幼年編②
ステージ袖の鏡に映った黒髪を、手で撫で付ける。
シンデレラの衣装を着て緊張しているいちみちゃんの、後ろから近づいて背中をつんっと突く。「ひゃっ」っと驚いたいちみちゃん、可愛い。
お遊戯会のシンデレラ、主役は満場一致でいちみちゃんになった。多分、綺麗な髪の毛がシンデレラにぴったりだったからだと思う。
太陽を浴びたら、凄く光るの。
わたしの髪は真っ黒で、少しくるっとしていて、シンデレラっていう感じではなかったけれど、その代わり魔法の馬車を出す魔女になれた。
家で、魔女っぽい笑い方を、いっぱい練習した。
リハーサルの時にそれをしたら、みんなから怖い怖いって言われちゃったけど、いちみちゃんは「くろまるちゃん、かっこいい!」って言ってくれたから、本番もそうしようって思った。
ステージでは、いちみちゃんがお姉さんたちに意地悪されている。
もうすぐ、助けに行くからね。舞踏会に行けるように。
でも、本当に楽しみなのは、お遊戯会の後なんだ。
シンデレラのいちみちゃんと、魔女のわたしで、写真撮ってもらうの。
もう一度、鏡を見る。黒髪を撫でて、こっそり魔女っぽい笑い方をしてみた。