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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第6章 ランドン
70/146

6-3

 翌日、作戦はつつがなく開始された。

 私としてはなるべく穏便に事を済ませたかったのだが、商人の側も略奪に()わないよう必死だったので、そういう訳にもいかなかった。

 結局、やる気がなかった私も投げ槍で御者を殺す羽目になってしまった。

 加えて、仲間たちがちょっとした装飾品を目当てに商人を殺すところも見て見ぬふりで(とお)してしまった。


 初日の作戦を終えた私は憂鬱だった。

 もちろん、我々は戦争をしているのだし、民間人と言ってもあの商人たちはダームガルス軍の補給に加担していたのだから、彼らを許す訳にはいかない。

 我が軍は事前に警告を発してもいる。

 だから、私たちの行為には何らやましいところはないはずだ。

 それでも、かつては盗賊を憎んで討伐までしたのに、命令とはいえ、文字通りの「盗賊の真似事」をしてしまった自分を、私は情けないと思った。


 そんなことを考えながら夕食のパンとスープを受け取るべく列に並んでいると、険しい顔のメアリーが私のところにやって来た。

「ジャコブ、今お時間よろしいかしら?」

 基本的に、私たちは時間がないときに食事をとっていられるような身分ではなかった。

 実際、メアリーも私の返事を待たずに続けた。

「ついてきてください」

「あの、これから飯なんですけど」

「パンなら後でわたくしが買って差し上げますわ」

 メアリーは私の腕を強く掴んで、ずんずんと引っ張っていった。

 彼女の用事については何となく察しがついたので、私も黙って引っ張られていった。

「あなたなら、今回の作戦がおかしいことに同意してくださるでしょうね」

 メアリーが、まるで胸中に渦巻く怒りを間違って私にぶつけてしまわないよう気を付けているかのように、ろくに私の方を振り向きもせずに言った。

「ええ」

「おかしいと思ったらおかしいと言うべきです。わたくしと一緒に、小隊長に抗議しに行きましょう」


 メアリーはそれ以上言わなかったが、彼女に言わせればきっと、おかしいと思ったのにおかしいと言わないのは私が臆病者だからなのだろう。

 それは確かにそうだった。

「どうせ私が何を言ったところでマイクロフトが意見を変えることはない」とか、「周りの隊士たちを説得するのは面倒そうだ」とか、そんなことは大した問題ではない。

 それが自分の信念に反しているなら、嫌だと言えば良いはずだ。

 私はやはり、マイクロフトに異議を申し立てることを通して、王国軍という大きな権力に逆らうことが怖かったのだ。

 たしかに、権力を恐れて正義を貫かないことは間違っているのかもしれない。

 だが、当時の私には、それは仕方のないことにも思えた。

 ジャコブが異議申し立てをしなかった最大の理由について、当初は「面倒くさいから」にしようと考えていました。ですが、ジャコブは「表現の自由」や「拷問を受けない権利」が存在しない社会の人間なので、「面倒くさい」よりも「怖い」という感想の方を強く抱くはずだろうということで、今回のような描写になりました。

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