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 世界的に流行を見せる筐体型体感バトルシミュレーション【=Ragna Dragoon=】


 その特徴は、市販された生体兵器の三次元データを専用のカスタムメモリで、改造、拡張してゲームに使用出来る事にある。

 改造したデータは、事前に専用のマザーベースに登録して、バグチェック、容量や兵器としての実用整合性チェックを受けた後に、合格したものがオンラインで使用可能となる。

 扱うデータの処理容量が大きい為に、家庭用は普及しておらず、アミューズメント施設に設置された専用筐体を中継して全世界と繋がる仕様になっていた。


 筐体に入れる体格とデータをいじれる知識があるなら、年齢制限は特に無いのがヒットした理由の一つだ。


「よう、ナタク。新型の調整は終わったのか?」

ぜん、もう部活終わりか。授業中にこっそり終わらせたぜ!!そっちの神騎しんきはどうだ?」

 ※神騎しんきラグナドラグーンで使用する生体兵器。


 ナタクと呼ばれたオレの名は『羽龍うりゅうナタク』。プログラム専科の工業高校に通うゲーム好きで、ラグナドラグーン地区代表プレイヤーだ。

 オレに声を掛けたのは、寺の息子の安生寺あんじょうじぜん。同じ工業高校の友人でゲームでもパートナーを務めている。


「俺のほうは近接火力を重視して、マシンガンと単発のライフルを装備してる」

「へえ、ぜんは相変わらず飛び道具も現代型なんだな。オレのは、オプションパッケージで買った近接神装きんせつしんそうのソードデバイスにしてみたよ」 

「お、すげぇガチ課金じゃん!」

「ハハハ、バイト代が、ぶっ飛んだけど基本スペックだけでもスゲェ火力だぜ」

「俺もオプション追加しようかなぁ」

「新型と一緒に発売された神装しんそうはお勧めだよ。ぜんなら、ロングボウとか行けるんじゃない?」

「新型は龍神形態だから似合いそうだな」


 ゲーム世界は、人族、魔族、竜人族、神族に分かれて好きな勢力に参加し、拠点を奪い合う。

 人はリアルな装甲ロボットに近いもので、他の種族は、各種族の特徴を反映した生体兵器型だ。竜人族は、今回のアップデートで追加された新勢力となっている。

 他種族の武器も使用出来るが、データペナルティが発生して機体スペックが大きくダウンしてしまう。

 ぜんが持たせた火器は、以前、使っていた人族用の為、竜人族の機体に装備すると装甲値が大幅ダウンするペナルティを受ける。


「店長!こんにちは。新型のテストをしたいからイベントステージマップ1お願い」

「はいよ。今、4号筐体に明菜あきなちゃんが来てるよ」

「あれ?今日は早いね。レッスン無いのかな」


 店長はコソッと耳打ちしてくる。


「サボりみたいだよ。マネージャーと喧嘩したらしいね」

「マジか!?」


 店長が、明菜あきなちゃんと呼んだ人は『森川もりかわ明菜あきな』。芸能人が多く通う、隣の女子高の生徒だがデビュー間近のアイドルの卵だ。

 そして俺たちとは、小中一緒の幼馴染でバトルパートナーでもある。

 オレは外部インカムを使用して、中の明菜あきなに声を掛ける。


「おーい、明菜あきな。聞こえるか?今から新型で入るからそっちでログインの挙動を点検してくれよ」


『私も新型で入った所よ。動作がスムーズで、これならいけるわ』


明菜あきなも新しいの買ってたのか。そりゃあ楽しみだ、ぜん、行こうぜ」

「おう!」


 オレ達は、それぞれの筐体に乗り込むと接続デバイスを装着して認証カードをスロットに差し込む。作ってきたデータをセットすると、マザーベースが読み込みを開始して起動許可を出してくる。


『認証完了、神騎機動許可。ようこそラグナドラグーンの世界へ!』


 視界がクリアになったと同時に画面にノイズが走った。

 激しい振動が筐体を襲い、一瞬、何が起きたか解らない。


「うわあああ、何だ!?」


 神騎は、リアルタイプの体感型なので、機体に攻撃を受けたりすると若干の痛覚を伝えてくる。

 生体兵器という触れ込みなので、ゲーム内の機体も血を流すのだ。


 …ザザッ……「ナタ…聞こえる…?」


 ノイズに混ざって明菜あきなの声が聞こえて来た。


明菜あきなか?何が起きたんだ」


 若干、音声がクリアになる。


「あなた達が、ダイブしてきたら周囲の空間が歪んで機体に雷が落ちたの。操作不能のアラートが出てるわ」

「バグなのか?ぜんはどうした」

「機体は見えるけど応答が無いわ」


 そして再び機体に雷が落ちる。

「うわああああ!!」

「きゃあああぁぁあ!!」



 ――===――



 雷鳴轟く雲海を飛行する一騎の飛竜と竜人リカルド。

 漆黒の雲を一気に抜け、嵐にその身が濡れるのも構わずに飛んでいた。


「蒼炎、急げ!この嵐、間もなく白龍の転生が始まる。この目で見届けねば・・」


 グアァァォーーーゥ!!


