆  作者: らむね。
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小学生編①

ここのところ、毎日、雨。

でも、黄色い傘の出番が多くて、それもいいかなと思う。

らむねくんは、ふざけて地面にコンコンやって、もう1本駄目にしちゃったみたい。

通学路は黄色い傘の大移動だ。晴れの日は、すぐに走り出して、6年生の班長さんに怒られてるらむねくんも、それを追いかけていっちゃうゆさくんも、少しだけおとなしい。

そう思っていたけれど、なんだか怪しい雰囲気。

2人して、そっと列を外れて、田んぼの近くに咲いてる紫陽花の方にじわじわと近寄っている。


「ねえ、ちゃんとみんなと歩かないとダメだよ!」って言っても、最近2人ともあまり言うことを聞いてくれない。その代わり、班長さんが「列から出ちゃダメ!」って怒ってくれるからいいんだけど、少し寂しい気分。

紫陽花の葉っぱのところで、「そっち行った!」、「よし、捕まえた!」って騒いでる。何してるんだろうな。

「いちみちゃん、みてみて~」

後ろからくろまるちゃんが、水たまりをぴょんと飛び越えてきた。

水色の長靴が可愛い。

「これ、可愛い?」

くろまるちゃんが指差しているのは、水色でキラキラが入った髪ゴム。

「うん、それも可愛い!」

「も?え、じゃあいちみちゃんのお洋服も可愛い!」

やっと列に戻ってきたゆさくんとらむねくんは、もう傘を畳んでしまっていて、そういえば傘に当たる雨音が小さくなっていることに気づく。

でも、まだ降ってるから、わたしは畳まないの。黄色い傘は、雨の日にしかさせないから。


校門で、先生に「おはようございます!」と挨拶をして、昇降口に向かう。

花壇の紫陽花を見て、そういえばさっき、ゆさくんとらむねくんは何していたのだろう、と思い出す。

「ねえ」と、振り返ろうとした瞬間、らむねくんの「あっ!」という声がした。

くろまるちゃんが、「あ、どうしよう、くっついちゃってる!」と、わたしの黄色い傘の上辺りを見上げている。

「いちみちゃん、そのまま、見ないで」とゆさくん。

「うん、見ちゃダメ。ちょっとだけ傘おろして」とらむねくん。

そんなことを言われたら、気になってしまう。

思わず、おそるおそる上を見ると、黄色い傘の向こう側に黒い影がうつっていた。

「いやっ」と傘を振ったら、アマガエルがぴょんと跳んで、校庭の方へ逃げていった。


その後、ゆさくんとらむねくんに、「嫌い!」って言って昇降口まで走ってきてしまった。

黄色い傘の、あの部分に、まだカエルの跡が残っているような気がして、途端に悲しくなってしまったのだ。

教室では、ゆさくんが何度もチラチラとこちらを不安そうに見てきたり、いつも男子たちとふざけているらむねくんが、真っ直ぐ席についてしょんぼりしていたり、くろまるちゃんが「あとで一緒に洗おう」って言ってくれたりして。

帰りの会が終わった時、雨は朝よりも強く降っていて、傘立てから黄色い傘を取るときも、カエルがついたところをどうしても見てしまった。

くろまるちゃんに背中をつんつんっとされる。

「なんかね、2人が・・・」

「ごめんなさい」

ゆさくんとらむねくんが、揃って下を向いている。

なんだか、まだ怒っているのかどうかもわからなくなってしまった。ツンツンし過ぎだったかな・・・。

傘をさして雨のもとに出ると、ぱらぱらぱらっと黄色い傘が鳴った。

「雨で洗っちゃうから、いいもん!」

そう言った時の、ほっとしたような2人と、にっこり笑ったくろまるちゃんの顔を見て、もう何も気にならなくなった。

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