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龍の巣

 剣を格納して城に降りる。


ぜん明菜あきなの様子はどうだ?』

『返事が無い。気を失っているみたいだからすぐに降ろそう』

『解った』


 明菜あきなの機体を両脇から抱えて移動する。


「「リカルド、ひとつ聞きたいんだが神騎しんきの格納庫か何かは無いのか?」」


 地上でこちらを見上げているリカルドに質問すると返事が有った。


「格納庫と言われても解り兼ねますが、それは龍の巣の事でしょうか?」


「「こいつが休める場所がそれの事なら案内してくれ」」


「解りました。こちらへどうぞ」


 リカルドが走って城の大回廊のほうへ向かった。それを見送ると、ゆっくりと明菜あきなの機体を揺らさない様に運ぶ二人。城の中を少し進むと奇妙な文様の刻まれた巨大な壁に突き当たる。


「こちらが龍の巣です。我らは入る事が出来ませんが、代々、神龍様が休息されるのはこの部屋になります」


「「壁があって入れないが…?」」


 機体の首を動かして辺りを見回す。


「神龍様のみが通れる術が施されております。中がどうなっているのかは、我々には解りません」


「「そうか」」


 ナタクは大きく深呼吸をすると壁に向かって歩みを進めた。進んでいくと大きな空間の揺らぎを感じて壁をすり抜ける。中に有ったのは、筐体を管理しているマザーベースにそっくりな巨大なシステムだった。


「これは…いったいどういう事だ?」

 ナタクは驚きながら辺りを見回す。神騎しんき専用ハンガーらしいタラップと格納スペースも存在した。取り合えず明菜あきなの機体を何とかハンガーにセットして、自分達もそれぞれのスペースに立たせてみる。すると、コクピット付近にタラップが移動してきて胸部装甲が勝手に開いた。

 とにかく機体から降りて明菜あきなの元に向かう。ナタクとぜんは、外部操作でコクピットから明菜あきなを排出させると抱き上げて頬を軽く叩く。


「おい、明菜あきな。しっかりしろ!」


 ―――ゆっくりと目を覚ます明菜あきな

 心配そうにのぞき込む二人の表情が瞳に映り込むと徐々に覚醒してきた。


 ハッとして起き上がる明菜あきな


 あまりの勢いに驚いて仰け反る二人。


「敵は!?…ここは何処!?」

「あー、奴なら倒した。ここは神騎しんきの格納庫エリアだって。竜人に言わせると龍の巣って言うらしいよ」

「…あの竜巻の中の?」

「「違う!!」」

 二人が突っ込みでハモる。


「凄い!ラ●ュタは本当にあったんだ!!」

 瞳を輝かせて両手を握る明菜あきな


「まだ続けるんかい…」

 突っ込むのも嫌になってガックリするナタク。


「気絶していたみたいだけど、どこかぶつけたりしなかったか?」

「平気よ。VRで気絶する程の衝撃を受けた事の方が驚きだけどね」

 明菜あきなは肩を竦めると周囲をキョロキョロと見回す。


「それにしても凄い設備ね」

「ああ、これなんかマザーベースそのまんまだし」

 見上げていると、突然、作動を開始したシステムが神騎しんきの修理を開始した。何処からか伸びて来た生物の触手の様なチューブが機体に接続される。

 大型モニターに機体のデータが読み込まれると、損傷部分を割り出して修復ユニットが取り付く。感心して眺めながら設備の中を歩き回る。ふと、各機体の近くに小部屋が設置されていて中に何かが置いてあるのを見付けた。


「あれ、あそこに有るのパソコンじゃないか?」

「本当だ」

「電源を入れたらどこかに繋がるのかしら」


 明菜あきなの機体の側にあった部屋に全員で入ってみると整備マニュアルのような本と装備カタログらしきものが置いてあった。顔を見合わせて開いてみる三人。


「おい、これって販売されている装備の設計データだぞ!?」

「えぇ!?」

 驚いて身を乗り出す明菜あきな


「これを覚えて作ったら、まんま課金装備も作れちゃうじゃん」

「それってモロにチートよね…」

「このカタログの存在自体がバグなんじゃないのか?」

 三人はマザーベースの存在と、その資料の価値に驚愕しながら一つの可能性を検討し始めた。


「今いるワールドがテスト空間で、この部屋がスタッフルームみたいなもんなのかもな」

「何らかの事故でそこに飛ばされているって事か。それならログアウト制限も納得だけど、外部との連絡手段くらいは有るんじゃないのか?」

「このパソコンを起動してみようか」

「うん」

 スイッチを入れるとWindows97と表示される。スタッフの趣味なのだろう…

 全員が菩薩の如き悟りの表情でスルーしながらシステム起動を待つ。


 起動した画面に表示されたのは、神騎しんき開発ツールそのものだった。


「おいおい…中で設計開発出来ちゃうって事か?」

「試しに、各々が、使ってみたい武装でも作って持たせれば本物かどうか解るだろ」

「バグってるついでだから出来る事は試してみるか!」

 軽い悪戯心を起して装備を作り始める三人。装備を作って居たら、機体もカスタマイズ可能な事に気が付く。


「これ出力とか装甲値も上げられるな」

「じゃあ、私のやつの機動性も上げちゃって!」

「はいはい」

 ノリで倍の数値を突っ込むと、またチューブが接続され、装甲が別のものに交換されて外観が大きく変わった。ぜんの機体の射撃管制装置もカタログにあった最新のものを作って取り付ける。


「ナタクは何か要望有るのか?」

「そうだな…この修復力UPとかいう項目が気になるな」

「おぉ~、よく気が付いたな。確かにこれは全機に付けちまおう!」

 数値を上げようとしたらエラーが起きた。ナタクの機体以外は数字が上がらない。


「あれ?ダメだわ」

「先に別の項目を増強したからじゃないか?」

「あ、成程。そういう理屈か!」

「ここだと見えないけれど容量オーバーしてるんだと思う」

「余った数値を燃料に振っておいてくれよ」

「あいよ」


 部屋から出てきて自分の機体を見たナタク達は、口をポカンと開けて見上げてしまう。本当に画面通りにカスタマイズが反映されていたのだ。

「今は助かるけど、これはログアウトしたら報告案件だろ」

「そうだな…これのせいでアカウントブロックとかになったら泣く」

「わ、私。ブロックとか嫌だよ!?」

「あぁ、だからログアウトしたら皆で申告しに行こうぜ。こんなバグが有ったよって報告しておけば問題ないさ」

「…そっか」

 明菜あきなはホッとした表情を浮かべる。


「何気に戦闘で疲れたし、ちょっと休もうぜ」

「そうだな」

「…で、何処から出るんだ?」


 ―――全員で途方に暮れる。


 何処を見ても壁だった。

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