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「ところで、リジー、バーバル小隊の仕事は構わないのか?」
私が尋ねると、リジーはようやく不穏な話題から抜けられると思ったのか、安堵した顔で答えた。
「明日は戦だからね、今日は特別に抜けさせてもらって、マイクロフト小隊のみんなの様子を見て回ってるんだ」
これが最後になるかもしれないから――とリジーが続けることはなかったが、そういう含意があることは間違いなかった。
また空気が悪くなりそうだったので、私はそれには触れないようにした。
「みんな生傷だらけで驚いただろ」
「うん、ちょっと見ない内にね。あんまり無茶な訓練はしないでほしいんだけど……。そうだった! 今日はみんなのケガを治して回ってたんだ。ジャコブ、手貸して」
私はリジーと握手をした。
すると、全身の擦り傷や打撲が治り、体が軽くなった。
相変わらず凄すぎて、私は思わず笑ってしまった。
「ん? 何やったの?」
事情を知らないアニーが(機嫌を直して)尋ねてきた。
リジーが何も言わずに手を握ると、アニーも感嘆して笑い声を漏らした。
「すごい、体が軽くなった! 何これ?」
「生活を豊かにするちょっとした魔法」
「すてき! あたしも使いたい!」
「やり方は秘密」
リジーはそう言っていたずらっぽく笑った。
メアリー、ヴィンセント、アナン、ヴォルフガング、ケビンの手を握って5人にも治癒魔法を施した後、リジーは私たちを食事に誘った。
治癒魔法を施してもらった後に模擬戦をして生傷を作るのも申し訳なかったので、私たちは少し早いが夕食を取ることにした。
ニコラスは何も言わずに立ち去ろうとしたが、リジーに「せっかくだからニコラスも一緒に」と誘われては断れないようだった。
戦の前日ということで、その夜の食事は大盤振る舞いだった。
たしかに、ニコラスは仏頂面だし、ケビンはニコラスを怖がって委縮するし、メアリーはいつまでもニコラスにご立腹という具合に、盛り上がりに欠ける部分もあった。
それでも、リジーとアニーがすっかり意気投合したり、
私たちがうっかり飲ませすぎたせいでヴィンセントが高笑いを止められなくなったり、
ヴォルフガングが地元の乙女に恋した話をアナンが暴露したり、
私が用心棒時代の武勇伝を話したり(笑ってほしいポイントでもリジーは頑なに笑ってくれなかったが)、
調子のいい連中が私たちのささやかな宴席に加わったりして(彼らは女性陣に対してデリカシーのない発言ばかりだったが)、私たちはそれなりに食事を楽しんだと思う。
スタンリーがマイクロフトに代わって就寝の指令を出したとき、リジーが目に涙を浮かべて、私たち一人ひとりの手を握りながら言った。
「みんな無茶しないで、無事に生き抜いてね。ケガしてもあたしが治してあげるから、諦めないでね」
マイクロフトの読み通りなら、マイクロフト小隊の隊士はモルリークと戦うことになる可能性が高い。
そうなったときに果たして生き残れるのか。
態度には出さないように努めていたが、私は内心ではずっと憂鬱だった。
私はリジーからもらい泣きしないように腹に力を込めた。
ヴィンセントはすっかり場の雰囲気に呑まれて、今度は泣き上戸になっていた。
「リジー、わたくしたちだって過酷な訓練に耐えてきたんですもの、きっと大丈夫ですわ」
リジーと抱擁を交わして、メアリーが言った。
リジーは最後にニコラスと握手した。
「ニコラス、みんなのこと頼んだよ」
ニコラスが乏しい表情のまま何も言わないので、リジーが「頼んだよ」と念を押した。
「確かなことは言えねぇが、努力はしよう」
リジーにしてもニコラスにしても、冗談や気休めが言えないタチなんだな、と私は思った。
「あんたたちに、神様のご慈悲があらんことを!」
翌日、私は懸念していた通り、モルリークと出会ってしまった。




