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「何をしていたのかは、後できっちり説明して貰うけど、それよりも直ぐに確認して欲しい事があるの」

「ふぁい…」

 腕を組んで仁王立ちしている明菜あきな。顔を腫らしたまま正座をさせられ俯いて話を聞いているナタク。


「ログアウトをしようとしたら、出来ないのよ。ナタクも試してみて!」

「ふぁい…ふぉふぁんふぉりふふぉおーふん(コマンドリストオープン)」


 ……


 当然、開かない。


「ちょっと、真面目にやってる!?」

「ふぁい…」

 顔が腫れてちゃんと発音出来ない。


「もう一回!!」

「ふぁい…ふぉふぁんふぉりふふぉおーふん!(コマンドリストオープン)」


 ……


「やる気あんのかよぉぉ!!!」

 掴み掛る明菜あきな。切羽詰まっているのでかなりムキになっている。ガクガクとナタクを揺さぶった。


「ほふぇんふぁふゃい(ごめんなさい)」

「何を言ってるのか解らないでしょぉぉぉお!!」


 ガクガクガク!!


 揺さぶるたびに涙と鼻血が入り混じって酷い有様だ。


「ふん、使えないやつ」

 ポイっとナタクを投げ捨てるとベッドにドカッと座って頬杖をついた。イライラして指をトントンと膝の上で動かすが、良い案は浮かばない。


「で、あの女は何だって?何してたのよ?」

 首を傾げてナタクの方を見ると、足を組み替える。


 明菜あきながベッドに座っていて、ナタクが床に座って居た為に、足を組み替えたタイミングで真っ直ぐ明菜あきなを見ていたナタクの視界に、下着がチラッと飛び込んできた。VR補正で視界クリアになって意識的に見た為に、ズームが掛かってしまった。

「ふぁ!?」


 思わず声が出る。


 その様子を見て不審に思う明菜あきな

「何なの…?」


 脳内再生で興奮するナタク。意識すると逆再生出来た、これで暫くはオカズに困らない。最新VRは凄いと感動する。


 会話にならないので諦めた明菜あきなは、自分のタイマーの時間だけは覚えて置こうと、もう一度、開いて確認してから横になった。眠れそうには無かったが、他にやる事が思いつかずに仕方なく寝る事にした。

「あんたはそこのソファーね、こっちに来たらビンタスピード三倍よ」

「ふぁい…」

 ナタクをさっきの部屋に帰す気は無かったので、仕方なく自分の部屋に泊まらせた。


 ――――


 朝、微かな日差しを感じて目を覚まし背伸びをする明菜あきな

 ぼんやりした頭を覚ますべくシャワーに向かう。何も考えずに扉を開けるとそこには素っ裸のナタクが居た。


「「きゃあぁぁぁぁぁ!!!」」


 叫びがハモる。


「……なんで明菜あきなが入ってくるの!」

「いや、忘れてたのよ!それより鍵くらい閉めなさい」


 視線を逸らしたつもりだったが、やっぱり見ちゃってた。鮮明に記憶されたある部分を意識して居た為に、ズームが掛かりドアップで見てしまう。

「うそ!?ナニコレ…」


 扉を勢いよく閉める明菜あきな。顔を真っ赤にしながら意識すると、驚いてこっちを向いた時に揺れたボーイの先端が、プルンと水滴を振り落としながらこちらを向く姿が再生される。

「ひゃあぁぁぁあ!!!」


 思わず顔を隠すが脳内再生なのでばっちり見える。ドキドキしながら無自覚に意識を集中すると、ご丁寧に逆再生された。

「何なの、この機能は…!?」


 頭から湯気を噴き、冷や汗をダラダラ流しながら椅子に座る明菜あきな。シャワーから出てきたナタクを真っ直ぐに見られない。


「あの、シャワーどうぞ」

 ナタクに言われて、小さくなりながら前を通り過ぎると逃げる様に扉を閉めた。まるでサザエさんは愉快ダナーの如き入り方だ。


 頬を染めながら、扉の鍵を確認してから衣服を脱ぐ。衣擦れの感触をどうしても意識してしまって恥ずかしい。脱衣所にある鏡に映る自分を横目で見て、少しだけお腹の辺りを気にしながら角度を変えて確かめたりしてみた。

