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イルハンスは王都以上に華やかな街だった。
山の頂上に、遠目に見ても堂々と聖ピーター大聖堂がそびえていた。
スタンリーによると、国際的な布教はこの大聖堂を拠点に始まり、歴代のメシア教諸国の国王の戴冠式もここで行われたらしい。
大聖堂を取り囲むように街が広がり、その外縁は高く厚い城壁で固められていた。
田舎者の私には王都に並ぶ都会というだけで刺激的だったが、特に驚かされたのは街中の建物が大理石で造られ、目が眩むほど色鮮やかな救世主や天使の彫刻が施されていたことだった。
さすがの王都もここまで芸術家を優遇してはいなかった。
私たちは聖ピーター大聖堂を目指したが、山の麓には救いを求める老若男女が詰めかけていた。
おそらく様々な言語が飛び交っていたのだろうが、学んでいない外国語など聞き分けられるはずもなく、ウベルギラス語とダームガルス語以外は等しく雑音にしか聞こえなかった
(神聖語はほとんど聞こえてこなかった)。
見ると、この人混みが山頂まで続いていた。
仕方がないので、私たちはガルモンド侯爵を先頭に、馬で人混みを掻き分けた。
リジーは「なんだか悪い気がするね」と言ったが、隣に座っていたアニーが「まあ、これは公務だから」と返した以外は、誰も取り合わなかった。
馬のおかげで多くの人は何も言わなくても道を空けてくれたが、あまり速度は出せなかったので、大聖堂まで30分ほどかかった。
たどり着いた大聖堂には石造りの立派な門があり、8人の門番が立っていた。
そこでは多くの人が堰き止められていた。
あまり人を入れすぎれば教皇庁の運営に支障が出るだろうから、当然の処置と言ったところだろう。
それでも人々は熱心に何やら訴えかけていた。
馬を降りてから、ガルモンド侯爵の部下が門番に神聖語で言った。
「我々はウベルギラス王国軍だ。今日来ることは既に教皇庁に伝えてある」
私たちは荷物を馬や馬車ごと預けてから教皇庁の門をくぐった。
武器の持ち込みは禁止されていたが、実はリジー以外はみんな脛や腿に短剣を忍ばせていた。
もしも私たちの知らないところでダームガルスの使者が来て教皇庁を味方につけていたら、私たちは敵の手中に乗り込むことになるからだ。
ただ、リジーは嘘をつけない性格だったので、マイクロフトが彼女には短剣を持たせず、私たちの短剣のことも隠すことに決めていた。
近くで見る聖ピーター大聖堂は一段と壮麗だったが、呆気に取られている暇などあろうはずもなく、私たちは急かされながら敷地内を歩き、身廊を抜けて祭壇の前で神に祈りを捧げた後、大聖堂の中の一室に通された。
応接室というものはどこの世界にも用意されているものだ。
私たち総勢30人が入っても窮屈ではない広い部屋だった。




