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ダームガルス戦記  作者: あじさい
第5章 ガース その2
65/146

5-10

「参考までに伺いますが」

 マイクロフトが要らぬ前置きをしてから尋ねた。

「先ほどのお話では、この4人についてもドクターの説を適用して分類することができるんですよね?」

「もちろんだ。モルリークと第2王女殿下は土属性、バルヴァン侯爵は火属性、タッシベル伯爵令嬢は風属性だ。神話や伝承の英雄たちも、未来を予知した占い師のような根拠薄弱な例を除けば、火・風・土・水のいずれかの属性に割り振ることができる」


 初めて会った夜、リジーは、聞いた話として雨を降らせる魔法や人を弱らせる呪いの話をしてくれたが、バルディッシュの前ではそういった魔法の話をしなかった。

 それはおそらく、バルディッシュが4属性説を強く支持し、それにそぐわない神話や伝承を「根拠薄弱」として却下する姿勢を見せたからだろう。

 リジーはバルディッシュにわざわざ異議を唱えるのを億劫に感じて口を噤んだに違いない。

 私もリジーから聞いた話しか知らないので、彼女が何も言わないなら口を出さないでおこうという判断をしたし、それはマイクロフトも同じだっただろう。


 代わりに、マイクロフトはこう言った。

「半神の弱点についてのお話でおっしゃっていた『土属性』というのは、モルリークや第2王女のことだったんですね」

「ついでに言えば、ニコラス・ハーディングのことでもある」

 バルディッシュが言った。

「常人では考えられないほど高い身体能力と治癒力を持っている超能力者を、私は土属性に分類している。古代の英雄バレンシアもそうだ。彼は武術に卓越していたが、どんな武器でもその体を傷つけることができないとも言われていたらしい。ここにいるニコラスもそうだと聞いているが、どうかね?」

 ニコラスはどちらともとれる生返事をした。

「ニコラス、いつか俺たちに見せてくれたのと同じように、ドクターにも見せてやってくれないか」

 マイクロフトに促されて、ニコラスは立ち上がり、腰から短剣を抜いて左腕に線を引いた。

 いつか私も見たように、傷はすぐに閉じて、流れるはずの血は一滴もこぼれなかった。

 この光景を初めて見たバルディッシュは、しばらくの間、言葉もなかった。

「いや、研究はしてきたが、実際に見るのは初めてだ。ありがとう、ニコラス」

 バルディッシュが礼を言った。


 しかし、土属性が高い身体能力、火属性が雷を降らせる能力、風属性が念動力(サイコキネシス)を備えていることは分かったが、気になることが残っている。

「ドクター、触れただけで他人の病気やケガを治す能力は、どの属性に含まれるのですか?」

 マイクロフトも私と同じ疑問を抱いていたらしく、バルディッシュに質問した。

「救世主の能力か。救世主は超能力者や半神ではなく神自身と同一とされているが……」

 バルディッシュは視線を泳がせて(人間は嘘をついたときに限らず考え事をすると目を泳がせることがあるらしい)、リジーに目を留めた。

 まるで初めて彼女の存在に気付いたかのような顔だった。

「ひょっとして、エリザベスはそういう能力の持ち主なのか?」

「はい、そうです」

 リジーが真っすぐに答えた。バルディッシュが息を呑んだ。


「見せてもらっても構わないかね?」

「あたしは構いませんけど……」

 間髪入れずにマイクロフトが足から短剣を引き抜いた。

「ジョン!」

 ニコラスが(とが)めるような声を出した。

 そして、スタンリーをちらりと見てから、私に目を留めた。

 言わんとしていることは分かった。

 私も自分が体を傷つける役になることに異存はなかったので、マイクロフトを止めようとした。

 だが、そう思っている間にも、マイクロフトは短剣で自分の左腕に線を引いていた。

「このように、半神ならざる私の体からは血が流れます」

 床に滴る血流を見ながら、マイクロフトが落ち着いて言った。

「リジー、いいかな?」

「うん」

 リジーがマイクロフトの肩に触れると、彼の傷が閉じた。

 バルディッシュはすっかり興奮していた。

「いやはや、これはこれは! そうか、水属性は他者を癒す能力なのか。てっきり雨を降らす能力だと思っていたが。しかし考えてみれば、他者を癒す能力こそ、生命の活力であり血潮である水の属性にふさわしい!」

「お褒めにあずかり光栄です」

 リジーはとても誇らしげにニコニコしていた。

 だが、たぶん褒められた訳ではないんじゃないかと私は思った。


「ドクター、半神が皆、自己治癒能力を持っている可能性はありますか?」

 マイクロフトが恐ろしいことを訊いたが、

「いや、それはないだろう。ダームガルスの伝承に火属性の半神キューロットと風属性の半神ロザリンドが出てくるが、キューロットは毒を飲まされて、ロザリンドは酔い潰れたときに寝首を掻き切られて死んでいる。治癒能力があればそうはならないはずだ」

「それを聞いて安心しました」

 マイクロフトが言った。

 半神というものはろくな死に方をしないみたいだな、と私は思ったが、マイクロフトはその点には触れず別の質問をした。

「半神の弱点についてですが、土属性の半神は体の一部を傷つけられるとその力を失うとおっしゃいましたね? 具体的にはどこのことですか?」

「踵や背中など、英雄によって異なる。事例が少ないから何とも言えないが、おそらく規則性はない」

「ニコラス、お前にも弱点があるのか?」

「首を飛ばされたら死ぬんじゃねぇか」

「いや、たぶんそういうことではないと思うんだが……。まあ、試す訳にもいかないし、実際に傷つけられるまで分からない、ということだな。それはモルリークも同様なんだろう」

 マイクロフトはバルディッシュに礼を言って質問を終えた。

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