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宿営地に戻った我々は、将校たちが客間代わりに設置した大型テントに、バルディッシュを案内した。
スタンリーがバルディッシュに席を勧めてからマイクロフトを呼びに出ると、老学者は腰を下ろしてすぐに私に話し掛けた。
「君、ハーベイくんと言ったね、すまんが何か酒を出してくれないか?」
このテントに入るのは初めてだったので、私は棚の酒を勝手に使ってよいものか分からなかった。
そのことを話すと、バルディッシュは初めて私を見たような顔をして、「君は思いの外、論理的な受け答えをするね」と宣った。
やがて、パンがこれでもかと入ったバスケットを持ったスタンリー、マイクロフトに続いて、リジーがテントに入ってきた。
「よう、ニコラス、ジャコブ」
リジーが快活に挨拶した。
「おう、リジー」
私は、ニコラスが手を挙げて挨拶を返したのを横目で見ながら、返事をした。
ニコラスはスタンリーからバスケットを受け取ると、その場に胡坐をかいてパンを貪り始めた。
マイクロフトが、ニコラスの無作法な振る舞いを全くもって無視し、バルディッシュに敬礼してから口語で言った。
「ドクター・バルディッシュ、お待たせしました。私はカストバーグ子爵ジョン・マイクロフトです。こちらはエリザベス・フォスター、我が軍が誇るもうひとりの半神です」
「お、そうか。まさかこんな若い娘さんだったとは」
バルディッシュはリジーを紹介される前から、王国軍にはニコラス以外にもうひとり半身がいることを知っていた様子だった。
考えてみれば、少し前まで国王が指名手配して彼女を探していたくらいだから、バルディッシュが彼女の噂を知っていても全く不思議はなかった。
マイクロフトがバルディッシュの正面に腰を下ろした。
「早速ですが、ドクター、あなたの研究についてお訊きしたいことがあります」
マイクロフトが詰問態勢に入ったが、老学者は手でストップをかけた。
「その前に、酒を頂けんかね?」
「これは失礼しました。ジャコブ、棚から果実酒と盃を、ドクターに」
棚の一番近くに立っていた私が小間使いになるのは仕方なかった。
私は慣れないながらも棚から果実酒の瓶と盃を取り出し、盃に果実酒を注いでから、バルディッシュの前に置いた。
バルディッシュは一口で盃の果実酒を飲み干し、自分で瓶から2杯目を注いだ。
「これは上物だね」
「ありがとうございます。えー、質問を始めてよろしいですか」
「何だね?」
バルディッシュは2杯目もあっという間に飲み終えた。




