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私たちは起立して待った。
その方が熱心なメシア教徒には受けが良いだろうとガルモンド侯爵が言ったからだ。
元々護衛係の私たちはずっと立っているつもりだったので、別に苦だとは思わなかった。
しばらくして、ノックの音がした。
私たちの返事を待たず、ラルス司教とは別の祭服の男が恭しく扉を開けた。
それに続いて、衛兵が大勢部屋に入ってきた。
私たちは自分たちがラルス司教の気を損ねたのかと思って警戒し、いつでも短剣を抜ける態勢をとったが、どうやら彼らに戦闘の意志はないようだった。
衛兵たちが壁際に並んだ後に、白い祭服に赤い上着をまとった、背の高い老人が部屋に入ってきた。
太ってはいなかったが、血色の良い顔をしており、年齢の割に(と言っては失礼かもしれないが)元気そうだった。
関節痛や腰痛の類もないらしく、すたすたと私たちの前にやってきた。
ガルモンド侯爵とマイクロフトが跪いた。
それに遅れて、私たちも跪いた。
とはいえ、おそらく私たちの多くは状況を呑み込めていなかっただろう。
「そう畏まる必要はありませんよ。皆さん、顔をお上げになって、どうか楽にしてください」
流暢で丁寧なウベルギラス語だった。
その言葉を真に受けて私が顔を上げると、祭服の男たちがぞろぞろと部屋に入ってくるところだった。
その中にはラルス司教の姿もあった。
「ようこそ、ウベルギラスの皆さん。私は教皇のホミネウスです」
私は開いた口が塞がらなかった。
「……まさか、教皇台下のお姿をこのような部屋で拝見することになるとは、思いもよりませんでした」
ガルモンド侯爵が私たちを代表して困惑を吐露した。
普通、高貴な身分の人々は自分から来訪者を出迎えには来ないし、それなりの身分の人間としか会わないものだった。
教皇が自分からここにやってきたということは、彼が見ず知らずの少女であるリジーに対して下手に出たということを意味する。
きっと、ラルス司教から話を聞いて、リジーに特殊な能力があることを信じ、彼女に対して敬意を見せておくことにしたのだろう。
半神の存在を疎ましく思っているはずの教会のトップがこのような物わかりの良い行動を見せたことに、私は驚いた。
今になって思うと、教皇はこれによってリジーの彼に対する印象を良くし、信用を勝ち取ることで、ゆくゆくは彼女の言動に影響を及ぼしたいと考えていたのかもしれない。
「せっかく信徒の皆さんに遠いところをお越しいただくのに、自分だけ踏ん反り返って安楽椅子に掛けているというのが、どうも性に合いませんでね」
教皇はそう言って、ガルモンド侯爵たちに着席を促した。
それでも彼らは着席して良いものか迷っていたが、ためらわず腰を下ろしたリジーに教皇が微笑んだのを見て、彼女に続いた。
当然、護衛担当の私たちは起立して待機した。
ここでの教皇の服装は、(だいぶ時代が違いますが)ベラスケスの『教皇インノケンティウス10世の肖像』から着想を得ています。もちろん、中世ヨーロッパの高位な聖職者は豪奢な衣装を着ていたらしいという話もありますが、仕事をする際の機能性や教皇ホミネウスの人柄を考えると、公式の場以外では質素な服を着ることもあったのではないかと判断しました。
また、聖職者の衣装ではチュニックがアルバと呼ばれたり、上着がダマルティカと呼ばれたりしますが、メシア教徒として熱心でないジャコブはその辺の事情に疎いだろうということで、本作では単に「祭服」や「上着」と表現しています。




