4-10
リジーは青年が歩き去るのを見送ることもなく、私が今さっき歩いてきた道を歩いて行った。
私がついていくと、彼女は振り返って笑みを向けた。
「メアリーから聞いたよ、『バルディベルグの悪魔』をやっつけたんだってね!」
「あ、いや、俺は特に何もしてないけどな」
「ここはいいから、宴会に行きなよ。みんなもあんたのこと待ってるよ」
「いや、俺も手伝うよ」
「手伝うことなんてないよ」
リジーはやんわりと言った。
「それとも、あたしの治癒魔法だけじゃ心配?」
私が否定する前に、彼女はまだ生きている重傷者を見つけて、その傷口に触れた。
傷は閉じたが、彼はまだ苦しそうにぐったりしていた。
「間に合わなかったのか?」
私はリジーの小さな背中に向かって尋ねた。
リジーはぐったりしている兵士に顔を向けたまま、今度は彼の胸に触れた。
「大丈夫、まだ生きてる。肺に血が入っているから呼吸が苦しいだけ」
見ていると、血まみれの兵士が涙を流して、リジーと神に感謝の言葉を述べた。
どうやら助かったらしい。
「立てる?」
リジーが尋ねると、兵士は本当に自分の力で立ち上がった。
私も驚いたが、本人がいちばん驚いていた。
この兵士もお礼を繰り返しそうだったが、リジーは早々に彼を振り払って再び歩き始めた。
「メアリーは無事か?」
私は彼女の背中に尋ねた。
リジーは振り返った。
「うん。鼻がペシャンコだったけど、あたしの魔法で元通りだよ」
「そうか、良かった」
私がそう言うと、リジーは少し誇らしげだった。
結局、生き残った王国軍兵士たちが負傷者と仲間の遺体を後方支援部隊に預けて宴会を始めた後も、私はリジーの後ろをついて回った。
私にできることと言えば非常に些細なことだけだった。
せいぜいが、早い者順に並ばされている負傷者の列から重傷者を見つけ出して、リジーの近くに移動させることだった。
それに、私が手伝わなくても、彼女の治療を受けた連中がいくらでも助力を名乗り出た。
それでも、仕事が一段落した後、リジーは私に礼を言ってくれた。
リジーをバーバル小隊の女性用テントの手前まで送り届けて、私が医療班を後にしたときには、東の空が白んでいた。
つまり、戦闘があってから日が暮れて、夜が更けて、ついには新しい朝を迎えようとしていた訳だ。
そりゃ、疲れるはずだ。
私がマイクロフト小隊の宿営地を探し当てると、彼らはまだ騒がしく酒を飲んでいた。
この世界にはこんなに元気な人種もいるんだ、と私はぼんやりした頭で思った。
私は眠りたくて仕方なかったが、バカ騒ぎしていた連中のひとりが、私の名前を叫びながら体当たりしてきた。
疲労困憊の私は、その勢いを受け止めきれずに倒れ込んだ。
気が付くと、アニーが私に抱きつき、見知った顔の男たちが私たちを取り囲んでいた。
「ジャコブ! ジャコブが生き返った!」
「ジャコブが生き返ったぁ! 万歳!!」
彼ら彼女らはすっかり出来上がっているようだった。
「1回も死んでねぇよ」
そう呟いた後、私はやっとこの状況を理解し始めた。
どうやら、ずっと医療班の仕事を手伝っていて宴会に顔を出さなかったせいで、私はモルリークを撃退した後に流れ矢か何かで死んだと思われていたようだ。
アニーがこの場にいる理由はこの際どうでもいい。
「ジャコブ復活記念だ、乾杯!」
ナヌラークが音頭を取ると、小隊の皆が「乾杯!!」と大合唱した。
アニーは私の腹の上に尻を下ろして、まだ倒れたままの私に、サマセットが差し出した盃のビールを飲ませようとした。
当然、私の顔にビールがぶちまけられる結果に終わった。




