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マイクロフト小隊ではほとんどの隊士が6人の班ごとにテントを与えられて寝ていたが、ニコラスは小さいながらも専用のテントを与えられていた。
私たちが奴のテントの前に立つと、まるで待ち構えていたかのようにニコラスが顔を出した。
「ホリウスの戦い」の後もそうだったが、この男はどうやら戦闘の後は1週間ほど食うか寝るかで過ごすらしく、このときも寝起きのようだった。
ニコラスには2つの取り柄があった。
ひとつは怪物のように強いこと、もうひとつはうるさくないことだ。
スタンリーに一言二言促されただけで、この男は何も訊かずに、朝飯抜きにされたことの文句も言わずについてきた。
宿営地を出て、山道を歩き、いくつかの村を抜け、目的地であるストラスガードが見える頃になって、ようやくこの男は疑問を口にした。
「殺るのはどいつだ?」
「いや、俺たちは殺しに行くんじゃないよ」
「……じゃあ何だ?」
「俺たちはバルディッシュを訪ねる」
「三日月斧? そんなもん――」
「魔法研究の第一人者だった男で、この町の西はずれの山小屋に潜伏している。彼なら、モルリークのようなことがあったときの対処法を知っているかもしれない」
想像していた用事とちょっと違っていて、正直なところ私は戸惑った。
ニコラスが大真面目な顔で尋ねた。
「『せんぷく』って何だ?」
「……隠れて暮らすこと」
「学者先生なのに山小屋に潜伏してるのか?」
私が疑問に思って尋ねると、
「ああ、大酒飲みだから、王立図書館を追放されたんだ」
スタンリーはさらりと答えた。私の疑問はかえって深まった。
「なんでわざわざそんな奴の所に行くんだ? 学者先生なら教会にいるだろ?」
当時、学問は教会の仕事だった。
神学があらゆる学問の王として君臨していたからだ。
王立の図書館も基本的には聖職者たちが管理・運営していた。
「教会は裏でこそ魔法や半神の研究を進めているようだが、表向きには、一部の例外を除いて、魔法についても半神についてもその存在を認めていない。だから、教会の司祭を訪ねても魔法について教えてはくれない。その点、図書館を追放されたバルディッシュなら、我々に必要な情報を話してくれるだろう」
「協力してくれるかな?」
「あまり金持ちではないから、今頃は生活に困っているはずだ。衣食住の世話をしてやると言えば大丈夫だろう」
「それで、なんでこいつを連れてきたんだ? ジョンはどした?」
ニコラスが親指で私を指差して、唸るように言った。
「小隊長は忙しくてしばらく軍を離れられない。ジャコブを連れてきたのは、バルディッシュが俺たちに同行するのを拒否したときのためだ」
「……」
「俺たちはバルディッシュに宿営地までの同行を頼むつもりだが、極力強引な手は使わないようにとも言われている。もしバルディッシュが同行を拒否したら、魔法についての話は俺たちがその場で聴くことになっている。その場合、ジャコブもいた方が都合がいい」
「そうなのか?」
私が尋ねると、スタンリーは頷いて、
「話を聞くのが俺ひとりだと、聞き洩らしや誤解があるかもしれないし、俺が小隊長に嘘をついても簡単に誤魔化せてしまえるから、こういうときは2人以上の方がいいんだ。ニコラスは頭数に入ってない。学者の話を聞いてちゃんと理解できるか怪しいからな」
「じゃあなんで俺を連れてきたんだ?」
ニコラスの訊き方は、怒っている訳ではなく、本当にただ疑問に思っただけという様子だった。
「君がいた方がバルディッシュが喜ぶだろうからさ」




