初飛行
「なんだよこれ、イベントが発生してるのか?」
「ねえナタク。何とかして!」
二人は動揺して、周囲を見回しながらイベントの警告メッセージが無いか探している。
オレは、捕まえに来た竜人達の発言を反芻して、あるゲームの設定を思い出す。
「貞英、神龍の伝承を忘れたのか?」
「え、伝承ですか?」
竜人族の実装が発表された際に、神騎の設定も誌面で発表されていた。そこには『龍が死に、新たな生を得る時に、地上人でも特に強い生命力を宿す魂が、龍の身体と融合して転生を果たす』と、書かれていた。
「お前達、その二人は龍の身体と融合した地上人で、その魂は転生で選ばれたものだ。丁重に扱え」
その言葉を聞いた竜人達は、顔を見合わせると戸惑いながら二人の拘束を解いた。
「驚いたな、助かったぜ。ところで、ナタク。お前のその角は何なんだ?」
「私も気になって居たの。飾り、それとも本当に生えてるの?」
二人に言われて頭に手をやると、異質な硬いものが耳の上から額に向かって、頭部を包むように生えていた。
「うお、何だコレ!?マジで生えてる。すげぇな、ゲームにダイブしたら竜人族になってるよ」
自分の身体を、あちこち確かめながら驚いていると、怪訝な顔をした貞英がナタクの顔を覗き込んできた。
「哪吒兄様、やはり雷に撃たれて、どこか変になられてしまったのでは?」
「わあ、びっくりしたなぁ。貞英、オレ何か変か?」
「はい、先程からおかしな言動ばかりしております。まるで、ご自分の身体でないみたいな…」
そこで明菜が何かを思い出して声をあげる。
「あ!哪吒だ。ほら、雑誌に紹介が載ってた」
「おお、成程。言われてみればそのまんまだな」
禅と明菜は納得したという様に頷き合う。
「イラストもナタクにそっくりで笑っちゃったもんね」
明菜はクスクスと笑っている。
「なんだよ、オレが何だって?」
「アップデートの情報が載ってた今月号にさ、イベントエリアのキャラで哪吒と貞英が紹介されていたじゃん」
「あぁ、何となく思い出した。オレ、貞英のばっかり見てた」
「いくら好みのキャラだからって、ひでぇな。男キャラもちゃんと読めよ」
そう言って笑うオレと禅。
二人の会話を聞いて、驚きながら顔を赤くして俯く貞英。
「ナタクぅ~、そんな所しか見て無かったの?」
明菜にジロッと睨まれる。
三人でワイワイと会話していると、外から駆け込んできた兵士が誰かの来訪を告げた。
「哪吒様、貞英様。リカルド様が到着されました!」
「リカルドが!?すぐに通して」
オレ達は、リカルドって誰だっけと首を傾げながら、次のイベントキャラだろうと思い、その登場を待った。
大きな金属音の混じる足音を立てながら、その竜人はこちらにやってきた。
竜人は、神騎を見ると盛大に驚き、次に禅と明菜を見て驚く。
「哪吒様、これはいったい。転生は成功されたのでしょうか?」
「え?あぁ、うん。多分成功してる…よな?」
よく解らないので貞英を見て返事する。
「リカルド、儀式の最中に少々事故が起きて何とも言えません。お兄様も落雷を受けて様子がおかしいのです」
貞英は、オレを見て困った様な顔をする。
リカルドも尻尾をピタピタさせながら様子を伺っていた。
ちなみにオレと貞英に尻尾は無い。外見は、人に近く角だけが生えている。
貞英は艶のある赤い髪をしていて、オレは黒髪だ。
「哪吒様、白龍様はお目覚めにならないのでしょうか?」
リカルドがオレの機体を見上げて不思議そうに聞いてきたので答える。
「それは、オレがここに居るから動かないんだ。オレが乗らないとこいつは動かない」
「どういう事でしょう?」
「お前達に解るように言うなら、オレ達が、あの龍の魂って事さ」