 飛竜はそれに応えるかの様に遠吠えを発し、加速した。



 ―――水晶宮―――



「龍玉の輝きが増しております。白龍様の転生が始まると哪吒なたく兄様へお伝えせよ」


 転生の儀式を取り仕切る貞英ていえいは緊張した面持ちで儀式を見守っていた。


 水晶宮は広大な空中庭園に建造された宮殿だ。

 古より空に浮かび、竜人の住まう土地として地上の人々に崇められている。だが、長く神龍が不在となり、竜人の力が弱まると地上の人々も竜人の宮殿に眠る財宝を狙う者が現れ、争う様になった。

 今、その宮殿で新たな支配者たる神龍の転生が始まろうとしていた。


 四海竜王の子、哪吒なたくとその妹 貞英ていえいは人の姿をしている。

 龍が死に、新たな生を得る時に、地上人でも特に強い生命力を宿す魂が、龍の身体と融合して転生を果たすと言う。その様な転生を果たしたものは、人の知恵と龍の強靭さに高い生命力を得て竜人の中でも一目置かれる存在となる。


 雷鳴が轟き、儀式の広間に強烈なエネルギーが充満する。

 広間に走ってきた哪吒なたく


「遅くなってすまん。儀式はどうなっているか?」


 その時、哪吒なたくに向かって雷が落ちる。


「ぐああああぁぁぁ!!!」

「お兄様!!」

 叫んだ貞英ていえい哪吒なたくに駆け寄る。


「事故だ、哪吒なたく様に雷が落ちたぞ!」

「救護のものを直ぐに呼べ!!」


 哪吒なたくが倒れると、広間の時計が鐘を鳴らす。そして幾筋もの雷が落ちて、徐々に白龍がその姿を現した。


「おお、白龍様以外にも転生した龍がおられるぞ!!」

 広間に出現したのは、ナタク達が乗り込んだ筈の神騎三体だった。


 ナタクは自分を呼ぶ声に目を覚ます。

 身体が痺れて上手く声が出せない。


「…あ、ここは何処だ?」

 クラクラする頭を押さえながら自分を抱きかかえる相手を見あげた。

「お兄様!しっかりして下さい」

 角を生やした美形の少女が心配そうな表情でこちらを見ていた。


「あれ?イベント進行中なのかな。今度はやけにリアルだな」

「何を仰っているのか解りません」

 意識がしっかりしてきて自分が生身である事に驚く。


「うわ、機体から降りてる!?すごい、今度は機体から降りてステージ内を歩けるのか」

「お兄様、本当に大丈夫ですか?」

 怪訝な顔をしてこちらを見ている少女。

 辺りを見回すと、自分の機体の他に二体が近くにあった。


 オレは立ち上がり、自分の神騎しんきに近づいて行く。

「お兄様、白龍様は目覚めておりません。まだ、近づいては危険です!」


 外から見た限りでは損傷は見受けられなかった。

 横の赤い機体に近づいて声を掛けてみる。

明菜あきな!無事か?」


 ――――


 明菜あきなは自分が呼ばれている事に気が付き目を覚ます。

「…ん、いたた。凄い衝撃だったなぁ」


 機体の目を通して外の景色を確認する。


 グォオオーーン…


 明菜あきなの機体の瞳が輝き首が動いた。

 すると、周囲の人々が驚く。


「おお、覚醒された」

「赤龍様が動いたぞ」


 明菜あきなはナタクの姿を見つける。


『ナタク、あなた。その恰好は何なの?』


 言われたナタクは自分の姿を確認して驚く。


「うわ、なんだこりゃ」

 乗り込んだ時に着ていた服では無く、ゲーム内のキャラが着ている服になっていた。


「お兄様、赤龍様をご存じなのですか?」

 話し掛けられて振り向くとさっきの少女が近くに立っていた。

 全身の姿を見てオレは思い出した。


「ああ!貞英ていえいか。こうしてみると可愛いなぁ」

「お、お兄様いきなり何を!」

 驚いて顔が赤くなる貞英ていえい


『その子、NPCなの?』


「解らないけど、多分そうなんじゃないかな?」

 明菜あきなの方を向いて話すと、明菜あきなも機体を動かして近づいてくる。


 歩く振動に周囲の人々は驚き後退あとずさる。


明菜あきなぜんを呼んでみてくれ」


『解った』


ぜん、大丈夫?』


 ――――


 ぜんも意識を取り戻した。

「いってぇ…、何だよもう」


 機体を動かして立ち上がる。


 ヴゥゥゥン!!


 ズンッ!


ぜん、大丈夫か?点検が終わったら降りて来てくれ」


『ああ、大丈夫。解った』


 機体から降りてくるぜん明菜あきな


 生体兵器なので、装甲パーツが開いてもコクピットに通じるような穴は存在せず、融合した部分から押し出される様に人が出てくる。

 神騎から出てきた二人を見て周囲の人々が騒めく。

「人族が出て来たぞ!!」

「と、捕えろ!」


 いきなり武器を向けられて囲まれる二人。


「え、何っ!?」

「うわ、何だよ!?」


 二人が捕まると貞英ていえいも衝撃から立ち直り発言する。

「この二人はお兄様の知り合いですか?何故、龍神様と融合していたのか説明して下さい」


 貞英ていえいはオレの方に振り向くと、厳しい目つきで詰問してきた。


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