神族の機体
『禅、明菜、聞こえるか!?敵が接近しているぞ!』
『ああ、こっちも捉えた。高度がこちらより上から来る』
『神族の神騎かしら?』
禅はレーダーの出力を上げて敵の情報を読み取った。射撃特化させた彼の神騎は他の二機より索敵範囲が広い。
『反応は多数有るけど一機でこっちに向かってる。中ボス型の反応だ』
『やっぱりクエストなのかな?』
『倒せば何か解るだろ、行くぞ!!』
機体の周囲でも竜人族の兵士が騒ぎ始めていた。ナタクの機体が翼を展開して上昇していくと、明菜も続く。禅はライフルに装てんして射撃体勢を整えた。
『やっぱ、オートでメンテナンスされないみたいだ。弾薬が補充されてない』
禅が装備のモニターを確認して、弾倉の点検を済ませる。
「まずいな、こっちのエネルギーもチャージが半端になってる…」
ナタクはエネルギーゲージを確認して表情を曇らせた。
敵機が目視で確認できる距離に接近すると剣を抜く。一気に距離を詰めようと加速したら敵機が口を開けた。嫌な予感がして急降下に切り替えるナタク。
異様な振動が響いて、機体を揺さぶられた。
「今のは何だ!?」
機体データの右翼に損傷の表示が点滅する。
『ナタク、急に軌道を変えたりして何が有ったの!?』
『よく解らないが相手の口が開いたら振動が起きてダメージを受けた。音波兵器を搭載してるみたいだ』
明菜は、ナタクの報告を聞いて接近を中止し様子を伺う。
『俺がやる、相手の意識を城から離しておいてくれ』
禅がスコープを覗いて射撃体勢を完了させた。
『解った。明菜、挟み込んで交互に背中を狙おう』
『いいわ!!』
こちらよりも巨大な敵の神騎は機動性に劣る。相手の近接武装は槍だけの様だった。剣で斬り込みながら明菜が攻撃しやすい位置取りを意識する。
「こっちだ、掛かってこい!!」
ナタクが威嚇していると敵がナタクに向けて左腕を突き出すような態勢を取った。すると、腕の部分に白い羽が舞い散る様なエフェクトが起きて、散った羽が射出されてきた。
「うおおぉぉぉ!!」
避けきれずに被弾するナタク。機体が傾いて墜落し始めた。
『おいナタク!!』
『大丈夫!?』
今度は明菜の方を向く敵機。
「させるかよ!!」
禅は即座に反応して周囲に轟音を響かせた。
ゴワアアァァァ―――ン!!
唸りをあげた弾丸が敵機に迫る。
音に反応した敵機は振り返ると腕を振るって何かを展開した。弾丸が透明な何かに弾かれて軌道が逸れていく。
「何っ!?」
禅は驚愕した。ライフル弾をはじく装備が実装されたとは聞かされていなかったからだ。
『おいおい、こいつ弾丸をはじくぞ…』
『接近してマシンガンも試してみて』
『解った』
禅は、ライフルからマシンガンに装備を変更すると翼を展開して上昇してくる。錐揉みを起していたナタクの機体を空中で受け止め、態勢を立て直すと、ナタクの機体を追い掛けていた明菜に一度預けて自分は敵に向かう。
『ナタク、大丈夫なの!?』
『…あぁ、何とか。一度、下に降ろしてくれ』
城に降りてナタクの機体を離すと明菜はもう一度上昇していった。
空中では、禅と敵機の激しい撃ち合いが繰り広げられていた。
『マシンガンはHITするけどダメージが殆ど無いぞ!』
弾倉残量にアラートが点灯する。
「やべぇ、マガジンが後三本しか残ってねぇ…」
敵の射撃兵器も、連続で撃てるほどの弾数は搭載されていない様子だった。右と左を切り替えながら羽を飛ばしてくる。必死に交戦していたが、弾切れを起こした禅が、マガジンを交換しようと弾倉を外した瞬間に急接近した敵に体当たりを受けて墜落する。
「うあぁぁぁあ!!!」
『禅!?』
上昇していた明菜の脇をかすめて落ちて行く。明菜が戻ろうとすると禅の機体の目が光った。急激な高度低下を感知した制御システムが、機体を安定させて何とか墜落を免れる。
態勢を立て直したのを確認した明菜は、すぐさま敵の方を振り返って攻撃しようとした。だが、敵を見失う。
「え、何処に消えたの?」
思わず周囲を見渡していると急接近警報が鳴り響いた。
ガアアァァァァン!!!