貞英も、リカルドも、それを聞いて息を呑む。
「お兄様は白龍様と融合なさって闘うのですか?」
「ああ、そうなるな」
「それは驚きました。あの神族や魔族ですら凌駕する神龍の力を、自由に操れると仰るのですか!?」
「見せてやろうか?」
NPCだと解っているのに感情豊かに褒められるので、その気になって出来る所を自慢したくなった。
「是非!」
リカルドが瞳を輝かせて嬉しそうに返事する。
「さっきは、その二人が神騎から出て来ただろう。ちょっと見ててくれ」
オレは神騎の前まで歩いて行って立ち止まる。
…
振り返って明菜に言った。
「これさ、いつも乗った状態でダイブするじゃん。どうやって乗るんだ?」
突っ伏す明菜。
「あなたねぇ…いかにも乗れますみたいな顔して行くから、乗り方知ってるのかと思ったわよ」
「だってダイブしたら、降りててこの姿だったんだぜ?」
「禅、教えてあげて」
疲れた顔で禅に役目を振る明菜。
ため息をついて説明を始める禅。
「画面に出たのは、コールして降着姿勢にした状態で、神騎を待機させたら、胸の宝玉に触れろって書いてあったぜ」
「解った、コマンドリストオープン」
リスト宣言をすると、自分の目の前の空中に画面が出現する。
やはりゲームは進行中なのだと認識して、そのまま、命令文を探した。
「お、有った。これか」
神騎を見上げて宣言する。
「神騎、スタンバイ!」
宣言を受理したナタクの神騎の瞳が輝くと、進み出てきて四つん這いになり胸の装甲が開く。装甲の内側にある宝玉が点滅していて、それに触れるとナタクの身体が光に包まれ中に取り込まれていった。
それを見てどよめく竜人達。
「白龍様が復活された!」
『危ないから少し離れてくれ』
機体の中から声を掛けると、驚いた竜人達は蜘蛛の子を散らす様に逃げていく。。
リカルドに促され、柱の陰まで離れた貞英も驚いた表情をしていた。
『ちょっと飛んでくる』
エネルギーとブーストゲージをチェックして、問題がない事を確認すると、機体テストに飛ぶ事にした。
「何が有るか解らないんだから、気を付けなさいよ!」
明菜が大声でこちらに注意しているのが聞こえた。
明菜達を見ると、表示が緑色に点滅し味方である事を示している。
歩行モードから徐々に加速を開始して建物の外に続く通路を通り過ぎる。扉が解放されて空が見えると、翼を展開して飛行モードに移行した。
最初にフワッと足が地上から離れ、羽ばたき始めると下の地面が無くなる。ここが空中に浮かぶ島だとレーダーで認識出来た。
一気に出力を上げると、強烈なGに襲われ太陽に近づいて飛んでいく。
「おお、すげぇ!!流石は新型だな」
空中散歩を楽しんでいるとレーダーに赤い光点が増えてきた。
機体に警報が響く。接近するのは魔族の機体反応が10だった。
「龍神騎の試運転に丁度いいぜ、やってやるよ!」
敵との距離が攻撃圏に入った事をマーカーがロックオンで示す。
オレは、カスタマイズで搭載した遠距離砲撃武器を試してみる事にした。
3機づつの3グループ編隊に、リーダーの機体が先頭に1機。リーダーの位置をロックして砲撃を試す。
武装選択を口の主砲にセットするとエネルギーチャージを開始した。
神騎の顎が開き、口の正面に円形の魔法陣の様なものが発生すると、高熱の球体が中心に集まってくる。
機体の内部に、チャージ完了のアラートが鳴り響いた。
「いっけえええええぇぇ!!!」
キュオ――ン、ドゴォ―――――ッ!!!!
急速に集まった熱源が解放され、正面に凄まじい火炎が放出された。
初っ端から、やらかしに気が付いてしまったけどもう直せない。なので、このまま放置。
この、どデカいやらかしに、何人が気付くのでしょう…