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「話を戻しましょう。ドクター、帝国の半神について教えてください」
「ダームガルスにいるというもうひとりの超能力者は、バルヴァン伯爵だ。閣下は雷を操るらしい」
私はバルディッシュがダームガルスの貴族に敬称を使うことに違和感を覚えた。
だが、後に知ったところでは、軍人がそうでないだけで、当時を生きた人々にとっては敵国人であっても貴人には敬称を使う方がむしろ普通だった。
「閣下がディルムセン伯爵と争った『ガルベルトの戦い』と、ディストロリス大公国を攻めた『アグレナンツの戦い』では、敵軍の将兵に雷が落ち、それを見た兵がこぞって逃亡する事態になったと聞く」
そりゃ、自軍の指揮官たちに立て続けに雷が落ちれば真っ先に天罰を疑うだろうから、逃げ出したくなる気持ちも分かる、と私は思った。
「現在は、ディストロリス併合の功労者として、かの地の統治と反乱鎮圧の任に当たっていらっしゃるとのことだ。
3人目はダームガルスの第2王女ツィーノ殿下だ。武術に秀でた第1王子のエルロイド殿下も彼女には勝てないという話を聞くに、おそらく超能力者だろう。
最後のひとりはタッシベル伯爵のご令嬢だ。まだ幼く、伯爵も表に出したがらないが、不思議な力を持っているらしい。噂では、手を触れることなく物体を宙に浮かすことができるらしい」
タッシベル伯爵の娘がその幼さを理由に血生臭いことから遠ざけられているのは良いとして、彼女を除いても3人もの半神がいるのに、なぜ今まで我々の前に出てきたのがモルリークだけなのだろう、と私は疑問に思った。
だが、マイクロフトはその点に触れなかった。
後日スタンリーがスパイからの情報を基に解説してくれたところでは、これにはダームガルス帝国内の権力争いが関係していた。
つまり、ディストロリスとの戦争の際、帝国軍は半神の力に頼りすぎた。
その結果、半神たちを率い、自らも半神である第2王女の人気が、国王の地位を脅かすまでに高まった。
そこで、現国王と次期国王に内定している第1王子エルロイドは、自分たちも何かしらの功績を達成しておこうと考えて、我がウベルギラス王国との戦争を始めた。
半神の勢力に対抗することが目的の戦争なので、半神に頼っては本末転倒だということで、第2王女もバルヴァン侯爵も旧ディストロリスの地に釘づけにされた。
だが、ダームガルス軍は「ホリウスの戦い」で惨敗し、ニコラスという脅威を前にして、早くも窮地に立たされた。
そこで、ランドン辺境伯のローラスがモルリークを呼び寄せた。
ローラスの見込みでは、身分が卑しいモルリークであれば、戦果を上げても他の兵士たちがそれによって彼を慕うことはないし、彼自身も、無学だから政争に興味を示さないはずだった。
どれだけ功績を立てても、身分のせいで味方からも蔑まれ続けるのだから、考えてみれば憐れな話である。