「きゃああぁぁ―――っ!!」
激しく機体を揺さぶられて、今度は明菜が落ちて行く。後ろから肩の辺りを槍で突かれて大きく損傷していた。機体の出血が止まらない。
神騎の血のようなものをまき散らしながら城に落ちる明菜。真っ直ぐに上昇していたのが幸いした。
城の地面に衝突して気を失ってしまった。明菜の神騎の目から光が失われる―――
すぐさま駆け寄るナタク。
『おい、明菜!しっかりしろ!!』
反応が無い。
「くそ、あいつを何とか倒さないとヤバいな」
ナタクは上を仰ぎ見て敵を睨みつける。墜落を免れた禅の機体も城に着地した。
『おいナタク、あいつどうするよ?』
『攻撃がまともに通らないのはマズいな』
その時、城から貞英が駆け寄って来てナタクに叫ぶ。
「哪吒兄様、神族の将騎は胸のコアを破壊して下さい!!」
「「貞英、それがアイツの弱点なのか?」」
「はい」
「「解った、やってみる!」」
ナタクはソードデバイスを展開して攻撃態勢を取った。敵がゆっくりこちらに降りてくるのが見える。機体の状態を確認すると、翼の損傷が大きくて長時間の飛行は出来そうになかった。
「ジャンプで届く距離に来たら一撃で決めてやる」
剣を腰だめに構えて敵が届く距離に近づくのを待ち構える。―――じりじりしながら待っていると、敵が上空で停止して槍を頭上で回転させ始めた。
「何をする気だ…?」
様子を伺うナタク。禅が、いち早くその攻撃に気が付いて退避を指示した。
『ヤバい!!ライトニングレインだ』
『マジか!?』
二人は同時に動いて明菜の機体を抱えると、急いで城の方へ退避する。
ゴガァァァァァアン!!
凄まじい雷撃が起こり、ナタク達の居た場所を激しく砕く。神族の神騎でも中ボス級が持つ範囲攻撃だった。咄嗟に避けたが爆風で吹き飛ばされる三人。
「くそ、なんちゅーインチキ装備だよ」
頭を振りながら身体を起すナタク。
『ナタク無事か!?』
『ああ、何とかね』
『アイツをどうやって引き摺り降ろすかなんだけど』
『なんか方法はないか?』
二人で悩んでいると城の方からアンカーロープが射出されて敵の機体に絡みついた。驚いて、アンカーの射出された方を見るとリカルドが一隊を率いて敵を引きずり降ろそうと試みていた。
「「おお、助かる!!」」
「白龍様、我らがやつを引きずり降ろしますのでトドメをお願いいたします!!」
「「任せろ!!!!」」
ナタクが立ち上がりソードデバイスを構え直す。足掻きながら徐々に高度を下げてくる敵機。
「もう少し…」
緊張で冷たい汗が背筋を流れる。
レーダーの距離が射程圏内の表示に変わり、ロックオンされた。
「いっけえええええ!!!!」
最高出力でジャンプすると、地面がめくれあがって吹き飛ぶ。横に居た禅の機体もよろめく程の出力だった。
急接近してくるナタクを見て、敵が腕を振ってシールドを展開した。
ナタクは構わずに最高出力のまま剣を振りかぶると、その勢いで振り抜く。
敵のシールドとソードのエネルギーがぶつかり合うと空間が湾曲を起してスパークが起こる。ギリッと握る力を強く籠めると敵のシールドが砕けて辺りに飛び散った。
ギャォンッ!!!
金属がぶつかり合う鈍い音がして、敵の胸に輝くコアにヒビが入る。敵がよろめくと、胴体が真っ二つになって爆散した。
空中で振り返るとブレーキを掛けて高度を落とすナタク。城に着地すると撃墜判定の表示が画面に表示された。