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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第1章 ノーリンドン
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1-5

 整列の号令がかかり、さっきニコラスを呼んだ賢そうな青年が、木箱の上に立って、ろくに武術の教授も軍事教練も受けていない私たちを笑顔で見回した。

 小隊長にしては若すぎるからきっと連絡事項を伝えるだけの係だろうと私は判断した。

 だが、スピーチを聴く内に、この男がアルドレア伯爵の息子、カストバーグ子爵ジョン・マイクロフト本人だと分かった。


 当時、私も19歳の若造だったが、マイクロフトもまだ21歳の青年だった。

 肌ツヤが良く、その立ち姿はすらりと均整が取れていた。

 甲冑は動きやすさを重視した質素な作りで、胸の部分にハヤブサの紋章があった。

 マイクロフトの言葉遣いには、私には真似の難しい、貴族特有の上品な響きがあった。

 ハリントンで暴れていた頃の私であれば鼻持ちならない人種だと思ったところだが、ドーリス団の一件を経て私も考えが改まっていたので、味方につければ心強いタイプだと思った。


 もう昔のことだから、私はこのときマイクロフトが何を話したのか、あまり鮮明には覚えていない。

 マイクロフトたち王国軍が私たち新参を歓迎すること、

 我々ウベルギラス王国が隣国ダームガルス帝国の不当な侵略を受けていること、

 我が王国こそが神の祝福を受けた正統な王を掲げる王国であること、

 我が王国の秩序に暮らしてこそ私たちの文明的な生活が担保されること等々、

 兵士たちの士気を高めようとする話が続いた記憶ならある。

 マイクロフトが思慮深く冷静さを重んじる性格なのはスピーチを聞いていてもよく分かったが、演説というには熱に欠けていた。


「これから君たちは、我々王国軍のためにその力を役立てる名誉を受ける。

 君たちの中には、王国軍に対して不遜な感情を抱く者もいるだろう。

 自分の力に自信を持つのは結構なことだし、私もそれを期待して君たちを招集した。

 しかし、指揮下に入る以上、国王陛下と王国軍の命令には命懸けで従ってもらわなければならない。


 この世の掟は、強い者が弱い者を支配するということだ。

 貴族だとか農民出身だとか商人出身だとかは関係ない。

 我々王国軍においては、身分のある者が強いのではなく、強い者が身分を得るのだ。

 王国軍が君たちに命令を下すのもまた、君たちが弱く、私たち王国軍が強いからに他ならない。

 その掟を守ってこそ、我々は最強の軍隊であることができるのだ。


 王国軍が君たちを支配することが正しいと証明するために、これから模擬戦を行う。

 君たちの相手は、私の腹心の部下が務める。

 彼に勝った者には、その瞬間から小隊の指揮権を与える」


 マイクロフトはざっとこんなことを言った。

 私はそのスピーチを聞いて、何やら物騒なことが始まりそうだと感じた。

 しかし、私以外の新参たちは能天気なもので、入隊して早々に小隊長になれるチャンスだと色めき立った。

 模擬戦を行う理由についての長くて回りくどい話を理解した者は、見るからに少数だった。

 前衛部隊だけあって、多くは学のない下層階級の出身だ。

 マイクロフトの高尚で上品な話しぶりは、多くの新参隊士にとっては眠気を誘うものだったのだろう。

 ひょっとしたら、マイクロフトたちが歓迎試合の名目で新参たちを叩き伏せておくことにしたのは、新参たちがマイクロフトの話をろくに聞かないことを見越した措置だったのかもしれない。


 何となく予感はしていたが、マイクロフトの言う「腹心の部下」としてニコラスが進み出たとき、私は思わず苦笑いしてしまった。

「模擬戦は真剣で行う、もし可能ならニコラスを殺してくれても構わない」

 と、マイクロフトは豪語した。

 新参は万全の装備で臨むように言われたが、ニコラスは鎧を着て右手に長剣を持ちつつ、盾もヘルメットも身に着けていなかった。

 最初に名乗り出た新参を相手にする前に、ニコラスは面白くもなさそうな顔で、ゴリッと首を鳴らした。

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