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後に、スタンリーが作成していた資料を見る機会があって知ったが、バルディッシュは王立図書館を追放された当初は宿屋を渡り歩いて生活したらしい。
だが、長期滞在した街で、部屋に引き籠ってばかりいる飲んだくれだと邪険に扱われたことがきっかけで、人里離れた山小屋に潜伏するようになった。
学者らしい向上心の裏返しとして、彼は無知蒙昧で不勉強な民衆を見下しており、その民衆から軽蔑される状況に耐えられなかったようだ。
スタンリーに先導されてたどり着いた山小屋は、人間嫌いの羊飼いが手作りして籠ったウサギ小屋という印象だった。
たぶん何年も空き家になっていたところにバルディッシュが勝手に住み着いたのだろう。
私たちが普段見てきた石造りの建物に比べると、あまりにも儚かった。
黒ずんだ木の壁は、至る所に隙間が生じていた。
戸口に立ったニコラスが「酒臭ぇな」と呟いた。
スタンリーは礼儀正しくノックしたが、バルディッシュの返事を待たずにニコラスが戸を開け放った。
狭い小屋を内側から見ると、なお一層みすぼらしかった。
床は3分の1が木製のベッドで占められていた。
ベッドと言っても、何枚かの板の上に毛布が置いてあるようにしか見えないが、どうやらこれが寝床らしい。
残りの床は、散らかり放題のメモ書きと空の酒瓶で覆われていた。
壁の穴から日光が差し込み、酒瓶に反射していた。
バルディッシュは頭頂部がテカテカに禿げ上がった赤ら顔の老人で、床の上に胡坐をかき、右手に酒瓶を握り、左手の指にペンを挟んで、頬杖をついていた。
「お初にお目にかかります。ドクター・バルディッシュ、お聞きしたいことがあって参上しました」
深刻な顔でバルディッシュを睨みつけるニコラスの肩越しに、スタンリーが言った。
ニコラスは初対面の人間に対しては険しい顔で睨むのが常だった。
バルディッシュは口を開きかけたが、何も言わずにまた閉じた。
そして、神妙な顔つきになって、酒瓶を置いて立ち上がった。
ふらついてはいなかった。
スタンリーから学者と聞いたとき、私は勝手な偏見から、頭でっかちで色白で白髭を蓄えた小男を想像していた。
だが、実際のバルディッシュは大柄で手足が長く、短い無精髭を生やして、擦り切れた赤い服を着ていた。
猫背で顎を前に突き出していたため、実際には見た目よりもさらに長身だったのだろう。
顔には神経質な性格を示す深いしわが刻まれていたが、鼻と頬が赤いせいで威厳が損なわれていた。
体の贅肉が全体的に垂れ下がり、かつては裕福な生活をしていたものの最近は食べ物にありつけなくなったという具合に見えた。
右手に比べて、ペンを持つ左手が不均衡に大きかった。
左利きで、今でも頻繁に書き物をするらしい。
陰鬱な目は、どうやらニコラスをじっと見ているらしかった。
なんでこいつらは睨み合っているんだろう、と私は思った。




