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「ニコラス・ハーディング、だね?」
しばらくの沈黙の後、バルディッシュが呟くように言った。
スタンリーに合わせたのか、貴族や学者の共通語である神聖語ではなくウベルギラスの口語だった。
「なるほど。常人とは違うオーラを放っている。君に殺されるのが私の人生の幕引きなら、それもまた一興かもしれんな」
ダメだ、こいつも勘違いしている。
「ドクター、私たちの目的はあなたを殺害したり拷問したりすることではありません。私たちはただ、先生にガースの宿営地までご同行いただいて、平和的にお話を聞かせていただきたいのです」
スタンリーが言った。
バルディッシュはスタンリーを上から下まで眺め回してから言った。
「私を追放したのはそちらだ、ウベルギラス軍の諸君。それを今頃になって呼び戻すなど、私の知識がダームガルスに流出することを恐れて私を殺しに来たと考えるのが、自然というものだろう」
「そんなことありませんよ。ですが、分かりました。先生の自由を保障することを明確にするために、今回は我々の宿営地まで来ていただく必要はありません。ここでお話を聞かせていただきます」
「ジジイ、よく考えろ」
急にニコラスが口を挟んだので、私は驚いた。
「もし俺たちが手前を殺すつもりなら、どっちにしろ手前は死ぬ。俺が逃がさねぇ。手前が殺されねぇとしたら、俺たちに従うときだけだ。殺すのが惜しいと思わせるためには、本当のことを話してるってことを分からせることだな」
私たちの前でニコラスがここまで長く話したのは、これが初めてだった。スタンリーも驚いてニコラスを見ていた。
「俺はイライラしてんだ、朝飯を食えなくてな。それがこんなジジイのご機嫌を取るためときたらなおさらだ」
ニコラスがようやく口を閉じた。
重い沈黙だった。
風が吹いて山の木々がさわさわと音を立て、飛び立つ鳥たちの鳴き声が響いた。
「分かった、君の言う通りだ、ニコラス」
バルディッシュが観念して言った。
「どこへなりとも連れて行ってくれ」
念のために言っておくと、ニコラスに「ジジイ」と発言させたからと言って、作者の側に高齢者をバカにする意図はありません。
ニコラスは自分と親しくない人間みんなのことを、戦闘力の低い「ザコ」として軽視しています。今回の「ジジイ」発言もそういった彼の性格によるものと考えてもらえれば幸いです。




