会敵
水晶宮の外で轟音が響いた。
禅と明菜は、驚き、顔を見合わせて頷くと神騎に走る。
「今の音は何だ!?」
リカルドが辺りを見回す。
外から走ってきた竜人が、外に敵が接近していてナタクの白龍が闘っている事を告げた。
「白龍様が、敵と交戦しております!」
「リカルド、すぐにお兄様の元へ行って!」
リカルドと貞英も動揺しながら、非常事態だと悟り動き出す。
『神騎、スタンバイ!』
禅と明菜は同時に叫ぶ。
声に反応した機体が降着姿勢を取ると、胸部装甲を開放した。
同時に宝玉に触れると中に乗り込む。
「お兄様の盟友が龍になりました。道を開けなさい!!あと、飛竜を出せるものは外へ」
貞英が、通路で慌ただしく走り回っていた竜人に、指示を飛ばす。
『俺達だけで大丈夫だ。見物でもしててくれ』
禅が、貞英達に声を掛ける。
『ナタクを連れてすぐ戻るから!』
明菜が神騎の手を振って走って行く。
二体の神騎は、重い音を響かせながら通路を駆け抜けていった。
「リカルド、どうしましょう…」
「神龍が、ああ言うのだから大丈夫なのではないか?」
二人は、その巨体を、期待と困惑の入り混じった奇妙な顔で見送るのだった。
――――
空では戦闘が続いて居た。ナタクの砲撃を、敵リーダー機がギリギリで回避し、腕を片方失いながらも飛行を続け、その後方を飛行していた三機が砲撃に巻き込まれて撃墜されていた。
「おぉ~、一発で三機落としたぜ。こりゃ凄い出力だ」
ナタクは、満面の笑みで今の戦果を確認していた。
生き残りの敵機が散開してナタクを包囲する。
「次はソードデバイスを試してやる」
武器選択を近接装備に切り替え、腰に装備している剣を引き抜く。
格納状態から両手で剣を握ると、鞘に収まっていた状態から変形しながら巨大化して、大剣の大きさになった。
「おわー、流石は課金装備。派手な仕掛けがしてあるなぁ」
『ナタク聞こえる?』
『ああ、聞こえてるよ』
『状況は?』
『敵は当初、十機。三機を落として、リーダー機が中破。いま囲まれてる』
『なるべく浮島まで引き寄せてくれ。ライフルで狙撃する』
『禅、了解した。明菜、支援よろしく』
『了解』
後方へ回り込んだ敵が二機で襲い掛かってきた。
振り返りざまに逆袈裟に斬り上げると、剣が唸りをあげてカマイタチを起す。剣を受け止めた最初の一機は真っ二つになり、後から襲い掛かったもう一機は風圧に負けてバラバラになった。
『ちょっと、何、その剣。インチキくさい』
明菜が呆れたように笑っている。
『機体と一緒に売ってたやつだよ』
喋って居たら残りの五機に襲われた。
「うわっと!!」
回避で精一杯になりバランスを崩す。
――――
空中で、フラフラ飛んでいるナタクの機体をスコープで見つける禅。
「何やってんだアイツは!」
ライフルを構えて敵一体に照準を合わすと、ロックオン表示となる。
静かに引き金を引くと、轟音が響いて弾丸が一直線に敵に向かって飛んで行った。
薬莢を排出する禅の神騎。
ジャコッ…
敵の翼に命中したが、致命傷にならず撃墜とはならなかった。
「チッ、人族の機体と違って射撃補正が入らないみたいだな」
第二射の準備に入る。
弾道のズレをイメージしてもう一度狙いを定める。
ロックオン…
だが、焦らず距離と風向きを意識して狙いを僅かに左に逸らして発射した。
ドゴァ――――ン!!
命中し、敵機の頭が吹き飛ぶ。
撃墜判定が入って錐揉みを起し墜落していった。
「よっしゃ!」
撃墜判定されると、機体の画面に星がカウントされる。
小破、中破ならレーダーに色違いで表示される様になっていた。
狙撃を感知した敵が禅の機体を見つけて二機が襲い掛かってきた。
それを見た明菜が、間に割って入る。
「私を無視するなんて良い度胸してるじゃない」
至近距離から敵の胸部にクローを見舞う。魔神騎の防御力を、龍神騎の出力が上回った。装甲を貫通して、敵機の宝玉を握ると機体から引き抜く。
痙攣した敵機は、墜落していった。
手にした宝玉を専用ケースに格納する。
この宝玉部分がコクピットパーツとなっていて、ここを無傷で奪う事で敵を捕虜にして、敵の装備をマザーベースでポイント交換して貰う仕組みだ。
宝玉の奪取は、敵機破壊より高難度な為にポイントが高い。これを狙った専用機をセッティングするプレイヤーも多いのだ。明菜も、高ポイントゲッターとして地区では有名だった。
立ちふさがった明菜を避けて、一機が禅に迫る。禅はライフルを背部ラックに格納すると、腰からマシンガンを抜いて構えた。
「くらえ!」
ドゥルルルル!!!
唸りをあげて銃身から爆炎が起きる。敵は蜂の巣にされて落ちて行った。
――――
残りの二機と交戦していたナタクだが、出力がダウンして動きが鈍くなっていた。
「最初の砲撃でエネルギーを使いすぎたな」
ナタクの後方から明菜が支援に入り、敵を一機切りつけた。クロー以外にも通常の格闘装備として、当然、剣を持っているのだ。
翼を片方失った敵が墜落していく。撃墜になるかと思ったが、リーダー機が急降下して、助けに入るとそのまま撤退していった。
『あちゃー、中破止まりだったわ』
『仕方ない。悪くない戦果だし戻ろうぜ』
『了解だ』
三人は、意気揚々と水晶宮に帰還する。
神騎から降りると竜人達に囲まれた。
「哪吒様、見事な戦いぶりでした!!」
「あの射撃はやっぱり人族だな、凄い!」
「この人族の女の子も凄かったぞ」
口々に褒められ満更でもない三人。
「NPCに、こんなに褒められるなんて思わなかった」
「イベントでも嬉しいもんだな」
「なんだか照れ臭い」
「哪吒兄様、勝利の宴の準備をさせております。どうぞ、中へ御戻り下さい」
貞英は、ナタクの腕に手を回すと寄り添って歩き始める。フワッとした感触が腕に当たり、良い匂いが漂ってきた。
優しい笑顔を向けてくる貞英。
「わ、ありがとう」
赤くなるナタク。
「何で、赤くなってるの?」
ムスッと不機嫌になる明菜。
「意外と感触がリアルだったんじゃねぇ?」
クククと笑う禅。
「う、うるさいな!」
ムキになって恥ずかしがるナタク。
「…やらしい」
白い目を向ける明菜。
貞英は、明菜に視線を向けるとニヤリとほくそ笑む。
その視線を受けてムッとする明菜。
――――二人の間に火花が散った。