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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第6章 ランドン
69/146

6-2

 マイクロフトが手で隊士たちを静めてから、言った。

「諸君、心配はご無用だ。作戦内容は変わらない」

「小隊長!」

「アドラー嬢もどうかお静かに。貴重なご意見をありがとうございます。しかし、略奪が許可されたのにはちゃんと目的があります。敵軍に加担する商人たちを牽制(けんせい)し、恐怖心を植え付けるためです。決して無意味に乱暴狼藉(ろうぜき)を働いて私腹を肥やそうというのではありません。どうかご理解ください」


 拍手が起こった。

 それが止むのを待ってから、マイクロフトがメモを広げて組分けとそれぞれの配置を読み上げようとしたとき、ゴリッと骨の鳴る音がした。

 マイクロフトが言葉を切り、その場が水を打ったように静かになった。

「俺もメアリーと同じ意見だ」

 ニコラスがぼそりと言った。

「盗賊の真似事は気が向かん。俺は降りる」

「おいおい!」

 ニコラスが演習場から立ち去ろうとしたので、マイクロフトが走り寄って肩を掴んだ。

 私はマイクロフトが(あわ)てているのを初めて見た。


「とりあえず待て。話し合おう」

 マイクロフトは焦る気持ちを表に出さないようにかなり頑張っており、必要以上にゆったりした口調になっていたが、顔から血の気が引いているのは隠せなかった。

 ニコラスがマイクロフトに歯向かったことなど今までなかったのだろう、と私は思った。

「これは軍としての作戦行動だ。いくらお前でも勝手に離脱すれば命令無視として懲罰(ちょうばつ)の対象になる。そうなれば、俺がお前を罰しなくちゃならない。そうはさせないでくれ」


 マイクロフトにニコラスを罰する権限が認められているのは当然だが、物理的暴力の点で実際にそうすることはできるのだろうか、と私は(いぶか)しんだ。

 そこで気付いた。

 マイクロフトが本気でニコラスを罰しようとすれば、どう考えてもひとりでは手に負えないから、彼の部下が駆り出されることになる。

 それは他ならぬ私たちのことだ。

 だが、私たちが束になったところで、果たしてニコラスをどうこうできるのだろうか。


 ニコラスは何も言わずに、マイクロフトの顔をじっと見つめた。

 マイクロフトもしばらくの間は何も言わなかったので、2人の間に異様な緊張感が(ただよ)った。


「俺の生い立ちのことは話したな?」

 先に口を()いたのはニコラスだった。

「分かってる。お前は盗賊を憎んでる」

 マイクロフトが答えた。そして、丁寧に言葉を選びながら続けた。

「だが、俺はお前に盗賊になれと言ってるんじゃない。あくまで少しの間だけ、そのフリをしてほしいだけだ。大事なことは俺たちの敵を助けないことだ。今回の作戦は、そのための最善の方法なんだ。今回相手にする連中は、俺たちがちょっと盗賊のフリをして怖がらせれば、それでもう俺たちに手を出してこなくなる。この任務にお前が参加してくれれば、確実に敵を弱らせることができる。逆に、参加してくれないと敵を喜ばせることになる。今回はそういう仕事なんだ」


 ニコラスはまたしばらくマイクロフトの顔を見つめたが、何も言わずに自分がさっきまで整列して立っていた場所に戻った。

 私には表情の変化に(とぼ)しいニコラスが本当に納得したのか疑問だったが、マイクロフトはこれで満足したらしく、安堵して演説台の上に戻った。

 マイクロフトは具体的に作戦内容を変更した訳ではなく、自分たちとしても略奪行為をしたいのではない、作戦だから仕方ないんだ、という印象を与えただけですが、ニコラスは懐柔されてしまいます。これは、ニコラスの頭があまり良くないからでもありますが、彼がマイクロフトに絶大な信頼を寄せているからでもあります。

 今回はそういうエピソードであり、わざとやっているので、あしからず。

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