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「せっかくですから、お名前を伺ってもよろしいですか?」
教皇の言葉に、ガルモンド侯爵たち子爵以上の貴族が自己紹介し(書記のスクライブ伯爵は速記による記録の許可も取った)、最後にリジーが名乗った。
「リジー……じゃない、エリザベス・フォスターです」
「リジーも素敵なお名前ですよ。本日はお会いできて光栄です。聞くところによると、救世主様の奇蹟を受け継ぐ女性が現れたとか。リジーがそうなのですか?」
「え、ええ」
教皇が意図したのか定かでないが、彼が前置きもなしに我々の前に現れたことに驚かされて、ガルモンド侯爵はすっかり話の主導権を握られていた。
「それは素晴らしい。お手数をおかけしますが、リジー、ここにひとりの憐れな男性がいます。どうか、彼を助けていただけませんか?」
教皇が何やら遠い目をした。
その視線を追って振り返ると、やせ細ってぐったりとした青年が、屈強な衛兵に抱えられていた。
どうやらひとりでは歩くこともできない病人らしい。
「彼はもう何年も前から、全身に力が入らなくなる謎の病に冒されており、悪化の一途をたどっています。最近では物を食べることにさえ相当の体力を使っています。私も主に彼を助けてくださるよう日々祈っているのですが、良くなる兆しがありません。私たちとしては、ぜひとも彼を助けていただきたいのです」
一瞬、教皇のブルーの目が鋭い光を放ったように見えた。
教皇が言ったことは、つまりこういうことだ。
教皇庁は何らかの事情でこの患者を引き受けることになったのに、彼らお得意の「お祈り」によって病を癒すことができず、途方に暮れている。
といって、さじを投げれば教会の信用が地に堕ちる。
だから、リジーに患者を治してほしい。
当然、それは彼だけでなく教皇と教会の関係者たちを助けることにもなる。
リジーはおそらくそこまで考えが及んでいなかっただろうが、堅い面持ちで答えた。
「やってみます」
リジーはゆっくりと立ち上がり、青年にぎこちなく歩み寄った。
ガルモンド侯爵をはじめとしてウベルギラスの皆が少し心配そうに見守った(おそらく私もそういう顔をしていたことだろう)。
リジーが右手で青年の肩に触れた。
すると、青年は大きく息を吸って、大きく息を吐いた。
そして、すがるようにリジーの右手首を掴んだ。
見ていると、青白かった青年の肌が誰の目にも明らかに桃色に染まっていった。
腹の虫が鳴る音が響いた。
青年が明朗な声で、何か外国語を話した。
おそらく、水か食べ物を求めたのだろう。
それを聞いて、私たち王国軍以外の男たちが騒然となり、祭服の男の1人が走って部屋を出て行った。
続けて、青年は自分を抱えている衛兵に何か言った。
衛兵が彼を下ろし、青年は裸足のままひとりで床に立った。
それを見て、教皇が立ち上がった。
青年はリジーの右手を自分の肩に押し当てたまま、彼女に何か話しかけ、最後に「ハレルヤ(主を褒め称えよ)!」と言った。
「『ありがとうございます。あなたに触れられているだけで力がみなぎってきます。ハレルヤ!』と彼は申しております」
ラルス司教が青年の言葉を翻訳した。
「そうですか。『病気が治ったみたいで良かった』と彼に伝えてください」
リジーがラルス司教に言った。
私は彼女の消耗が気になったが、重病だったとはいえ青年1人を治した程度では彼女はほとんど疲れを感じないらしかった。
「お見事! お見事です、リジー!」
教皇がほとんど叫ぶように言い、拍手した。
それに呼応して、衛兵と聖職者たちも拍手した。
リジーは青年の肩に触れたまま、照れくさそうに笑顔を見せた。
「彼を治せて良かったです」




