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モルリークを倒して敵は総崩れ、という具合にはさすがにならなかったが、モルリークが撤退し、ニコラスが先頭に立ち続けたことで、全軍の士気は上がった。
敵軍の多くは城壁の内側に退却した。
我が軍も深追いはせず、城壁の前で布陣するにとどまった。
城壁にあまり近づきすぎると、矢と槍の雨を浴びることになるからだ(城塞都市ランドンを包囲するには兵が足りなかった)。
戦闘が落ち着いて我が軍が勝利の歓声を上げたとき、私は戦場の片隅で、足を負傷した兵士のひとりに肩を貸しながら、後方支援部隊を目指していた。
私は既に2人の負傷者を後方支援の医療班まで届けた後で、少し疲れていた。
私と同じく十代後半で前線に立った彼は胸と右足に大きな切り傷を負っており、胸の傷を押さえながら私に礼を言った。
彼は弱々しい声で何事か私に話そうとしたが、私は彼を黙らせた。
しゃべることで体力を消耗し、具合が悪くなる恐れがあったからだ。
私も人の子なので、苦痛に呻く仲間たちを尻目に歩き続けるのは心が痛んだ。
横を通り過ぎるだけならまだしも、時には遺体を踏み越えていく必要もあった。
「おい、兄弟、お前はツイてるぞ」
私は肩を貸している青年に言った。
下を向いていた青年が顔を上げた。
私たちの視線の先には、血まみれで倒れている重傷の兵士に治癒魔法を施しているリジーがいた。
私が声を掛けると、リジーは顔を上げて、はっと息を呑んだ。
「ジャコブ!」
リジーは駆け寄って、私の肩を掴んだ。
あまりに勢いが強くて、私は少しよろけてしまった。
「大丈夫? 治った?」
「落ち着け、リジー。危ないのはこいつだ」
「あ、そうなの?」
リジーが青年に触れると、あっという間に彼の傷が閉じた。
青年はすっかり元気になって、ひとりで立つと、リジーの手を両手で丁寧に握って、涙を流しながら彼女と私に礼を言った。
「ありがとうございます。あなたは慈悲深い天使様です」
「そんな大したもんじゃないよ」
青年はお礼を繰り返してリジーの手を放そうとしなかったが、彼女は先を急いでいるようで、
「他にも助けを待っている人がいるから、あたしはこれで」
と言って手を振り払った。
「ぜひお名前を教えてください、天使様」
「天使じゃない、リジー・フォスターだよ」
「ご恩は一生忘れません」