「ん…大丈夫。よね?」


 余分な肉は無い。…と、思いたい。アイドルの卵だからスタイルにはソコソコ自信は有ったが、まだ他人に水着姿を見られる経験は浅い。

 蛇口を捻ってお湯を出すと、頭から浴びたシャワーの温水の一滴に至るまで、その感触を伝えてくる。肌が弾くお湯の雫が髪を伝い、真珠の様な球を形成しては滴り落ちて行く。掌をかざして溜まった水が鏡面の様に輝きながら、指の間を流れる。

 本当にVR空間なのだろうかと疑いたくなるリアルさだった。石鹸を泡立てればシャボンの虹の艶まで輝いている。どう見ても現実世界なのに、時々、インターフェースや身体的な速度が、リアルでは無い事を如実に伝えてくるという違和感にゲームである事を再認識させられる。

 浴槽に浸かってタイマーを確認すると、リアル時間は殆ど進行しておらずログアウトスイッチのタイマーだけが日付に合わせて減っている事が解った。

「やっぱり、イベントタイマーなのかな」


 不安は有ったが、ゼロになれば押せるだろうと楽観視して軽くため息をついた。


 明菜あきなは両手でパンっと頬を叩くと気を引き締めてお風呂を上がる。戦闘VRなのに、お風呂場が存在する違和感に気付く事は無かった。


 ――――


「ね?ログアウト出来ないでしょ」

「本当だ…これはいつから?」

「私が気が付いた時にはもうこの状態だったけど、とりあえず昨日の夜から」

「一度、機体に戻って搭乗してから試してみようよ」

「あ、そうか。一応、コクピットに居る前提でログインしてるものね」

ぜんを起してから試しに行こう」

「解った」


 ナタクと明菜あきなは立ち上がると部屋を出る。廊下に出ると隣の部屋から出てきた貞英ていえいと会うが、明菜あきな貞英ていえいが視線で火花を散らしただけで会話も無く、無言でぜんの部屋へ向かった。


 ぜんの部屋をノックするが、反応が無い。

 顔を見合わせたふたりは扉のロック状態を確認する。開いていたのでナタクがそのまま入って行った。

「おーい、ぜん。起きてるかぁ?」


 パンツ一丁でベッドにひっくり返っているぜんを見つける。

明菜あきな、まだ寝てるからちょっと部屋の外で待っててくれる?」

「ん、解った」


 ぜんの所に近寄って揺さぶる。


「おい、そろそろ起きろって!」

「そんな所を触っちゃダメよぉ~…」

「……なんの夢を見てるんだよ。寺の息子の癖に煩悩全開だな」

 頬をペチペチする。


「起きろって!!」

 ハッとしてガバッと起きたぜん


 辺りをキョロキョロしてナタクに質問する。


「ケモミミちゃんは何処に行った?」

「…そんなものは最初から居ない」


「そうか…夢は再現してもその中の人は再現してくれないんだな」

「夢を見ていたって事が驚きだよ」


「う~ん…幸せな夢だった」

「さいですか、それはようござんしたね」

「うむ」

 やや納得いかない表情のまま、服を着るぜん。ナタクはログアウト出来ない件を簡単に説明すると機体に向かう事にする。


 部屋から出てきた二人を見て少し不満そうな顔の明菜あきな


「遅い!」

 膨れっ面で腕を組み、壁に寄りかかっていた。


「ごめん、ケモミミちゃんが放してくれなくてさ」

「また意味の解らない事を…」

 ため息をつくと先頭に立ってスタスタ歩いて行く。


 明菜あきなの後を追い掛ける様について行く二人。


「俺もログアウト出来なかった」

「やっぱりね、でもイベントなら機体に何か表示されているかも知れないじゃない?」

「ああ、その可能性は有るな」

 段々、足早になって、機体が見えてくると駆け足になる三人。


 見あげると帰還した時のままの姿勢で外に鎮座していた。

「オートでハンガーとかに格納されたりはしないんだな」

「これって使用した武器の残弾とかも、そのままかもよ」

「ログアウトしてメンテするのかしらね?」


 機体を眺めて軽く外見を点検する。


 三人が自分の機体に乗り込んで起動すると、やはり前日の戦闘後の状態のままになっていた。

『そっちは何かメッセージ出てるか?』

『何もないわ』

『こっちも出てない』


 ログアウトを試すが変化は無かった。

「ログアウトの仕方が解らないって、これ、軽くヤバいよな…」


 ナタクの背中に嫌な汗が伝う。不安に襲われながらレーダーを眺めていると、外縁に光点が増えていきレッドアラートがコクピットに鳴り響いた。

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