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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第6章 ランドン
81/146

6-14

 モルリークの首はマイクロフトからジェンキンスの手に渡り、ジェンキンスからクロッカス将軍に献上された。

 今回の戦闘では、ニコラスが突破口を作り、マイクロフト小隊の隊士たちがモルリークを包囲し、マイクロフト小隊のキースが彼の首を落としたので、マイクロフト小隊の手柄ということでいいんじゃないか、と私は思ったが、ジェンキンスの顔を立てた形だ。


「手柄を立てることは一見、出世の近道に見えるが、歩兵や弓兵ならともかく、将校の世界ではそうじゃない」

 スタンリーが解説した。

「手柄を独り占めしてばかりいると、仲間から妬まれるし、上司からは疎まれる。周りに足を引っ張られては、そのうち身動きが取れなくなる。それを避けるためには、直属の上司に名誉を譲ることだ。仲間たちは文句を言えなくなるし、上司からは頼りにされる。あとは上司が出世するのを待てばいい」

「しかし、スタンリー、それだと兵士たちが納得しないんじゃないか?」

 エドガーが尋ねた。

 これは、ジェンキンスに譲られた名誉はそもそもマイクロフトのものではなく、ニコラスやキースをはじめとしたマイクロフト小隊の隊士たちに帰属するはずのものではないのか、という疑問だと私は受け取った。

「鋭い着眼点だ、エドガー」

 当時の師弟関係では弟子が師匠に質問することは少ないと聞くが、スタンリーは普段から、私たちが彼の解説に質問することを奨励していた。

「だが、将校は抽象的な富を求める一方、兵士たちは具体的な富で満足する。もちろん、兵士たちも地位や名誉を与えられれば喜ぶが、彼らにとってより重要なのは金と女だ。これらさえ与えておけば、大概の兵士は文句を言わない」

 私は何となく、その説明をすんなりとは受け入れられなかった。

 それはもちろん、(かえり)みると私自身が、金や女のためではなく地位あるいは名誉のために入隊を決めていたからだ。

 だが、私のようなケースは特殊なのかもしれないと思って私は口を出さなかったし、エドガーもそれ以上質問を重ねなかったので、その場はスタンリーの説明に私たちが納得した空気になった。




 モルリークの首から下は、マイクロフトが回収した。

 戦闘でハチの巣にされたはずなのに、荒布に乗せられてバルディッシュのところに届けられたモルリークの体は、傷がすっかり癒え、その肌は滑らかさを取り戻していた。

 死体の運搬を担当した兵士たちは震え上がったというが、バルディッシュはその話を聞いて歓声を上げたらしい。

 後日、マイクロフト、ニコラス、私の立会いの下、バルディッシュが死体を解剖した。

 日が経っていたせいか、さすがに解剖のときの傷が再生したという話は聞かないが、内臓にも筋肉にも、剣や槍で刺された傷痕は残っていない、とバルディッシュは断言した。

 土属性の半神の自己治癒能力は、死してなお機能するものらしい。

 切り落とされた首を胴体とつなげればモルリークは生き返るに違いないと、バルディッシュは興奮を隠さずに言った。

 それを試したくて仕方ないといった様子だった。

 だが、もちろん、それはあまりに危険なので、モルリークの体は(すみ)やかに焼却(しょうきゃく)されることになった。

 モルリークの体は、丸1日燃やしても焦げ目さえつかなかったが、さすがに5日間も燃やし続けると黒焦げになった、と聞いている。

 10月24日、黒焦げになったモルリークの体はランドンの共同墓地に埋葬された。

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